朝イチでホットヨガに行き、向かったのは刈谷です。

アドルフに告ぐ「アドルフに告ぐ」刈谷市総合文化センター 大ホール 6列(5列目)
13:00開演、16:10終演
原作:手犲C遏  ̄藹弌Х山民也  脚本:木内宏昌
出演:成河、松下洸平、盒桐、朝海ひかる、前田亜季、大貫勇輔、谷田歩、彩吹真央、石井愃一、鶴見辰吾 他
【あらすじ】 
ベルリンオリンピック開催の裏で、ある秘密文書が消えた。アドルフ・ヒットラーの出生の秘密が記されたこの文書に、ふたりの青年アドルフ・カウフマンとアドルフ・カミル、そして多くの男女の運命が翻弄されていく。第二次世界大戦をはさんだ大きな時代の流れに、残酷なまでに押され、揉まれ、阻まれながら、この物語は展開してゆく。人々は己の正義のみを信じ、ゆえに多くを失い、不条理な人生の結末を向かえて行くのだった…… 


この舞台を観たいと思った一番の理由は高橋洋さんが出演されるから。
この方を舞台で最期に観たのは 2008年の「道元の冒険」が最後。
いつかは・・と期待していたものの、一向に舞台出演の話が無く
2013年に舞台に出ると話は聞いていたものの、どうしても遠征は出来ず
見送っておりましたので、7年ぶりです。
当時は毎年何本も拝見していたというのに・・・。

そして、これが手塚作品の舞台化だという事も大きな理由の一つ。
原作を読んだ事はありませんでしたが、「PLUTO」 が私的には
衝撃のある舞台だったため、とても期待をしておりました。

感想は追記にて。
それにしても劇場の空調が効きすぎて、寒くて寒くて辛かった・・・(涙)。


 
 
ほんと、手塚作品は重い、でも単純に重いだけじゃなくて深くもある。
観に行ってよかった。
原作は読んだ事はありませんでしたが、ヒトラーに関する話だという
認識はあって、完全に日本とは縁遠い話だと思っていたんですが
違いましたね、なるほど・・と。生まれる前の、遠い異国の話だと
思っていたのが、びゅんっと身近に降りてきたような気がしました。

3人のアドルフはそれぞれに個性が際立っていて良かったなぁ。
人生のベクトルが3本とも違う方向に向かっていて、交わっている
ようでも、実は立体的にねじれているだけって言う感じ。
アドルフ・カウフマン(成河)は成長と共に、全く違う大人に成長し
アドルフ・カミル(松下洸平)はある時点で、大きく生き方の方向を変え
アドルフ・ヒトラー(高橋洋)は最初から最後までスタンスは変わらない。

3人とも素晴らしかったのですが、やはりお目当てだった高橋洋さん。
声の出かたがハンパないです、そしてウィスパリングでも声がきちんと
届くのは「オセロー」の頃と変わりない。
そして、エキセントリックなヒトラーは映像で観た事のあるヒトラーと
とてもよく似ていて、あの“底なし沼のような得体のしれない怖さ” を
本物ヒトラーの近くに居た人も感じていたんじゃないか?と疑似体験
したような思いです。
確かにエキセントリックで無慈悲・・・なんだけど、ヒトラーの誇り高さ
エヴァとの関係性を通して人間としての弱さも感じられました。
本当に圧倒された。
洋さん、映像もいいけど、本当に舞台が素晴らしいのだから、
もっと舞台に出演して欲しいです。

そして、心優しくユダヤ人の友人(アドルフ・カミル)を大切にしていた
アドルフ・カウフマンを演じた成河さんも素晴らしかったです。
彼自身が元々弱いが故に、ナチスの力を借りて、誰よりも残虐に
高慢になってしまって・・。そんなカウフマンは観ていて痛々しい。
カミルの父親を打ち殺すシーンでは思わず「うえ」って
思ってしまいましたからね。それが当事者だったら・・・。
カウフマンが人間的に悪者か?と問われると答えはNoだと思う。
だからこそナチスの、ひいては集団心理の怖さに、ブルっとします。
人はこんなに変わってしまうのか・・・と。
最後の最後、カミルと撃ちあう前にそっと自分の銃から弾丸を
抜いたのは、舞台版のオリジナルなのかしら?
あれは、この争いに終止符を打ちたいという気持ちからなのか、
以前のような関係に戻理たいという気持ちからなのか。
後者だといいなあ、なんて思いますが、甘い!って言われそう(笑)
やっぱり、消極的な自殺って感じだものなぁ。

大らかで心優しく、ユダヤ人の絆を大切に日本で生きてきた
アドルフ・カミル。ある意味この作品の“良心”みたいなポジション
ですが、最終的にはナチス以上に残虐なナチス狩りをするように
なってしまった。それが怖くもあり哀しくもあり。

どのような世の中になっても変わらなかった、カウフマンの母の
由季江(朝海ひかる)や峠草平(鶴見辰吾)、秘密文書を守り
続けた小城先生(岡野真那美)には“良心”や“誇り”をみて、救われた
ような気持ちにもなりましたが、逆のその“良心”が痛めつけられる
シーンは、世の中には正しい事が通用しないのでは、とも思えて
更に辛かったです。

ナチスに苦しめられていたカミルが、ナチス狩りをする。
多くの人を殺してきたカウフマンがやっと得た自分の妻子を殺される。
殺されたナチスの子供役だった子と同じ役者が、カウフマンの娘役で
銃弾を身につけて、同じように行進していたのが、すごく象徴的。
パレスチナ問題は今までも知識としては知っていたはずだし、
映画でも観てきたはず。
でも、今回ほど納得がいったことないし、今回ほどリアルに怖いって
思ったのは初めてです。
そして、こういった争いが連鎖しているものだ・・と言う事も。

栗山さんらしく生演奏の音楽もありましたね。
眉間にしわを寄せながら、でも目を離せず観続けた舞台でした。
もう1度観たいな。再演でも、舞台中継でもいいので。
戦後70年というタイミングで、安保問題で政治が揺らいでいる
この時期に、この作品が上演された事に、意味がある気がします。