観てきましたよ、なんか「やっと観た」感が強いですけど・・(苦笑)。
公演期間中のSePTでのトークイベントで既にセットは観てますし
IRAに関する本も読んだし、プレトークにも行ったし。
こんなに事前準備をした公演も無いんじゃないかしら(笑)。

 THE BIG FELLAH「THE BIG FELLAH」穂の国とよはし芸術劇場PLAT
I(アイ)列センター 14:00開演、17:00終演
作:リチャード・ビーン 翻訳:小田島恒志
演出:森新太郎 
出演:内野聖陽、浦井健治、明星真由美、町田マリー、黒田大輔、小林勝也、成河
【あらすじ】 
1972年、ニューヨークのアイリッシュレストランではブラッディー・サンデーの追悼集会が開かれていた。アイルランド共和軍(IRA)のNY支部リーダーのコステロ(内野聖陽)は対イギリスへの報復と組織強化への思いを熱く語る。彼らIRAの活動家たちの隠れ家はマイケル(浦井健治)のアパートメント。しかし活動家と言っても彼らの日常はごく普通のNY市民であり、その中にはマイケルのような消防士もいれば警察官もいた。アイルランドからやって来たお調子者のルエリ(成河)は、バーで親しくなった女性をマイケルのアパートに連れ込むが・・・。1972年からの30年間にわたるIRA活動家たちの日常生活を描きながら、報復は新たな報復しか生み出さないという、“負の連鎖の虚しさ”を、徐々に浮き彫りにしていく。物語の終盤、彼らは、それぞれの生きるべき道を模索し始める。その結果、彼らが手にしたものとは?そして失ってしまったものとは? 


このフライヤーは内野さんの後姿を撮影して、それをイラスト的に
加工したものなのだそうです。(その辺の話はまた別エントリーで。)

舞台は、St Patrick's Dayの夜のアイリッシュレストランで開幕します。
私がアメリカに2度目に行って、短期で滞在していた時がちょうど
3月17日を挟んでいたので、このSt Patrick's Dayのパレードを
観に行ったことがあります。
とはいえ、西海岸だったので規模は小さかったし、「緑色を身につける」
ものだとは聞きましたが、その緑色の意味や、このパレードの意味など
全く分かっておりませんでした。
今だったらきっと感慨深く観る事が出来ただろうなあ・・。

で、舞台の感想は追記にて。
な〜んかダラダラと長くなってしまいました。
上手く短くまとめられるスキルが欲しい(涙)。





“長い期間を描く”のが 作者であるリチャード・ビーンの特徴だそう
ですが、この作品では30年を定点観察のように描かれています。
コステロが同朋に向かって寄付を呼びかける演説で開幕。
長時間の演説の間、私達をひきつけておける内野さんはさすがです。
とはいえ、浦井君も言っていましたが日本人の私にはこの演説に
含まれる笑いは全く理解できず(笑)。でもこれは仕方ないですな。 
この演説の中に「私はアメリカ人です。そしてアイルランド人です」
というシーンがありますが、これがこの舞台の大きなキーワード
であり、重要な伏線の一つでした。
また、27年後同じ日の演説では、色々な面で違いがあるのですが
それもまた、非常に意味が深いと思いました。 

そして、場面は変わってマイケルの部屋。
実際アイアリッシュ系アメリカ人は消防士の仕事に就いている
事が多いらしく、マイケルも消防士と言う設定ですが、この段階で
ラストシーンへ繋がっているんですよね。構成が凄く緻密。
ちなみにこのマイケルの部屋は、IRA本部での裁判結果を待っていたり
何かの理由があって、NYに送られてくるIRAのメンバーを一時的に
かくまっておく場所としても使われることになります。
元々ルエリもそうだし、エリザベスもそうですね。 
つまり、IRAの現役闘士と、IRA側に責められる人が交錯する場です。

特に印象的なのはコステロですね、やはり。
自信満々に寄付を募っていたコステロなのに、9年後には
その自信が揺らいでいるのが分かります。
エリザベスは本当に粛清しなければならいのか?という
組織運営に対する疑問。
共産主義化しているIRAに対して抵抗感を感じるアメリカ人
としてのアイデンティティ。
貧しいところから、財を成したアメリカンドリームの体現者
でもあり、そこにアメリカの良さを実感していることは、
彼の会話の端々で表れており、またアメリカ人として朝鮮戦争
に出征し、共産主義社会と戦った自負もあるはずですから。
またマイケルには「IRAに参加すると結婚も出来なくなる。
また家族を巻き込んでしまう事もある」と語っていたのに、
実際に自分の家族が崩壊していく事に対するショックが弱み
となり、FBIに付け込まれるなど、思いのほか弱いというか、
普通の人の部分もあったんだなあ・・と思います。
 
