本日は朝から秋葉原に行ったり、銀座に行ったり、新宿に寄ったり
歩き続けてぐったり・・でしたが、午後は新国立。

星ノ数ホド「星ノ数ホド」新国立劇場小劇場 C4 列(8列目)
作:ニック・ペイン     演出: 小川絵梨子
出演:鈴木杏、浦井健治

【あらすじ】 
物理学者のマリアンと養蜂家のローランド。二人が出会ったのは雨のバーベキュー場。その時、彼には妻がいた。あるいは、晴れた日のバーベキュー場で出会い、恋におちた。いつしか別れてしまった二人が再会する時、ローランドは別の誰かと婚約していた。あるいは......。
あの日、違う受け答えをしていたら?
あの日、二人の状況がまったく逆だったら?
さまざまなパターンを繰り返しながら物語は進行し、やがて二人に運命の日が訪れる......。 



原題はフライヤーにも書いてありますが、「constellation (星座)」。
だからこそあのフライヤーのデザインなんですね。

これは新国立の「二人芝居−対話する力」のシリーズの最終作。
浦井君が出ていなくても、間違いなく観に来ていた作品です。
元々は公演期間の最後の方で観る予定でチケットもGET済でしたが
後から12月7日にポストトークが実施されると判明。

どうせ、他の舞台の都合でもう1日上京しなくちゃいけないな・・と
思っていたし、新国立のポストトークはいい印象があるので
追加でチケットを取っておりました。(実はかなり激戦だった模様。)

それにしても、客層がいつもの新国立主催の舞台とあまりに違って
こちらが戸惑ってしまいました(笑)。
(いつもはもっと男性が多いし、一人で観に来る人も多い。年齢が
もっともっと上の人も沢山来場されています)

舞台模型
これが今回の舞台模型です♪





舞台中央には大きな枝ぶりの、でも葉は落ちてしまった木があり

その木の周りには、階段状の通路で囲まれています。左右には

テーブルや椅子のセット、上部の左右にも衣装などが置いてあります。

2人芝居で、2人は出ずっぱり。着替えも舞台上で行います。

この舞台セット、小川さんはとりあえず中央の木と通路のようなものだけを

イメージしていたそうですが、美術の方の案も取り入れ、今の形に

なったのだとか。エッシャーのだまし絵のイメージもあるんだそうです。
木やその周りの色が青色なのは、宇宙っぽいとか、星っぽい
イメージからなのだとも、ポストトークでお話になっていました。 

 

暗転から照明がつくと、木の下にはローランドとマリアンの二人が。

バーベキューをしているようで、話題は「自分の肘が舐められるか」。

・・・そんなこと考えたことも無かったわ()

数行のセリフを話すと「チャリン♪」という音(星の煌きのイメージらしい)
がして時間が巻き戻り、“別の可能性”が提示されます。

ローランドに奥さんが居るVer.とかローランドは恋人と別れた直後Ver.とか。

「色々な可能性を提示される」とは聞いていましたが、場面によっては

本当にほんの数秒のシーンを繰り返す事もあり、あまりに短いシーンの

繰り返しで、客席からも笑いが洩れてました。

(何故笑いが起きるのか、私には分からなかったけど。)

 

ただ、全パターン内容も違うのだけど、それに合わせて演技も

微妙に違っていて(登場人物のキャラ設定も違っている)、その対比が

面白いんですよね。この演じ分けが大変そう・・と思うのですが

ポストトークの杏ちゃんの話によれば、小道具にもそれぞれ意味があり、

全部のパターンにそれぞれ背景がきちんと意味づけがされているので、

(単純に暗記するだけではないから)理解してしまえば、思ったほど

大変ではなかった・・のだそうです()

 

とはいえ、チャリン♪と鳴るごとにパチンと別の設定に入る
その切り替えの見事さはさすが!なお2人です。

例えば、チャリン♪と鳴ると同時にローランドが振り返るシーンが

あるのですが、あの瞬間の表情の変わりっぷりがあまりに見事で

笑えてしまうほどでした。シャーロックやアルジャーノンなどの経験が

きっと活かされていたんだろうな、等と思ったり。

 

シーンごとに色々なパターンを見せながらも、同じシーンをなぞり
ながら螺旋階段を上るように話は進んでいきます。

一方方向に進むのではなく、時間も行きつ戻りつ・・しながら。

もっと頭が混乱するかしら?と思いましたが、その辺りは大丈夫。

何度も何度も差し込まれるシーンは木の下で2人が語り合うシーン。
 

 −マリアンはどうやら上手く会話ができなくなっているらしい。

 −凄く重大なことを話しているらしい。


それは分かっても、最初は内容がつかめません。

でも、何度も何度も差し込まれる同じシーン(とはいえ単純な“繰り返し”

ではなく少しずつそのシーンが長くなったりします。ここについては

“チャリン♪”はありません)をみると、それ以外のシーンと照らし合わせて

物語の全体が薄皮がはがれるように理解できてくるんです。

 

マリアンは病気らしい。しかもかなり深刻。自分の母親の死に絡めて

自分自身の死についても話している。たぶん・・・尊厳死について。

そんなマリアンに戸惑うローランド。

(ローランドはよく「で、君は〜して欲しいの?」って聞くのですが、それが

印象に残っています)

 

物理学とか私はゼッタイに無理だわ・・と思っていましたが、不思議と

杏ちゃんが話す物理の話は理解ができたし、その考えが

この舞台のベースにある、という事も理解ができました。

「色々な選択肢、それが実行されたものも、されなかったものも含めて

その結末は全て存在する」みたいなセリフ。(めちゃくちゃ曖昧でスミマセン)

そして、ラストのセリフ。

2人で過ごした時間は、これから増えないけど減りもしない」

この物理学的なセリフ(のようです)は、「やっぱり帰国しよう」

のパターンよりも物理学者のマリアンらしいし、そういう考え方もあるのか、と

一瞬思いましたが、やっぱり違う気がするんです。

 

2人で過ごした時間が減らないのは事実だけど、その記憶は時の経過と共に

薄まっていってしまうと思うのです。

生きれば生きるほど経過した時間の総量が増えるのだから、その中における

二人で過ごした時間の比率が相対的に小さくなるのは当然ですが、その

「“薄まってしまう”事を補えない」、「“二人で過ごしていない時間”が増えること」
が悲しいんだと思うんですよね。

まあ・・・マリアンもそこは分かっているとは思いますが。

 

そして、最後の最後に2人がダンス教室で再開したシーンに巻き戻ります。

とてもスムーズに意気投合する2人。そこで、「あ!」と思いました。

「マリアンが病気にならずに済む選択肢はないのかしら?」と。

そしてこの最後に見ているシーンが、その選択肢であれば・・・と

思わず祈るような気持ちになったのでした。

 

浦井君、具体的にどこ・・とは分かりませんが、セリフの話し方が

以前とは変わったように感じます。良い意味で。

ミュージカル専門にやっている方はストプレになるとセリフの話し方や

発声で「ああ」と分かる方もいらっしゃいますが、この舞台だけを観たら

彼がミュージカル俳優だという事は分からないでしょうね。

杏ちゃんのブレの無い演技もさすがだな・・と思いました。

 

凄く実験的な構成だと思いますが、これは舞台だからこそ成り立つもの

とも言えて、本当に面白い作品だと思います。

そして、何度も観て、比較してみたくなるような作品。

もう1度(次は最前列♪)観る予定があるので、とっても楽しみです。