昼間はいろいろと用事をこなし、夕方向かったのは名鉄ホール。
昨日に引き続き本日も観劇なのです。
今日は私が去年初めて観た、東京セレソンDXの新作です。

くちづけ「くちづけ」名鉄ホール6列目
17:00開演、19:15終演
作・演出:宅間孝行
出演:宅間孝行、加藤貴子、石井愃一、芳賀優里亜、伊藤高史、須加尾由二、大見遥改め大見久代、尾畑美依奈、たなか たく、菊池優、東風万智子、藤吉久美子、金田明夫
【あらすじ】
知的障害を持つ子供たちのためのグループホーム「ひまわり荘」。そこの入所者のうーやん(宅間孝行)は他の仲間と部屋を飾り付けている最中だった。今日は、うーやんとまこちゃん(加藤貴子)が結婚するんだという。でもこのホームには大人は誰もおらず、電気も止められている様子。そこにうーやんの妹の智ちゃん(東風万智子)がやってきた。「お兄ちゃん。お兄ちゃんは、まこちゃんとは結婚できないの。まこちゃんは、もうこの世には居ないから・・・。」


昨年観たセレソンDXは、かなりベタベタな内容だけど温かい作品で
初名古屋公演だったのにもかかわらず、全公演ほぼ満席。
その状態に宅間さんが感動してくれて、「また来年来ます」と
言っていた、その公演でした。
あまりにベタベタな内容が続くと、ちょっと・・・とは思ったのですが
新作でもあるし、東風万智子(真中瞳)はなかなか好印象の
女優さんでもあったので、行ってみよう!と思っていたのです。
名鉄ホールなんて、昨年のテレピアホールの倍ぐらいの大きさ。
なのにほぼ満席なのにビックリ。(年齢層が高いのにもビックリ)
後から調べたら、他の回(私は名古屋千秋楽を観た)もほぼ満席
だったそうです。

前回のレポを自分で読んで思い出しました。
個人的な感情で、あまり素直に観られなかったんだ、この劇団。
でも今年はそんな事も忘れてたので、素直な気持ちで観られました。
非常に難しいテーマに取り組まれたな、と思いますが
素直に泣けました。金田さん、素晴らしすぎです。

予定調和なアンコールやスタオベは、「ああ・・」と思ってしまいますが
今回は本当に温かい拍手とスタオベでした。
(一部立っていない人も居たのが、とても健全な事だと思いました)
名古屋では「よかったぞ!」とか掛け声が掛かる事は少ないですが
今回は何度も掛かっており、笑顔だったキャストの皆さんが
カーテンコールで一斉に目に涙を溜めて驚いてくださったのが
観客としても嬉しく感じました。
私たちが「良かったよ」という気持ちを拍手にこめて伝えて、
その思いをキャストの皆さんがきちんと受け止めてくれたっていう感じ。
この場に居られて良かったな、と思える一瞬です。

WOWOWの放送でどこまでこの暖かさが伝わるだろう・・・
と思う部分もありますが、多くの人に観てもらいたいお芝居です。
私ももう1回観たいし。放送日を忘れないようにしなくちゃ。




このフライヤーのマンガ、今となってはすごく切ない。泣ける絵です。
何故このマンガなのか?は最後まで見ると分かります。

グループホームで生活する20代〜40代の3人の入居者。
いずれも知的障がいがあり、言動は子供のよう。
中でも、感情を爆発させると止まらない時があるが、基本的には
明るくてムードメーカー的な存在な35歳のうーやん(宅間孝行)は、週に
1度会いに来てくれる唯一の家族、妹の智ちゃん(東風万智子)が大好き。

ある日、「ひまわり荘」に父娘が尋ねてくる。
父は“愛情一本”というペンネームを持つ漫画家(金田明夫)。
昔はヒット作もあったが妻を亡くし、娘のマコ(加藤貴子)の面倒を
見るために、連載マンガの執筆を諦め、タウン誌にイラストを書き
生計を立ててきていた。
娘は施設に入れても脱走を繰り返すので、入所を諦め、ひまわり荘で
娘とともに住み込みで働くかどうか、見学に来ていたのだった。
パパが大好きなマコは、過去に入所した施設を脱走し、自宅に戻る
途中で暴行され、男性と2人きりになると発作を起こすというのだが、
うーやんをはじめとしたひまわり荘のメンバーとは2人きりになっても
発作を起こすことなく、自然に馴染んでいく。

この“うーやん”や、マコちゃん達の演技はすごいと思いますよ。
知的障害者というより、本物の子供を見ているような錯覚を起こします。
(実際に施設に見学に行ったりされたようですけどね)
以前観た「スリーベルズ」の子役の子がカテコで急に泣き始めた時と
泣き方もソックリ。ああ、彼らは本当に“子供”なんだ・・と。
あとね、宅間さんは“うーやん”なのか“宅間さん”なのか、目と声で
分かります。アドリブでチオビタを飲ませようとしたり、チオビタを
吹いたり、サインを書かせたり、金田さんが演技で感情過多になって
泣き出したとき「大丈夫?」と言った時などは間違いなくうーやん
ではなく“宅間孝行”でした。
上手く違いは説明できないけど、うーやんと宅間孝行は明らかに
違うんです。マコちゃんも、あのアニメ声がピッタリでね。
金田さんにピッタリと寄り添っているのが、実にほほえましい。
とにかくいい意味で感情表現が素直です。

