久しぶりの新国立劇場です。去年はほぼ毎月通っていたのにね。
「あわれ彼女は娼婦」新国立劇場中劇場 7列（2列目）
13:00開演、16:05終演
「あわれ彼女は娼婦」新国立劇場中劇場 7列（2列目）13:00開演、16:05終演
作：ジョン・フォード 演出：栗山民也
出演：浦井健治､蒼井優､伊礼彼方､大鷹明良､春海四方､佐藤誓､西尾まり､浅野雅博､横田栄司､宮菜穂子､前田一世､野坂弘､デシルバ安奈､川口高志､頼田昂治､寺内淳志､峰��亮介､坂川慶成､鈴木崇乃､斉藤綾香､�眦勅惰�､大胡愛恵､石田圭祐､中嶋しゅう【あらすじ】
中世のイタリア、パルマ。勉学に優れ、人格的にも非の打ち所がないと将来を嘱望されるジョヴァンニは、尊敬する老修道士に、類まれな美貌の妹アナベラを女性として愛していると告白し、修道士の忠告も聞かずにアナベラに気持ちを伝えてしまう。愛するがゆえに、ついに道ならぬ恋に身を委ねる二人。兄妹の運命は、いかに......。
この戯曲は蜷川幸雄さんの演出で1度観ています。
まだまだ本格的に観劇 を始めたばかりの2006年の観劇ですが
とても印象に強く残っている作品です。
当時のフライヤーもなかなかインパクトがありましたし、
とにかくエンディングのイメージが強くって。
かといって、ぜひ観たい！と言う程好きな戯曲でもなくて
主演が浦井君でなければ、行っていたかどうか・・・。
でも観に行ってよかったです、何故か今回はセリフも内容も
ストンと腹におちる所が多かったんですよね。
それにしても、このフライヤー、お目にかからないですねぇ。
折り込まれているのかな？
中世のイタリア、パルマ。勉学に優れ、人格的にも非の打ち所がないと将来を嘱望されるジョヴァンニは、尊敬する老修道士に、類まれな美貌の妹アナベラを女性として愛していると告白し、修道士の忠告も聞かずにアナベラに気持ちを伝えてしまう。愛するがゆえに、ついに道ならぬ恋に身を委ねる二人。兄妹の運命は、いかに......。
この戯曲は蜷川幸雄さんの演出で1度観ています。
まだまだ本格的に観劇 を始めたばかりの2006年の観劇ですが
とても印象に強く残っている作品です。
当時のフライヤーもなかなかインパクトがありましたし、
とにかくエンディングのイメージが強くって。
かといって、ぜひ観たい！と言う程好きな戯曲でもなくて
主演が浦井君でなければ、行っていたかどうか・・・。
でも観に行ってよかったです、何故か今回はセリフも内容も
ストンと腹におちる所が多かったんですよね。
それにしても、このフライヤー、お目にかからないですねぇ。
折り込まれているのかな？
舞台には、十字架を連想させる交差した通路のようなものが
斜めにあり、下手には地下に繋がる階段があります。ジョヴァンニは
よくここから登場していました。照明は“赤”色がよく使われていました。
今回、観劇後に改めて蜷川演出版の同作品の録画を引っ張り出して
観直してみました。（録画状態が悪くて全部は観られなかったけど。）
脚本は基本的に同じはずなのでしょうが、受ける印象が違うなあ
と改めて思いました。
以前観た時には、前触れもなくジョヴァンニがアナベラを好きすぎて
その唐突感に置いて行かれた感があったのですが、今回は
私の心構えが出来ていたからか、浦井ジョヴァンニが静かなトーンで
話しているからか、そこまでではなかった気がします。密かに燃えていた
炎に一気に火が付いた・・という感覚で観られました。
一見、穏やかに神父の話を聞いているようではありますが、彼に
静かな決意を感じます。
しかし、ジョヴァンニは成績優秀で将来を嘱望された若者と言う事ですが
これ以前に人を好きになった事は無かったのだろうか？と思っちゃう。
ドキドキしながら妹に告白し、ラブラブな時期を過ごし、妹が妊娠すると
オロオロしちゃって何もできず、ソランゾと結婚を止める事もせず。
「好き好き」だけで、頼りにならないというか・・・(苦笑)
