前から興味があって、やっと観る機会に恵まれた
木ノ下歌舞伎ことキノカブ。 
「そう言えばチケットってどうしたんだっけ?」と昨日気になって
帰宅してからチェックしてみたところ、劇場支払を選択していた様子。
行って・・・ない。・・・・忙しくて、完璧に忘れてたじゃん!期日は4月9日って・・!

木ノ下歌舞伎木ノ下大歌舞伎
「義経千本桜−渡海屋・大物浦−」愛知県芸術劇場小ホール4列
15:00開演、17:15終演
脚本:竹田出雲、三好松洛、並木千柳
演出 :多田淳之介(東京デスロック)
出演:大石将弘、大川潤子、榊原毅、佐藤誠、佐山和泉、武谷公雄、立蔵葉子、夏目慎也、山本雅幸
【あらすじ】
義経とその家来たちは都から落ちて九州へ逃れるため大物浦にある船宿渡海屋に身を寄せる。ところがその渡海屋の主人銀平は、壇ノ浦の戦いで死んだはずの平知盛だった。また、その娘お安は安徳帝、女房お柳(おりゅう)は乳母の典侍局(すけのつぼね)が扮装した姿。知盛は悪天候の中、義経一行を出航させると、幽霊の姿に扮して義経へ復讐を仕掛ける。一方、安徳帝を守りながら知盛を待つ典侍局は、味方の軍勢が義経側の逆襲に合うと知ると帝と共に入水しようとするが、義経主従によって止められる。その間、安徳帝の身を案じて血潮に染まりながら大物浦へ戻ってくる知盛のところへ、義経が安徳帝と典侍局を伴って現れる。「今またわれを助けしは義経が情け、仇に思うな」という帝自身の言葉と、帝の身を守るという義経の言葉を聞き、安心した典侍局は自害。知盛は瀕死の体に碇綱を巻きつけて海中へと身を投じる。




・・・ということは、 私の予約したチケットは既に無効になっており
かつ、この日は人気のある回なので当日券がどの程度出るのか
どの程度当日券希望が居るのか、皆目わからず。
どうしようかな・・・。もう観に行く事自体を止めちゃおうかな・・・。
と、夜中に色々考えたのですが、やっぱり一度は観たいと思って
チケットを押さえた公演なので、当日券を狙う事に決定。

「本日は当日券の数が限られている」というTweetを見たので
発売開始よりも15分ほど前に劇場に行ったら、誰もおらず(驚)。
東京で当日券のために行列を作っている様子を何度も観ているので
思わぬ肩すかしです。さすが名古屋。
結局整理番号は「108」。キャパは確か117になっていたと思うので
確かにほぼ満席ではあったようなんですけどね。
ただ、入場時には60番〜80番ぐらいの方が殆ど不在だったため
思いがけず早い段階で入場ができ、とても観やすい席を確保
することが出来ました。

はー、諦めずに観に来てよかったよ(笑)。




 
劇場に入ると、ステージを取り外し、前方席も潰してありました。
代わりに木製で、穴のいっぱい空いた八百屋状態の舞台・・・
“奇怪其の弐”の時のような舞台が出来上がっていました。
″花道”もありましたが、通常の歌舞伎公演のような高さのあるもの
ではなくて、地面の色が通路状態に違う色で塗られている“通路”です。
そういう意味では「花道」の本来の意味合いとは存在理由が違いますよね。
そして舞台の上空には日の丸の国旗が掲げてあります。
「マニラ瑞穂記」をちょっと思い出すな。
定式幕はなく、スノコを定式幕と同じ色に塗って立てかけ、塀のように
立てかけてあるものもあります。

歌舞伎の「義経線本桜」は何度か観た事がありますが、観たのは
「すし屋」「四ノ切」ばかり。だから、同じ義経千本桜でもこれは
観た事が無いんです。歌舞伎だと「碇知盛」になるのかな?
なので、伝統的な歌舞伎と、木ノ下歌舞伎を比べる事は出来ませんでした。