最愛の、自分を100%頼ってくれる娘を残して逝かねばならないと
分かった時の父親を演じた金田さんに心を鷲摑みにされるようでした。
金田さんには、同じような状態のお子さんでも居るの?と思う程で。
「お父さんは病気に負けちゃったの」「ずっと一緒に居られないの」と
マコに話すシーンもう本当に切なかった。
あと、初めて他人(編集者)に頼ろうと電話をしたのに、
切り出せなかった時の電話のシーンは見ていてとても辛かった。
急に発作を起こすマコも、すごくリアルで辛かった。
で「これ、現実でも起こりうるよね」と思った瞬間、泣けてきてしまって。
(実際にこの作品、現実にあった事件をベースに宅間さんが
書き起こしたものだと知ったのは、帰宅してからなので。)
余命わずかな親が、1人残される子供の将来を悲観して、手にかけて
しまうのを非難するのは簡単だし、私も決して“正解”ではないと思う。
でも、男性恐怖症で、父親だけを頼って育った知的障害の娘がいて、
財産など残せるものも無く、娘を託せる親族もいない状況で、自分が
あと数ヶ月でこの世を去らなければならないと知った時、他に
どんな解決策が?と問われたら、誰も正解なんか出せない気がする。

今回、全く事前情報を仕入れないまま観に行ったので、
「知的障害の方を扱った話」と分かった段階で正直、「・・・」と
思っていました。どちらかというと苦手なので。
ハンデのある方を扱う作品って、とても難しいと思うし、中途半端に
扱っている作品を観ると、腹が立つと言うよりも醒めてしまうんですね。
実際に、身体的ハンデを持つ同僚と一緒に仕事をするようになって、
何を特別扱いする必要があるんだろう?と実感するようになったから。
もちろん、配慮すべき事はあります。でも背が低い人が高い棚にある
物を取るのを手伝うのと、車椅子に乗っている人が落としたものを
拾う事は同じ感覚だと思うんですよね、実際に。
(一緒に働くようになって初めてそう思えるようになったんですけど)
だから、“特別な人を扱った作品”という臭いがしたところでもう
ウソ臭く思えてダメなんです。

でもね、この作品は事象こそ知的障害のある子供とその親の苦悩
のようなものを扱ってはいますが、基本的には親子愛の話。
親は子供の将来を心配し、子供は無条件に親を信頼し、頼りにする。
障害の有無とは関係ない、とても普遍的な話だと思える作品でした。
また障害を持つ家庭の現実(障害者年金を親が使い込んでしまうとか、
知的障害の親族がいる為に結婚が破談になるとか、グループホーム
の経営が厳しいとか、子供につききりになって働きに出られないとか)
についても取り上げているし、障害のある兄を引き取ろうとする妹を
周りは喜んだり褒めたりするのではなく、何度も「大変だよ」と
忠告している辺りも、美化したり誇張したりしないように真摯に
書かれているという印象を受けました。

でも明らかにアドリブですね?と思う部分も(チオビタの話のあたり)
あり、芝居として笑える部分も結構あったんです。
いきなりチオビタを他の役者さんの顔に吹いちゃって、役者さんが
マジでびっくりしていたり、汚れた床を拭くことに夢中になって
金田さんが台詞を忘れて「何の話をしてたっけ」なんて言ったり、
名古屋弁を織り交ぜてくれていたりもしてました。
だから、哀しい・重いという舞台ではなかったのもよかったです。
特に金田さんの演技が印象が強かったのですが、他の人の演技も
とてもよかったんですよ。書くと長くなっちゃうので止めておきますが。

カテコでは飛び跳ねるように前の席の人がスタオベし、後ろ男性も
「(愛情)一本!」「よかったぞ!」と何度も声を掛けてました。
本当に暖かい拍手でいっぱいで、客席を見た加藤さん、金田さん、
宅間さん(他のキャストも)その様子を目にしたとたん、急に目に
涙をいっぱいにして驚いてくれて。
くちづけのツイッターや、セレソンのツイートもチェックしましたが、
このカテコに感動してくれた様子が伝わりました。
泣いているお客さんも多かったですが、会場全体が幸せな雰囲気♪
その後、キャスト皆様のご挨拶もありました。心のこもった拍手って、
観客も分かるんです。

アホアホの「鋼鉄番長」の翌日にこの舞台。我ながら、振り幅広いな(笑)。
宅間さんが「また名古屋に来ます!」と言ってくれたので、また名古屋で
セレソンの次回公演をお待ちしたいと思います。