なんか、このジョヴァンニと言う人には人としての魅力が感じられない。
それに対して、アナベラは女性の強さ、したたかさが現われています。
ジョヴァンニと結ばれた後で、バーゲットから貰った宝石を見せびらかし
嫉妬させてみたり、結婚後のソランゾには「結婚を望んだのは私じゃない」
とか盛大に開き直るし。そもそも妊娠が発覚して、それをカモフラージュ
するためにソランゾと結婚を決意するのも、自分だけでなくジョヴァンニ
を守ろうとしているようでもあるしね。
そういう、一見か弱いけど芯が強いというか、図太さのある“女性”
というものを体現されているように思いました。
蜷川版と大きく違うと思ったのは、最後の祝宴の場での殺戮シーン。
蜷川版ではジョヴァンニはその場にいた人のほとんど全てを惨殺し
最後に殺されていきますが、栗山版では大量殺人は起こらない。
自分を含めて、世の中全てを壊したいと思っているかのような
蜷川版に対し、再び「自由にアナベラを見られる」事を希望し
自己破滅を望んだジョヴァンニを描いたような栗山版。
個人的には蜷川版の方が、この場には相応しいような気がします。
この作品の時代はまだ女性は男性の所有物とされていた時代。
浦井君はインタビューで「妹を守りたいと思う気持ちが最初にあった
のでは」と答えていましたが、それはどうだろう・・・と私は思います。
アナベラを自分の手で殺し、これ以上誰の手にも渡さないようにし
自分への想いが詰まった“心”の象徴として死体から心臓を取出し
それを食べて、アナベラの肉体を自分の一部にしようとする。
そしてこの事を「勝利」とジョヴァンニは言っていて、結局のところは
誰よりもジョヴァンニが女性（アナベラ）を自分の所有物として
考えていたのではないのか？なんて思ってしまうのですよ。
そして蜷川版を観た時には、あまり感じられなかったヴァスケスの存在。
彼の本心が最後まで読めない不思議な存在でした。
結局、この作品を通して一番の勝者はヴァスケスなんだろうな。
「主人に忠実に仕えた」のは、間違ってはいないのだけど、
本心から忠実に仕えた訳ではなく、こうなる事（自分を祖国から
引き離した犯人たちが死ぬこと、そして祖国に戻る事）をずーっと
気の遠くなるほど長い期間、願い、そして企んでいたのだろう、
アナベラもジョヴァンニもソランゾも、彼の中では“駒”にしかすぎない
そう思わせられる程、存在を感じました。
それは、以前観た時の私の観劇スキルが低かった事が大きいですが
今回それに気づけて、作品から受ける印象が変わりました。
ジョン・フォード「純粋な愛」を描きたかった訳じゃないのではないかな、
と思うのですよね。いろんな面で、すごくシニカルなんだもの。
アナベラを「あわれ彼女は娼婦」と言った時の“娼婦”の持つ意味も、
身体を売って生計を立てる女性を指している訳じゃないだろう、
という事ぐらいは分かりましたけど、以前はなぜ「娼婦」と言う
言葉を使ったのかピンとこなかったのだけど、
「男に狂って、道を見失ったあわれな女に成り下がりやがって」
ぐらいな感じなのかな、と今回は思いました。
枢機卿の当時の権力を描写したところにも言えますが、やはり宗教観や
時代背景の理解が少なからず必要な所なので、翻訳劇を観るときに
歯がゆさを感じる所でもあります。
（まあ、そこを紐解いていくのが面白かったりもするんだけどねー。）
最後に役者さんについて。
お目当ての浦井君。ほんと・・・もう少し姿勢に気を付けて（涙）。
アルカディアでは許されても、今回の役では、気になって仕方ない。
とはいえ、彼の狂気の演技は目を奪われますね、やはり。
ビジュアル的にちょっとすごい事になってましたけど(笑)、完全に
別の世界に住む人のようになってしまっていて、眉をひそめたく
なるほどでした。いつの間に浦井くんはこんな狂気が似合う俳優に
なったんでしたっけ(笑)。
蒼井優さんは、華奢で、長身の浦井君と一緒にいると「妹」な感じが
