サルトルかあ、難しそうだなあ。
実存主義かあ・・・。何度聞いてもよくわからんのよね。
と思いながらも、このシーズンの中では観たい1本でした。
キャストも魅力的でしたし。

アルトナの幽閉者「アルトナの幽閉者」新国立劇場
作:ジャン=ポール・サルトル  演出:上村聡史 
出演:岡本健一、美波、横田栄司、吉本菜穂子、北川響、西村壮悟、辻萬長

【あらすじ】
喉頭癌で余命6ヶ月と宣告された父親は、自らが営む造船業の後継者を決めるために家族会議を開く。次男で弁護士のヴェルナーとその妻ヨハンナ、長女のレニが参加する中、父親はヴェルナーに会社を継がせ、さらに自宅に住まわせようとするが、ヨハンナに猛反発される。一同の心に重くのしかかっているのは、長男フランツの存在。彼は13年前にアルゼンチンへと出奔、3年前に死んだことになっていたが、実は第二次世界大戦中に、あることから心に深い傷を負い、以来、妹のレニの世話のもと、ずっと家の2階にひきり狂気の生活を送っていた。フランツを愛する父親の最後の望みは、長男との対面と、彼の世話を次男夫婦がすることであった。ヨハンナの説得により、13年ぶりに待望の対面を果たした父親とフランツ。はたして一家の辿る運命は……。




今回最前列♪
ツイッターでは「新国立小劇場の最前列は初めて」とツイートしたけど、
前にも経験ありました、2回目だと思います。
殆どの劇場で1列目で観た事がありますが、ここの1列目の「目の前」感は
ハンパないですね(笑)。こりゃ寝られないじゃん〜。


感想(と言えるかどうか微妙だけど)はこちら↓




確かにセリフは難解です。セリフ一つ一つの言葉の選択が
難しいというよりは、「で?」と思ってしまうというか。
まあ、要するに理解出来ていないって事なんでしょうが(爆)。

でも、当初不安に思っていた「全然ついていけないかも」という
点に関しては、幸いなことに杞憂で終わりました。

大きな造船所を経営している厳格で家族に対して有無を言わせない
圧倒的な力を持つ父(辻萬長)。
多分、有能な経営者なんだろうなあ、と思える迫力満点。
ナチスドイツ時代、密告する等して上手く世の中を渡ってきた。
残された6か月の余命のうちに、長男と会話をする事を望んでいる。

次男のヴェルナー(横田栄司)は有能な弁護士だが、父親に対して
萎縮しており、突如造船所を継ぐよう言い渡されてしまう。
納得がいかないのだが、父に萎縮し、半分以上諦めている様子。

ヴェルナーの妻ヨハンナ(美波)はかつては女優だったが
心を病んでいたところを、ヴェルナーに出会い救われている。
突然の家族会議の決定は、自分たちの自由を奪うものであり
納得がいかず、義父に猛烈に抗議。自由の為にフランツを
説得するよう交換条件を出される。

長男のフランツ(岡本健一)は勇敢で本来ならば事業の後継者に
適任の人格だったのだが、自宅に逃げ込んできたユダヤ人が
父親の密告により眼の前で殺された無力感、戦争での自分の
行いに対する罪悪感から心を病み、自宅に閉じこもっている。

長女のレニ(吉本菜穂子)は自宅でフランツの面倒をみるのを
自分の存在価値にしている。
ヨハンナとフランツが交流する事で微妙な対抗意識からか
服装が女性らしく変わったりするのだけど、結局フランツと父の
関係を理解していたのはレニだった。

部屋に閉じこもっていたのはフランツだけだったけど、でも
それぞれが、何かしら自分の殻に閉じこもっている人たち。


フランツは自室に閉じこもり、ドイツの弁護する演説をひたすら
録音し続けている。精神を病んでいるとはいえ、言っている事は
必ずしも支離滅裂じゃなく、ちゃんと会話出来ていたりするので
本当に心を病んでいるんだろうか?詐病じゃないか?などと
思ってしまう事もありました。
特にヨハンナに対しては、ごく普通の反応を見せていたように思うので。
でもあれだけのセリフを放つ岡本君は凄いですよね。
元々彼の声があまり好きではないのですが、最近はすっかり
そんな事が気にならなくなってきています。

ヨハンナは、「フランツが部屋から出てきて父親と話したら
彼は死んでしまう」と言う。私は「何で?」と思っていたのだけど
結局、まさにその通りになった訳で・・。
心を病んだ人だからか、フランツと同じ部分があるから、
フランツの事を理解できたのかもしれないですよね。
美波の今にも壊れてしまいそうな儚さがピッタリでした。
またいい意味での“異物感”を醸し出していて、「家族」とは違う、
と言う事を理解しやすくなっていたと思います。

父親は、全てを分かっていて、その上でフランツを庇護していた。
フランツは父親に思い切って自分の罪を告白したが、父は既に
それを知っていて、自分を守るために死亡届まで出してくれていた
と知りショックを受ける。
お互い通じ合うものがあったからこその最後の「二人のドライブ」。
このラストの二人のやり取りが、本当に迫力があって見応えも
バッチリですごかったですね。
親子だから分かり合える部分と、親として責任を取ろうとする部分、
言葉にはしなくとも、すべてが含まれている感じがしました。

どちらかと言うとこの一連の騒動に対して部外者のような
位置づけで居た次男のヴェルナーが、最後にフランツの残した
指輪を見つけ、全てを引き受けるかのように自分の指に
その指輪をはめる。
ああ、この人もやはり、逃げてはいたけど、分かっていたんだな
家族だったんだな、等と思ってしまいますね。

決して「分かり易い」舞台ではなかったけど、父と息子の話、
と言う点で、何故か心に残る、そんな舞台だった気がします。