受け身なイメージが強いマイケル(浦井健治)。
 「周りの環境にうまく適応していった」とか「一番怖い人」
という事も出来るかもしれませんが、私が受けた印象は
「ごく普通の人」。 与えられた環境の中で、彼の中の最善を
尽くしてはいる。長期的な視点は無さそうだけどね。
6度も試験に挑戦して分隊長に昇進したり、最後にコステロに
「まだ言われたことしかできないのか」と言われ、
「今回は言われる前に鍵をかけた」と言うシーンもありました。
他人にとっては些細な事でも、彼なりに進歩しようとしている。
何故IRAに入ったか、の動機が今一つ描かれていないですが
血の日曜日以降、イギリス政府に対する反発と比例して
IRAの支持が高まっていた時期ですから、特に不思議ではない
ようにも思います。 
愛したエリザベスの粛清、尊敬していたコステロの死などは
間違いなく衝撃だったけど、その度ごとに脱皮するように
麻痺していったのではないでしょうか。
でもラストシーン、あれはまさにIRA闘士の姿でしょうね。
あのバスルームで歯磨きをして、朝食を食べるマイケル。
殆どが夜のシーンなのに、このシーンでは明るい朝日が
部屋の中を照らしていたのも、印象的でしたが、それ以上に
「ごく普通の人」が本物の闘士になってしまう怖さを
感じずにはいられませんでした。

浦井君、毎日腹筋をして鍛えているだけありますね(笑)。
セリフは少ないけど、舞台に出ている時間は長いので
難しい役だっただろうな、と思います。 
ミュージカルもいいですが、ストレートプレイもいいよね〜♪

色んな意味で怖かったのはIRA幹部フランク(小林勝也)。
あの有無を言わせない、相手の言い分を聞く気など持たない
冷酷な感じが怖い・・。でも、きっと本当にあんな感じだった
んだろう、と思わせるリアリティがあります。
たった1シーンですが、小林さんの存在感はハンパない。
ちなみにこのシーンで使われる「マッカラン」ですが、実際に
稽古場で試飲会も行われたのだとか。
舞台上ではお酒ではなく、「午後の●●」が入っているそうで
お酒が飲めない浦井君はこの“お酒もどき”をゴクゴク飲んでしまい
「喉が焼けてそんな風には飲めない!」と注意されたとか(笑)。

今回のお目当ての一人だったエリザベス役の明星真由美さん。
やっぱ素敵な女優さんです。
頭がキレて勇気があって、自分自身をしっかりと持っている
そんな女性闘士。そんな女性だからこそ、組織から疎まれて
しまったのかも・・ですね。

ルエリを演じた成河さんも、いい感じでウザかった(笑)。
アイルランド人は陽気でおしゃべりなんだそうですが、きっと
あんな感じなんだろうな(笑)。
“コーク地方出身でコーク訛りで話す” と言う設定だったので
不思議な方言を話していらっしゃいました。
これは特定の地方の方言を話すと、その地方との関連などを
想像される場合があるので、いろんな方言を混ぜて、
オリジナルの方言にした、とトークイベントで話していました。

就ける職業も限定され、選挙権も被選挙権も当然無いという
抑圧されたカトリックの人たちが、状況を打破するために
設立されたIRA。 
それが、色々な過程や分裂などを経て、テロという破壊行為 
の代名詞となる、組織の暴走。
組織の中心に居たはずが、あっという間に粛清される側に、
テロに加担した者が、テロ(9.11)の被害に遭う。
加害者が被害者に簡単に入れ替わってしまう暴力の連鎖。
そして、その組織に関わる者たちの様々な想い。
そういったものが、緻密に織り込まれている舞台だと思いました。

FBIのやり口は、多分アメリカだけでなくほかの国でも
行われて居るのだろうと思われます。以前読んだ本がまさに
ルエリのような人を扱ったような本で、イギリス警察に
飼われて、捨てられた人の話だったので。 
それにしても、“国家”ってなんだろう・・・。
(アメリカもだし、イギリスも、アイルランド共和国も) 

新疆ウイグル自治区やクリミア等の民族紛争があるこの時期、
9.11の記憶が薄れないうちにこの作品を上演する意味がある、と
演出の森さんがプレ講座でおっしゃっていました。 
なかなか日本で民族紛争を体感する機会は多くないと思います。
それが、この作品を通して、少しでも触れることが出来たような
そんな気がする舞台でした。