出ているのですが、小悪魔的だったり、残酷な表情だったり、とても
表現が豊かで、お似合いの役だと思いましたよ。
ソランゾは伊礼君。カッコよさでは前回の谷原章介さんの方が
好みでございました。ただ、昔ヤンチャしていたボンボンな感じは
伊礼君の方がよく出ていたし、チャラさの片鱗が残っていないと
いけないので、この役には“正解”なんだと思います
ヴァスケスの存在感には横田さんの演技があればこそ、なので
言う事ないんですが、今回驚いたのはバーゲットを演じた野坂弘さん。
存じ上げないな・・と思ったら、新国立劇場演劇研修所のご出身とか。
ここ出身の役者さんって、まだ売れていない方が多いですけど
いい演技される方、いらっしゃるんですよねぇ。
前回は�盒桐里気鵑�演じていらっしゃって、洋さんのバーゲットも
とても良かったし、彼を上回るバーゲットは無いだろう、ぐらいに
思っていたんですが・・・今回は本当に良かった。
もしかしたら、彼の脳天気さだったり、その脳天気さ故の切なさは
勝っていたかも、とすら思います。是非もっとご活躍頂きたい方です。
収録もされていたようなので、NHKかどっかでいずれ放送されたら
またゆっくり観てみたいなと思います。
今回の観劇がきっかけで、過去の映像を見直して、その良さに
改めて気づいたりもしたので、色んな意味で観に行って良かったです。
斜めにあり、下手には地下に繋がる階段があります。ジョヴァンニは
よくここから登場していました。照明は“赤”色がよく使われていました。
今回、観劇後に改めて蜷川演出版の同作品の録画を引っ張り出して
観直してみました。（録画状態が悪くて全部は観られなかったけど。）
脚本は基本的に同じはずなのでしょうが、受ける印象が違うなあ
と改めて思いました。
以前観た時には、前触れもなくジョヴァンニがアナベラを好きすぎて
その唐突感に置いて行かれた感があったのですが、今回は
私の心構えが出来ていたからか、浦井ジョヴァンニが静かなトーンで
話しているからか、そこまでではなかった気がします。密かに燃えていた
炎に一気に火が付いた・・という感覚で観られました。
一見、穏やかに神父の話を聞いているようではありますが、彼に
静かな決意を感じます。
しかし、ジョヴァンニは成績優秀で将来を嘱望された若者と言う事ですが
これ以前に人を好きになった事は無かったのだろうか？と思っちゃう。
ドキドキしながら妹に告白し、ラブラブな時期を過ごし、妹が妊娠すると
オロオロしちゃって何もできず、ソランゾと結婚を止める事もせず。
「好き好き」だけで、頼りにならないというか・・・(苦笑)
なんか、このジョヴァンニと言う人には人としての魅力が感じられない。
それに対して、アナベラは女性の強さ、したたかさが現われています。
ジョヴァンニと結ばれた後で、バーゲットから貰った宝石を見せびらかし
嫉妬させてみたり、結婚後のソランゾには「結婚を望んだのは私じゃない」
とか盛大に開き直るし。そもそも妊娠が発覚して、それをカモフラージュ
するためにソランゾと結婚を決意するのも、自分だけでなくジョヴァンニ
を守ろうとしているようでもあるしね。
そういう、一見か弱いけど芯が強いというか、図太さのある“女性”
というものを体現されているように思いました。
蜷川版と大きく違うと思ったのは、最後の祝宴の場での殺戮シーン。
蜷川版ではジョヴァンニはその場にいた人のほとんど全てを惨殺し
最後に殺されていきますが、栗山版では大量殺人は起こらない。
自分を含めて、世の中全てを壊したいと思っているかのような
蜷川版に対し、再び「自由にアナベラを見られる」事を希望し
自己破滅を望んだジョヴァンニを描いたような栗山版。
個人的には蜷川版の方が、この場には相応しいような気がします。
この作品の時代はまだ女性は男性の所有物とされていた時代。
浦井君はインタビューで「妹を守りたいと思う気持ちが最初にあった
のでは」と答えていましたが、それはどうだろう・・・と私は思います。
