一度観てシアタートークにも参加していて、もう一度観直したい!
という気持ちが強かったので、楽しみにしていました。

星ノ数ホド「星の数ホド」新国立劇場小劇場A3(最前列)
13:00開演  14:30終演

キャストやあらすじは省略!
前回の感想はこちら









かぶりつきの最前列♪ 下手側、ちょうどラストシーンの行われる
ソファの目の前のお席でした。
もう、これだけでラストシーンを想像して心臓がバクバクしそうで(笑)。

開演前に席につくと、舞台セットの中央にある木が思った以上に
存在感ある事に気づきました。下から見上げるような恰好になるのですが、
その枝ぶりが思った以上に大きいんです。

2度目の観劇なので、この芝居の構成については分かっていましたから
今回はストーリに没入して観ることが出来ました。
(隣の席の男性は、舞台の構成が分からなかったようで「分からん」と呟いていたのですが、
これが結構大きな声でかつ最前列だったので「止めてよ!」とハラハラしちゃいました。)

感想はつらつらと・・。
めっちゃ長くなったので、興味のある方だけどうぞ。




 
“チリン♪と音がすると色々な可能性が提示される”のは前に書いた通り
なのですが、その頃から書きながら、“可能性が提示される”という
表現に少し違和感があったのですよね。

「チリン♪と鳴ると分岐点がやってきて、“適切な選択肢”が見つかるまで
何度も何度もリトライし、“収まるべき結果”に落ち着くと再始動する」

という表現の方が私としてはしっくりくる感じがするな。
そして、2人の会話が途切れると、揃って舞台中央にある木を見上げ
少し間をおいて2人が木の下で語り合うシーンに戻ります。
これは舞台の“芯”とも言うべきシーンで、全体の中心。
ただ、このシーンが全体を通しで演じられるのは最期の1度だけ。
このシーンの中に“分岐点”はやってきません。
一部ずつ切り取られ、何度も何度もそのシーンに立ち返り、徐々に
蕾が花開く様子を見るように、観客はそのシーンの全体像を、そして
その会話のシビアさを理解していきます。 

  マリアンは結婚後「多発性膠芽腫」に侵されている事 
  前頭葉に腫瘍は広がり、会話が難しくなってきている事
  そのために仕事を辞めようとしている事
  余命は1年も無いであろうという事
  そして、病に苦しみ“消極的安楽死” を選んだ母親を思い出している事
  マリアン自身も安楽死を選ぶべきか悩んでいる事。

独立心旺盛で、自分の事は何でも自分で決めてしまう、いい事も
悪い事も全て自分で抱え込み、人に頼ることが苦手なマリアンと、
心優しく、押しも強くないため人と争う事は苦手な凡庸な男性のローランド。 
難しい事を避ける傾向があるので、分かっていないのに「分かる」
とか言っちゃう人。でもすぐに認めて謝るんだけど。
蜂を相手にするという仕事柄、のんびりしているのかもしれませんね。
そんなローランドが側にいるからこそ、マリアンがマリアンのままで
居られたんじゃないかな、とも思います。

けど、ローランドは観ていて気の毒になる事も少なくなくて。
検査結果をマリアンから聞かされた時のローランドのセリフで

「君には出来る限り正直でいたいからか、本音で話してるのに。
結果は分かんないけど明らかに悪い知らせだろうからちゃんと聞きたいんだよ。
あれこれ考えたくないんだよ、一人でそんなこと聞かされた君は
どんな気持ちだっただろうとか」 


というものがありましたが、このセリフに泣かされそうだった(笑)。
でもね、弱みをみせられないからこそ、一人で病院に行った
というのも、よく分かるんです。弱みを見せたら負けちゃいそうな
気になるんだよねぇ。

そしてソファーのラストシーンでのローランドはたまらなかった・・・。
今まではマリアンの考えを尊重していたけど、とうとう
ローランドが“この件”について素直に自分の希望を伝えたシーンです。

「だってもし自分だったら、もし俺が君だったら、出来る限り
時間が欲しいって思うはずだよ。もし君が自分にはあと数週間
残されてるって思うなら、それを捨てないで欲しいんだ」


この時のローランドがね、もう涙でボロボロなんですよ。
少しでも長く生きていてほしい、でも、マリアンの希望は尊重して
あげたい、という葛藤を感じます。 この直前の“選択肢”では
「もし君が自分にはあと数か月残されているって思うなら」
というセリフだったので、数か月→数週間のセリフの変化だけで
“その時”が迫っている事を実感させられて、そのセリフの変化
だけでも切なかったんですが・・・。

ただ面白いな、と思ったのは「あと数か月残されている」という
セリフの時にはローランドが言うセリフには説得力があったのだけど、
「あと数週間」というセリフになると、マリアンの選択もアリだなあ・・
と思えてしまうのですね。


私は前回、ラストシーンは希望があると書いたのですが、その後で
浦井君のインタビュー記事で最後の解釈が書かれていました。
「一番最後のダンス教室での再会のシーンを演じている時には、
重大な決断をした空っぽのソファにライトが当たったままになっている。
だから、あのシーンは二人の夢なんじゃないかという気がする」
というような内容。そうかあ、なるほど。確かにそう思える。
こういう記事を読むことの功罪ですが、今回はもうそういう観かたしか
できなくなってしまっているので、涙をぬぐいながら
(直前のシーンで泣いていたので)とびっきり幸せそうな芝居をする
2人が切なくて、悲しくて。

上手奥にある大きなハシゴ。
天井まで届くような長いハシゴで、照明の関係で上は薄暗く良く見えない。
衣装掛けとして使われていたのに衣装を何度も着替え、ラストには
純然たるハシゴに。なんだか天国に繋がるハシゴのようにも
思えてしまった私でございます。

ちょうどこの公演の直前にアメリカで脳腫瘍に侵された女性が
安楽死を選んだ、というニュースがあったばかり。
本当に難しい問題だし、正解も無い問題。
現状日本ではこのような選択はできないものの、もし自分だったら・・
と考えずには居られない作品でした。

役者は二人とも本当に熱演でした。
今回は下手だったので、プロポーズされる杏ちゃんの表情がとても
良く見えたのですが、ローランドのプロポーズに感動してみるみる
目に涙が溜まってきたりするんですよ。

また、プロポーズのシーンでは“残念な健ちゃん”が堪能できて
ちょっとホッコリできたりもして(笑)。
こんな短いサイクルで感情のアップダウンをさせることが出来る2人って
本当にすごいなあ、と改めて感動させてもらいました。
うん、この舞台は2度観られて良かったな。