開演するといきなり大音量でテクノポップな音楽が・・・!
音楽はPerfumeだったり、ジョンレノンだったり、戦場のメリークリスマス
だったり、下座音楽ではなく、色々なジャンルのポピュラーな音楽を 
ガンガン流して使うのが特徴のようですね。 柝を使う事も基本的には無し。

幕開けは安徳天皇の入水シーンからです。
日本史が弱い私でもこれぐらいは知ってる(笑)。
また最近「君の名残を」を読んでいたので、源平の合戦についての
予備知識が以前よりはあったのが助けになりました。
そして崇徳天皇が譲位を迫られ、権力闘争の末に安徳が天皇に即位する
までがすごい勢いでフラッシュバックのように演じられていきます。 
人が死ぬと舞台に着物を脱ぎ捨てていくのですが、それはまるで
累々と溜まる″死”の数を表しているようでもあります。
そしてまた安徳が入水するシーンに戻るのですが、その頃には舞台上は
おびただしい着物の数。まるで水に飛び込んだ平家の死体にも観えますし
舞台の床にあった「穴ぼこ」から赤いライトが当てられ、血を表している
ようにも見えます。
そして、争いが終わるとライトは青色になります。静かな「海」を
表しているようです。

そして義経は鎌倉に戻るのですが、兄に拒絶され、謀反人として
追われる様子も描かれます。
妻の郷御前が自害し、静御前に鼓を持たせて別れるシーンもあって
「ああ、ここが四ノ切に繋がるんだな」なんて納得しちゃったり(笑)。
とはいえ、この辺りまでは義経線本桜ではなく「平家物語」からの話。
導入部として付け加えているようですね。

キャストが舞台上のセットを入れ替え、定式幕カラーの塀を立てかけ
取り外すところからが、義経千本桜のお話になります。

後から色々とチェックして気づくのは、本当にキッチリと義経千本桜を
演じていたんだな、という事ですね。「魚づくし」もあって、あれは
現代語だからとても分かり易かった!
娘お安(実は安徳帝)を跨ぐと帝という高貴の人物の上を跨いだから
弁慶の足がしびれるというくだりもあったし、弁慶が知盛に数珠を渡す
シーンもありました。
言葉は歌舞伎通りのものもあれば、現代語もちゃんぽんに使われていて
どう使い分けをしているのかな、とは思います。
現代語だと「まじで?」とかですからね(笑)。
ただ、やはり言葉が分かり易い分、ストレートに伝わるものはあるし
言葉のニュアンスも掴みやすいです。

義経が去った後、地下から出された無数の着物を、どんどん着せられる
お安こと安徳天皇。
着物といえば、序盤に「死」をイメージさせるシーンがあった事もあり
「十二単衣」的なモノではなく、人の命や人生を背負わされれている
というイメージにも見えてきます。
そう言えば、安徳天皇が女性だったという話もありましたものね。

結局、それらの着物は安徳からはぎ取られ、まとめて碇のような
錘として、知盛が体に結び付けた状態で海に沈んでいきます。
多くの恨みやしがらみを引き受けて死んでいくかのように。
そして義経の無常感も感じられましたねぇ。


イメージとは結構違ったのですが(良し悪しとは関係なく)、なかなか
興味ある作品でした。特に脚本、演出は面白かったなー。
キッチリ原作を大切にしながらも、ドラマチックで見応えのある作品でした。
可能であれば来月歌舞伎座に行って観比べてみたくなりましたよ。
ただ、ちょっと音楽が大きすぎてセリフが聞き取れない所があったり
したのが残念ですね。
前半のテンポが速すぎて、同じ役者さんが何役もするものだから
混乱しがちですし。
そして役者さんは、ちょっと私の好みではない人が居る・・・かも。
人にもよりますが、叫ぶと何を言っているのか聞き取れない方が
いたりしたのも残念なところ(声量の問題ではなく)です。

とはいえ、秋の勧進帳も観に行きたいと思います。
こうやって、いろんな作品が繋がって、理解が深まっていくんだなぁ〜。