アナベラを自分の手で殺し、これ以上誰の手にも渡さないようにし
自分への想いが詰まった“心”の象徴として死体から心臓を取出し
それを食べて、アナベラの肉体を自分の一部にしようとする。
そしてこの事を「勝利」とジョヴァンニは言っていて、結局のところは
誰よりもジョヴァンニが女性（アナベラ）を自分の所有物として
考えていたのではないのか？なんて思ってしまうのですよ。
そして蜷川版を観た時には、あまり感じられなかったヴァスケスの存在。
彼の本心が最後まで読めない不思議な存在でした。
結局、この作品を通して一番の勝者はヴァスケスなんだろうな。
「主人に忠実に仕えた」のは、間違ってはいないのだけど、
本心から忠実に仕えた訳ではなく、こうなる事（自分を祖国から
引き離した犯人たちが死ぬこと、そして祖国に戻る事）をずーっと
気の遠くなるほど長い期間、願い、そして企んでいたのだろう、
アナベラもジョヴァンニもソランゾも、彼の中では“駒”にしかすぎない
そう思わせられる程、存在を感じました。
それは、以前観た時の私の観劇スキルが低かった事が大きいですが
今回それに気づけて、作品から受ける印象が変わりました。
ジョン・フォード「純粋な愛」を描きたかった訳じゃないのではないかな、
と思うのですよね。いろんな面で、すごくシニカルなんだもの。
アナベラを「あわれ彼女は娼婦」と言った時の“娼婦”の持つ意味も、
身体を売って生計を立てる女性を指している訳じゃないだろう、
という事ぐらいは分かりましたけど、以前はなぜ「娼婦」と言う
言葉を使ったのかピンとこなかったのだけど、
「男に狂って、道を見失ったあわれな女に成り下がりやがって」
ぐらいな感じなのかな、と今回は思いました。
枢機卿の当時の権力を描写したところにも言えますが、やはり宗教観や
時代背景の理解が少なからず必要な所なので、翻訳劇を観るときに
歯がゆさを感じる所でもあります。
（まあ、そこを紐解いていくのが面白かったりもするんだけどねー。）
最後に役者さんについて。
お目当ての浦井君。ほんと・・・もう少し姿勢に気を付けて（涙）。
アルカディアでは許されても、今回の役では、気になって仕方ない。
とはいえ、彼の狂気の演技は目を奪われますね、やはり。
ビジュアル的にちょっとすごい事になってましたけど(笑)、完全に
別の世界に住む人のようになってしまっていて、眉をひそめたく
なるほどでした。いつの間に浦井くんはこんな狂気が似合う俳優に
なったんでしたっけ(笑)。
蒼井優さんは、華奢で、長身の浦井君と一緒にいると「妹」な感じが
出ているのですが、小悪魔的だったり、残酷な表情だったり、とても
表現が豊かで、お似合いの役だと思いましたよ。
ソランゾは伊礼君。カッコよさでは前回の谷原章介さんの方が
好みでございました。ただ、昔ヤンチャしていたボンボンな感じは
伊礼君の方がよく出ていたし、チャラさの片鱗が残っていないと
いけないので、この役には“正解”なんだと思います
ヴァスケスの存在感には横田さんの演技があればこそ、なので
言う事ないんですが、今回驚いたのはバーゲットを演じた野坂弘さん。
存じ上げないな・・と思ったら、新国立劇場演劇研修所のご出身とか。
ここ出身の役者さんって、まだ売れていない方が多いですけど
いい演技される方、いらっしゃるんですよねぇ。
前回は�盒桐里気鵑�演じていらっしゃって、洋さんのバーゲットも
とても良かったし、彼を上回るバーゲットは無いだろう、ぐらいに
思っていたんですが・・・今回は本当に良かった。
もしかしたら、彼の脳天気さだったり、その脳天気さ故の切なさは
勝っていたかも、とすら思います。是非もっとご活躍頂きたい方です。
収録もされていたようなので、NHKかどっかでいずれ放送されたら
またゆっくり観てみたいなと思います。
今回の観劇がきっかけで、過去の映像を見直して、その良さに
改めて気づいたりもしたので、色んな意味で観に行って良かったです。
