今月の新国立劇場。
なんか、すごく久しぶりの観劇のような気がします。(錯覚。)
この二人の組み合わせが意外で、それが気になってチケット取りました。

ご臨終「ご臨終」新国立劇場 小劇場 D2列(2列目)
13:00開演、15:30終演
作:モーリス・パニッチ  演出:ノゾエ征爾
出演:温水洋一、江波杏子
【あらすじ】
一人暮らしの叔母から、何十年も音信不通だった甥のもとに「年齢としだ、もうじき死ぬ。」との手紙が届く。取るものも取り敢えず、銀行の仕事を辞めて大急ぎで駆けつけ、積極的に世話をし始めるが、叔母は打ち解けない様子で、ベッドで編み物をし続ける。老婆の部屋で繰り広げられる1年以上にわたるふたりの奇妙な共同生活。やがて新年を迎えた二人にある変化が......。
 


そう言えば、ノゾエさんの演出する舞台はこれが初めてです!


舞台模型
これが今回の舞台模型。
左右に壁があり、中央にベッドがあります。
その舞台を挟んで、客席は2方向に設定されている格好。
1幕と2幕では左右を全く逆転してくれていました。



 
こういう二人芝居もあるのか・・・というのが最初の印象です。
温水さんがとにかく話しまくり、江波さんは1幕なんか最後の
「メリークリスマス」が唯一のセリフ。2幕も3つか4つしかセリフが無い。

最初は、浅はかにも「江波さん、セリフ覚えなくていいから楽だなー」
と思ったのですが、冷静に考えたらとんでもない!
江波さんはセリフもないけど、殆どがベッドに横たわっているので
動きも無い。そんな中で、感情を表現したり、温水さんのセリフを
受けなければいけないので、それはそれは難しいはず。
膨大なセリフを話す温水さんも、江波さんも大変難易度が高い作品
だと思いましたし、さすが!だと思いました。

ベッドに横たわる老女(グレース)に、中年男(ケンプ)が訪ねてくる。
あの江波さんがこんな老女に?いいの?と思う程のババアっぷり。
ケンプを見たグレースの反応は少々意外。
驚いているとか意外・・ではなく、むしろ疑問、恐れのようなもの。
このグレースの反応に違和感があったのだけど、それは2幕で
理由が明らかになります。

音信が途絶えていたのに、「もう死ぬ」という手紙を貰って
職場を放棄して駆けつけたケンプ。
この男も一癖も二癖もあって・・・。「もうすぐ死ぬんでしょ」とか
「財産を自分に譲るって遺言にサインして」「葬式で流す音楽は何がいい?」
と、冗談かと思いきや、かなり真面目にグレースに話す。
「死ぬんだったら、そんなに食べなくてもいいでしょ」みたいな事まで。
グレースの為にやって来た、という感じにも思えなかった為、最初は
何なんだコイツ?と思っているのだけど、あまりにオープンなので、 
笑えてくるようになるんですよね。

グレースも最初は料理に手を付けなかったのに、美味しそうに食べる
ようになり、髪もボーボーだったのがメイクをするようになったり
買い物に出ようとするなど、明らかに回復してくる。
(まあ、そんなグレースにケンプはイラっとして、ガチで殺そうとしたりも
するんだけど)

2人の会話から(ケンプが一方的に話すだけなのだけど)、卑屈なケンプが
実はかなり複雑な家庭に育ったことも分かってきて、グレースの
視線が慈愛に満ちて見えてきたりする。
子供の頃、おたふくかぜで顔がパンパンに腫れた写真を送っても
1枚も飾ってくれない程、冷たい叔母だと思っていたのに。
会話も無い、動きも殆ど無いのに、表情としぐさだけで二人の
距離感が縮まっているのがよく分かるのは、本当に凄いと思います。

それが2幕でありえない事実が発覚する。
向かいの家でいつも座っていたお婆さんが、実は死んでいたという。
その手には「おたふくかぜで顔が腫れた子供の写真」を握りしめたまま。
ケンプは訪問先の家を間違え、グレースはそれを訂正しなかったのだ。

「えええーあり得ないし!」

と思い笑っちゃったんだけど、本当の叔母を見殺しにしてしまった、
自分がやって来たと知らないまま死なせてしまったこと、
自分の1年以上が何だったのか、と怒り嘆くケンプを見ていると
笑い事じゃない、と思えてきます。
ケンプに責めたてられてグレースが発した言葉が

「だって、嬉しかったんですもの。お客様が来てくれて。」

グレースだってこんな結果を想像出来なかっただろうし、
会話こそ殆ど無かったけど、幸せな1年だったのかもしれない。
心苦しかっただろうけど、ケンプの間違いを正せなかった老女の寂しさと
ケンプに対する想いがあの赤いセーターに編みこまれているようで。

最終的にはグレースの元に戻ってきたケンプはグレースの最後を看取る。
本当の肉親、あるいはそれ以上の関係に思えたシーンです。
独り身の私は、自分の老後もグレースみたいになるかもしれないなあ(爆)
と思ったりもしましたが、やはり何歳になっても人は誰かと繋がっていたい、
誰かの為に何かをしたい生き物なんじゃないでしょうか。
ケンプの本当の叔母さんも、だからこそケンプに手紙を出したのでしょうし。
歪んだ性格になってしまったケンプもグレースと過ごす事で、純粋に
相手を思う気持ちを思い出せたんじゃないかな、彼のその後の人生に
いい影響があったらいいのにな、と思わずにはいられません。

ラストの雪のシーンは本当に美しかった。
鉢植えのアマリリスが芽を出したときには、思わずウルっとして
しまいました。植物の芽ってこんなにキレイなんだ・・と思えて。

アマリリスの花言葉は「おしゃべり」「誇り」「輝くばかりの美しさ」だとか。
美しく誇り高いグレースが、いつかケンプと再会した時には、今度は
2人でおしゃべりをしたい、グレースがそう密かに願ったんじゃないかな
なんて思ったエンディングでした。