午前で職場を離脱、ゆっくり友人とランチをした後で向かったのは
穂の国とよはし芸術劇場
まだできて日の浅い劇場だけど、舞台製作などもしていたり、
ワークショップや劇場ツアーなども行い、演劇に力をいれている劇場。
駅直結で交通アクセスがいいのも嬉しいところ。
まあ、豊橋そのものが遠い、と言う話もありますが・・・。
東京の人が横浜に行く、とか、大阪の人が京都に行く・・というより
ずっと遠いという印象があります。実際名古屋から1時間は掛かりますし。
(新幹線なら2区なのであっという間だけど)

ちなみに今日の目的はこちら。

プレ講座
『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』プレ講座
「翻訳家と演出家に聞いてみよう」 
ゲスト:小田島恒志(翻訳家)、森新太郎(演出家)
18:00〜19:40
※参加無料






最初は行く予定ではなかったのだけど、 IRAに関する本を読んで
興味が出てきたことと、どうせなら話を聞いてから舞台を観ると
理解度も違うかな〜等と思ったので。
 
いろんな話を聞かせてもらいましたが、まずは英文学やイギリス人、
舞台全般について話していたことの覚え書き。
「THE BIG FELLAH」に関する裏話的な話はまた改めて。

必然的に小田島さんのお話の内容が多くなっちゃいました。


 

 
【翻訳劇とは】
翻訳劇って、国や文化、宗教的な背景などが分からないから・・と
引かれるのが一番いや。
海外では異文化や海外からの人と日常的に接する機会があるけど
日本ではなかなかそういうシチュエーションはない。
だからこそ、そういう状態を観られるのはいい事なんではないか?
この「ビッグ・フェラー」は観ても「分からない」と思うかもしれないが
ある意味それは正解。なぜなら、観る人に分からせたいと思って
訳していないから。でも何かを「感じて」欲しい。

また、何が正しくて、何が正しくないかを押し付けたりしない。
ただ“生き様”を見せているだけで、これが英文学の特徴だ
ともいえる。(by小田島さん)


【森新太郎被害者の会】 
「原文はスッキリしているのに、なぜこの文章はこんなに長いの?」
と言うような質問を森さんからよくされた。
森さん以外でも演出サイドと話し合いながら翻訳に手を加える
と言う作業はしていくのが普通だが、森さんは特にこだわる。
そして、色々と話し合ううちに自分の「誤読」に気づかされることが
何度もある、イヤな演出家だった(笑)。
もう、「森新太郎被害者の会」ですよ(笑)。

特に英文学は、嘘をつくつもりはないが、本心をそのまま書く
つもりも毛頭ないものが多い。 曖昧なままに訳しておきたいものも
あるのだが、それを許さないのが森さん。(by小田島さん)

文学的な戯曲と、役者が口にする戯曲ではやはり違う。
色々検討して、最終的に元に戻ることもあるのだが、そう言う
やり取りを細かく することにより、言葉が立体的に、豊かになった
と思う(by森さん) 

先日の浦井君のイベントでも、(浦井君以外は)原文の戯曲と
読み比べて、そのニュアンスの違いを確認しながら稽古を
したと言う話を聞きました。 
特に内野さんが熱心で、夜中の2時頃に小田島さんの所に
「質問があるんですけど」と電話をかけてくることもあったとか。
結果、内野さんの訳が活かされたところもあるんだそうです。


【国民性の違い】 
イギリス人の会話のパターンを理解しておくと英文学を観る
際に分かりやすい。この作品が分かりづらいと言われるのはその
IRAというテーマやその歴史背景ではなく、会話が“イギリス的”だから。
会話のつながりが掴みにくい。「天気が悪いですね」という言葉に対して
「テレビで〜を観たんですけどね」という返事をしたりする。
一瞬繋がりが分からず「は?」と思うような回答なんだけど、
「テレビで〜を観たらそこも天気が悪かったですよ」というように、
遠回りだったりする。
ただ、「Yes」と言っても、実は「No」を表していたりする事もある。

議論が好きなお国柄だし、幼いころからディベートをするような
教育も受けている。そこが日本人は苦手。
そこ(その気質や考え方の違いが)翻訳劇では難しい。
かと言って、欧米人っぽくやればいい、と言っている訳ではない。
それでは日本人が日本で上演をする意味がないので。
(by小田島さん)


【翻訳家として付き合いたくない演出家】 
観客をナメている、何でも説明して、その為にセリフを
変えちゃったりするような演出家。
(具体的なお話も出ましたが、演出家名は出されませんでした。)
前後の繋がりや、役者の演技によって想像できるような
シチュエーションを「観客は分からないでしょ」と言う理由で
シーンをカットしたり、俳優に状況を言葉で説明させるように
された時(その説明セリフは原文には無いもの)虚しかった。
(by小田島さん)

いますよね、たまに、観客の想像力を信じてないな・・と思う
ような作品が。ちなみに「そういう面で森さんは合格」だそう(笑)。


【舞台役者と映像中心の役者の違い】
舞台役者は、演技を模索する中で遠回りすることを厭わない。
時には反対からアプローチをする事もあるが、むしろ、その過程を
楽しむ人が多い。舞台作品を作るうえでは重要な事。
また開幕直前に演出等の変更があっても、喜んで対応してくれる
ような人が多い。
映像中心の役者は(収録のスケジュールも関係していると思うが)
すぐに正解を欲しがる人が多い。(by森さん)


【訳していて分からない言葉やフレーズは無いのか】
分からない事もあります(きっぱり。)。
信頼している知り合いのアメリカ人とイギリス人に読んでもらって
教えてもらっても、意見が分かれる事もある。
ただネイティブが読んでも、理解が違るような内容なんだ、という事が
分かればそれでOK。
今、翻訳の世界では「作者が意図している事だけが正解」と言う
考え方は終わった。読み込む中で、どう理解したかが訳者によって
異なることもありえる。
もちろん、分からないことがあれば作者に質問をする事もあるのだが、
この作品に関しては質問はしなかった。 (by 小田島さん)


森さんよりも小田島さんのほうが雄弁で、面白い方でした。
その他、実際の翻訳の例を挙げてくださったりもしましたし。
おかげで、翻訳劇と言うものに対する私の心理的なハードルも
少し下がった・・・かも(笑)。