少し前に、翻訳やらイギリス文学について・・などアップしました
今回は観劇も終わった事なので、「THE BIG FELLAH」に関して
話してくださった内容の覚え書きってことで。

翻訳家と演出家に聞いてみよう『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』プレ講座
「翻訳家と演出家に聞いてみよう」 
ゲスト:小田島恒志(翻訳家)、森新太郎(演出家)
18:00〜19:40
※参加無料






なにせ1時間40分も殆ど話し続けてくださっていましたので
一杯いろんなお話を聞かせて頂きました。
お話の聞き手も元女優さんらしく?(すみません、存じ上げなくて)
トンチンカンな質問が出ることもなく、とても充実した時間でした。
100名弱位の参加だったのかなあ。

進行をされた女性は、キャロットタワーで行われた制作発表に
参加されたそうで、その際に小田島さんと森さんの対談を会報用に
してもらいたかったそうですが、会見終了後全員でアイルランドの
記録映画を観させられ(笑)、いざ、と思ったら内野さんが二人に
質問を浴びせまくって、とても時間が取れなさそうだ、と判断
それぞれ別個のインタビューになったのだそうです。
なので、その際に叶わなかった対談をここで・・・というのような事を
おっしゃっていました(笑)。

仕事を半日休んでまで出かけて行ったけど(笑)、行って良かった。
遠い劇場だというのが残念ですが、今後もまたこういう企画を
是非して頂きたいものです。
 
この舞台に関するお話で、私がメモったり、覚えている分については
追記にて。ダラダラ長いので、興味のある方だけどうぞ。
 
 
 
【フライヤーについて】
ベルファスト(IRA本部がある北アイルランドの都市)やデリー
(血の日曜日の起きた場所)では、政治的な内容の壁画が 
数多くある。
この写真はそのイメージで、内野さんの後ろ姿を撮影し
イラストのような加工をして、作成した。
緑色はカトリック、オレンジはプロテスタントの象徴の色。
(by森さん)

※二つ折り内側で役者さんがTシャツ姿で映っていますが、原作者の
 リチャード・ビーンがこのTシャツを欲しがったとか 



【ビーンの戯曲のト書き】
舞台の内容が分かりづらいと思う人もいるだろうから、セットを
抽象的にすると、ますます迷子になる人が増えそうだったので
具体的なセットがいいと思ったが、実は戯曲の指示通りのセット。
「赤いレンガ造りの部屋」とか、「棚の隅っこにトロフィーが
置いてある」とか、細かい指示があるところがある。
ただ、そこは物語の進行には影響しない。
そういうト書きを通して、マイケル等の人物背景を把握出来る。
(by森さん)

※実際に上手の棚の左端に、色が変色したようなトロフィーが2つ飾ってありました。


【アイリシュ系アメリカ人】 
記者会見の際、日本人は記者すら知らなかったのですが、
アイルランドの10倍もの人数のアイリッシュ系アメリカ人がいる。
J.Fケネディもロナルド・レーガンもクリントンもアイリッシュで
成功をおさめた人も居た。
だからこそ、NYに居るIRAメンバーというこの作品が成り立つ。
リチャード・ビーンはよくここに目を付けたな、と思う。
(by森さん、小田島さん)

※19世紀半ばの“じゃがいも飢饉”で多くのアイルランド人が生き残るために
難民となってアイルランドを脱出。その多くがアメリカに向かったのだそうです。 



【IRAに入ることは・・・】 
IRAに入ろうとするマイケルに対してコステロが言うセリフで
「(IRAに入ると)お前の人生はおしまいになる」
と言うものがあるが、原文は公共では罰金レベルの汚い言葉。
「it will be fucked」
これは「めちゃくちゃにされる」という意味合いなのだが
終止符的なニュアンスが出したくて、このセリフになった。
でも役者は“fucked”のニュアンスを込めてセリフを言っている。
(by森さん)


【イギリス的会話の流れ】
今日はせっかく来てくれたので、絶対に分からないだろうという
セリフの説明をしましょう。
エリザベスがコステロに対して「ハンガーストライキや
ボビーサンズについて、私がスピーチしてあげるのに、いつ
呼んでくれるのかしら?」と聞かれて「朝鮮戦争から帰ってきたとき・・」
と答えるシーンがある。
ここだけ観ると、全く繋がりがなくて、分からなくなってしまう。

大切なのは、コステロはアメリカ人だという事。
自分は、戦争で社会主義国と戦ってきた。社会主義は嫌いだ。
確かにアイルランドにルーツを持つものとして、IRAは支援したい。
でもIRA(ていうかシン・フェイン党?)はハンガーストライキ以降
社会主義政党に近づき、社会主義化しつつある。
そういったジレンマが含まれている。(by小田島さん)

※だから、自分にとってはボビー・サンズは英雄ではなく、したがって、NYで
エリザベスにスピーチをさせるつもりはない、という意味の回答だったんですね。
この説明は私的にはこの作品を理解するうえでの大きなポイントになりました。


【キャスティングについて】
今回はキャスティングにはこだわり、バリバリの舞台俳優を集めた。
内野さん・・・カリスマ性と愛嬌のある所ががコステロに通じる
浦井君・・・ミステリアスさがあり、何を考えているのか分からない
       魅力があると思った
成河さん・・・陽気さ、おしゃべりな感じ、運動神経のよさそうな
       所などがルエリと通じると思った
明星さん・・・知性としての強さを感じる女性だった
町田さん・・・謎めいている感じがカレルマに通じる
黒田さん・・・穏やかな役をされることが多いが、底知れない
         怖さを感じたので
小林さん・・・アル中な感じが、この人しかないと思った(笑)
(by森さん)


【役の掘り下げ】
30年間を一人で演じるので、次のシーンでは「9年ぶり!」
というセリフになる事もある。
「(コステロに対して)感じが変わった」というセリフがあったら
「どこが、どう変わったと思う?」と内野さんが聞いてきたりする。
もちろん、そんな事は描かれていないし、そんなセリフもないが
舞台では空白の数年間に、何が起こっていたかを、みんなで
考えて深めていった。
だから、自分が出ないシーンの稽古もよくお互い観ていた。

また、小林勝也さんが学生運動の時代の話を参考に
聞かせてくれることもあって、それはメンバーにはとても
参考になった。(by森さん)


とにかく稽古熱心で、稽古時間が長い作品だとは聞いていましたが
これをやってたら、本当にどれだけ時間があっても足りないでしょ?
と思うほどのこだわりっぷりだ、と思いました。
ただ、同時にそこまでこだわった舞台を観ることが出来るのは
観客としては本当に贅沢な事だな、と。

舞台を観ても、なかなか表面的な事しか理解できないことが多い
残念なワタシですが、やっぱり舞台っていいな〜と思いました。
ああ、薄っぺらい感想だ(涙)。
こういう制作側の意図や努力が、少しでも理解できるように
なりますように・・・・。