木ノ下歌舞伎はどうしてもこの公演が観たかったんです。
スケジュール的に、この公演でないと難しかったのも事実ですが
終演後のアフター講義(60分)に興味があったからです。


kinokabu出演:木ノ下裕一(監修・補綴)
終演後、約60分間
 




終演後そのまま待つこと、5分とか10分ぐらい。
舞台上に机と椅子がセットされ、そこに書籍を何冊も抱えた方が
登場され、お席につかれました。

・・・・この方か。
にこやかで、お話も面白いんですが、どうしても気になることが一つ。
するとご本人から「あ、最初にこれを言っておかないと集中できない
だろうから言っておきます、僕は男です」とのこと(笑)。

あーすっきりした(笑)。
オネエっぽいと言うよりは、髪が男性にしては長髪で、
話す声も少し高めなので、パッと見では女性かと思ってしまいそう(笑)。




 
どんな方なのか、全く存じ上げない方だったので少し調べたところ
和歌山出身で、小さなころから古典に興味を持ち、京都造形芸術大学
に進まれた方のようです。
なるほど。関西弁だったし、ノリのよさもありました。
でも、何よりやっぱり古典が好きな方だったんですね。
この方の歴史や、古典芸能に関する知識量はすごそうですもん。 

まずは「木ノ下歌舞伎」のご紹介がありました。
この木ノ下裕一さんは劇団の主宰でいらっしゃいますが、ご自身で
演出をする事は無く、特定の演出家を持たない劇団なのだそうです。
確かに珍しい。劇団の主宰は演出をしたり、多くの場合は作・演出を
兼ねていて、それが劇団のカラーを形成していると思うので。
とはいえ、お話を聞いていると、直接の演出はしないものの、
稽古など相談しながら作り上げていっているようですし、総合的な
プロデュース役なんでしょうね。

まずは役者さんたちが、歌舞伎の「完コピ」をして、それから
手を加えていって、木ノ下歌舞伎として完成する、という
製作プロセスだそうですが、だから歌舞伎に忠実なんだな、と
思いましたね。

まず木ノ下さんが熱く語ったのは「知盛愛」です(笑)。
いかに平知盛が好きか、という“萌えポイント”を教えてくださいます。
熱意をもって話されると、引き込まれてしまいますよね。
でも、そういう“萌えポイント”が持てるような人が、歴史好きに
なるんでしょうね、私じゃ無理だわ(笑)。

そして、能(船弁慶)と歌舞伎ではどう違うのか、とか
(ラストに知盛がどう消えるか、という点が大きな違いとか)
興味深い話もありました。
壇ノ浦の闘いでの勝因(敗因)についての解説とか、源頼朝の
闘い方や、知盛たち平家の闘い方のスタンダードとその違い、
それがどうセリフに活かされているのか、というのも面白かった。

また「天皇」についての話もありましたが、歌舞伎では
天皇が出てくる作品は決して多くは無く、出てきても、この作品
のように中心に存在するものは珍しいとのこと。
天皇を悪く描く脚本は全く無いのだとか。
(厳密には1本だけあるんですけどね、という補足あり)
もちろん、皇室に対する配慮というか、“許されない事”
であった可能性も高いのですが、幕府を批判したり揶揄したり
するような歌舞伎の作品は残っているんですよね、と。
仮名手本忠臣蔵も、設定を変える事によって、フィクションという
体にし、取締りを逃れて上演された作品でしたよね。

また、巡り巡って安徳天皇というのは、現代においてとても
象徴的ではないか、というお話もありました。
安徳天皇は即位した時には3歳だという話ですから、自身で
考えたり、判断して政を行うのではなく、あくまで「象徴」として
存在していた、そんな所が現代との共通点ではないか、と。
 
お客からの質問に対しても「歌舞伎ではこういう動きですよね」
と直ぐに答える事のできる豊富な知識量にも驚きますが
「古典の解釈というのは、自分の考えを顕在化する作業」
ともおっしゃっていて、その一言がとても印象的でした。
本当に好きで詳しい人の話というのは、聞いていても
とても楽しいものだな、とも思いました。

また機会があれば、木ノ下さんのレクチャーも聞いてみたいです。
豊橋にも行きたいのですが、平日では無理なので、ちょっと残念。