今回は地方公演なし。
いつもなら諦めるところですが、この公演の後2年は劇団公演は無い
というKERAさんのツイートで遠征決意。

消失_0002ナイロン100℃ 43rd SESSION
「消失」本多劇場 B列
18:00開演、21:00終演
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:大倉孝二、みのすけ、犬山イヌコ、三宅弘城、松永玲子、八嶋智人
【あらすじ】
クリスマスの夜、パーティーの計画を練る兄チャズ(大倉孝二)と弟スタンリー(みのすけ)。しかし、楽しい一夜になるはずが、ちょっとした誤算からその計画はもろくも崩れ去ってしまう。スタンリーが想いを寄せるスワンレイク(犬山イヌコ)、謎のヤミ医者ドーネン(三宅弘城)、 兄弟の部屋を間借りしたいと言うネハムキン(松永玲子)、ガスの点検に来たと言うジャック(八嶋智人)。兄弟の家に集まった彼らの抱えていた「秘密」が彼らの心を離れた時、 そこから生まれてくる全ての感情が彼らを破滅へと導いていく。破滅の先に彼らが見たものとは? 


初演は2004年。
ギリギリ芝居を観ていない頃だなあ。
再演の希望の多い演目だという事だったので楽しみにしておりました。
補助席も出ていて、とても盛況のようでした。




クリスマスパーティの準備をしているらしく、ツリーを飾りつけたり
チキンのソースを煮こんだりするチャズと(大倉孝二)と
スタンリー(みのすけ)の兄弟。
どうやらスタンリーが密かに恋しているスワンレイク(犬山イヌコ)に
告白すべきかどうか、が大きな問題の様子。
ふむふむ。内気でオクテの弟を心配するお兄ちゃんかあ。
まるでコメディのようなやり取りにクスクス笑っているのですが、
チラホラと見え隠れする不穏な影。
アルバムにはチャズは映っているのに、スタンリーは居ない。
昔の話を避けたがるチャズ−。 

舞台を観ていて、そこはかとなく感じる既視感は、先日観た
「TWINS」の影響だと思われます。
この“消失”の舞台も戦争の後でどうやら環境が汚染されていて
水道水がまともに飲めないとか、ドーネン(三宅弘城)がどんどん
体調を崩してくるとか、リンクする部分が少なくないのです。
とはいえこの舞台は10年以上前に書かれていた事を考えると
うすら寒く感じますよね。
ドーネンの家は“爆撃”されて子どもと連絡がつかなくなりますが
今のテロと重なる部分があります。“偽物の月”に移住を計画して
いたものの、 宇宙に渡った人たちは戦争による予算不足で計画中止
結局見殺しにされてしまいまうのですが、宇宙開発が盛んな
今後を暗示しているように思えなくもない。

最初は頑なだったスワンレイクが徐々に心を開いていき、
暖かい雰囲気で満たされそうになると、見知っているはずなのに
「あなた誰?」とネハムキンに言い放ったり、水道の蛇口から
“歯”が出てきたり、以前スタンと付き合っていたという女性が
行方不明になったという電話が掛かってきたりして、再び不穏な
雰囲気が満ちてくるような感覚に陥ります。
ガス点検に来たというジャック(八嶋智人)もどうやら
ただの点検業者ではなく、何かを探りに来ているらしい・・・。

毛布をどけると上半身裸で、電極をあちこちにつけた状態で
ソファに腰かけたまま意識を失っているスタン。
ドーネンさんが操る機械でスタンの記憶を自在に書きこんだり
消去したりすることが出来るらしい。
・・・・・そうか。そこで疑問の大部分がクリアになってきます。
かつてのスタンの恋人は、兄のチャズに殺されて、そしてその
記憶は書き換えられてしまったのだろう、と。
そして、チャズは今回も「スワンレイクの記憶を消すように」と言う。
″プロポーズされた”と打ち明けるスタンに「結婚して幸せになれ」
と説得していたにも関わらず−。

チャズはスワンレイクに唯一の身内を奪われる嫉妬心から
記憶を消させたのかな?でも、それだけ−?

たぶん・・それだけではないんですよね。
チャズは子供の頃に誤ってスタンを死に至らしめていた。
つまり今のスタンはロボットであり、結婚するという事はその事実が
スワンレイクにバレてしまう事になる。でも、何よりその事実を
スタン自身が知らない以上、秘密は守り続けなければいけない。
それが、チャズが今までのスタンの恋人を殺し続けてきた&
記憶を消し続けてきた理由。
スタンを“応援”し、スタンにとって幸せな記憶を書き込み、そして
不都合な記憶を消す・・の繰り返し。
″それ”が今となってはチャズの存在理由になってしまっている。
“それ”はスタンのためなのか、チャズの贖罪ためなのか。
いずれにしても“それ”が暴かれた以上、生きていけなかったチャズ。

スタンは兄の首つり死体を見ても、かつての恋人の死体を見ても
スワンレイクの死体を見ても、恐がることも無い。
というより、むしろ“死”を理解していないようにも思えてしまう。
スタンが死んでいる事を理解させないために、″死”という概念すら
チャズは消してしまっていたのだろうか、とも思えたりして−。

でも、今までの“彼女”は存在そのものを消されることはなく
「彼女に振られた」という記憶の上書きをしていたのに対して
スワンレイクの存在自体を丸ごと消せと命じたチャズ。
じゃあスワンレイクは他の女性と何が違ったのだろうと思うんだけど
もしかしたら、スタンの本質的なモノに感づいていたのかもしれないな。

そういったチャズの不法行為を暴くためにやって来ていたジャック。
(八嶋さん、おしゃべりなチャラい役のイメージが強いけど、なかなか
キリっとした強い役で新鮮でした)
多くの人が死んだことすら″どうでもいい”状態になってしまう、戦争の勃発。


へやにはメンテナンスをしてくれるドーネンさんも兄も居なくなったスタン。
任務も無くなってしまって、ベッドの上で本を読むジャック。
住む所も行く所もないネハムキンの3人。
チャズが殺したかつての恋人の死体の手が天井からぶら下がり
チラチラ見え隠れ。
そして、死んでしまったチャズやスワンレイク、ドーネンの3名の″影”が
まるで、消せない“念”として残っているかのようなエンディングでした。
“消失”。記憶の消失−、家族の消失−。もしかしたら“平和”や
″秩序”の消失−。なかなか深いタイトルだな・・と思ったのでした。