私は一部の作品を除き、一度観ると再演は特に観たいと思わない
事が多いのですが、この作品に関しては迷いなく「もう一度観たい」と
チケットを押さえていたのでした。

ブラックメリーポピンズ「ブラック メリー ポピンズ」愛知県芸術劇場大ホールA列
18:30開演、20:40終演
作曲・脚本:ソユンミ 演出:鈴木裕美
出演:小西遼生、上山竜治、中川翔子、良知真次、一路真輝
【あらすじ】
1920年代初頭、ドイツの著名な心理学者グラチェン・シュワルツ博士の豪邸で火事が起こり、博士の遺体もろとも、すべてが燃え尽きた。全身に火傷を負いながら、猛火の中から博士の4人の養子達、 ハンス、ヘルマン、ヨナス、アンナを救い出した家庭教師メリー・シュミット。しかし、翌日メリーは失踪。 子供たちは誰一人その悲惨な出来事を覚えていない。それから 12年。 いつしか事件は忘れられ、それぞれ違う家庭で新しい人生を送っている4人は、当時グラチェン博士によって書かれた手帳の存在を知る。 そこには事件の真相が・・・。あの夜、いったい何があったのか・・・。 封印されていたパンドラの箱が開けられる。 


初演を観たのは2014年だから、2年前ですか。
ストーリーも記憶に残っているし、舞台美術も印象的で
とにかく「照明が美しかった」という記憶が強く残っていました。

キャスト5名のうち、音月桂さんが中川翔子さんに替わった以外は
キャストは全員続投だったのも、嬉しかったですね。

ただこの作品は最前列で観るもんじゃないなー。
舞台上に“盆”を仕込んであるから、更にかさ上げされていて
観づらくて観づらくて。真ん中のソファーが邪魔になって、
ドアから誰が入って来たのか、見えなかったのが残念。



 
思っていた以上に、初演を再現されていたように思います。
初演は最後列で観ていたので細かいところまでは分かりませんが
セットも同じだし、脚本も特に大きな変更があったという訳ではない
と思います。

そういう意味では、初演で観た時の感想と大きく違いません。
(悪い意味ではなく、むしろいい意味で。)
なので、同じように感じた事は改めて書きませんが、今回は
最前列と言う事もあって、役者さんたちの表情など、とても
緊迫感があって、見入っておりました。

ヨナスの壊れっぷりは痛々しいし、ヘルマンの必死さは
観ていて苦しくなる。そして堂々としていたハンスが、実は自分が
殺人犯じゃないかと長年苦しんできたことを告白する所では
本当にちっちゃくなってしまって、これまた痛々しかったです。
私が一度観てその後の展開を知ってしまっているから・・という
理由だけではないと思えるほどの熱演でした。

とはいえ、やはり1度観ておりますので、序盤に何度か出てくる
「子供の頃は幸せだった」というセリフを聞いて、その“幸せ”は
本物の幸せなの?とやるせない気持ちになるし、腕をまくっている
ヘルマンの手首のケガは気になって仕方がない。
メリーが飲ませるシロップに「あーあ、飲んじゃったよ」と思うし。
ヨナスがお父さんにプレゼンとする話は「家庭教師が傘をさして
空から降りてくる」という内容だったという事を今回初めて気づきまして、
心を病んだ事に納得がいきましたね。

でもやっぱり小西さんの、子供と大人の演じ分けはお上手だなあ。
そして、今回が初舞台だったというしょこたんこと中川翔子さん。
正直、声量はまだまだ・・・な感が否めませんが、ミュージカルの
歌唱をきちんと練習されたんだろうな、と思う丁寧な歌い方は
とても好印象でした。
背も小さいけど細いし、顔も小さいし、「守ってあげたい」感が
一杯で、音月さんとは違うアンナだったと思いますよ。
椅子取りゲームのシーンで男っぽく豹変する所に関しては
音月さんの変わりっぷりと、男前っぷりには叶わないし、
だからこそ記憶が戻るに従って、男前っぷりが戻ってくる様子は
音月さんの方が明確だったのですが、もともと“男”を演じていた
方と中川さんを比較するのは気の毒ですよね。
中川さんは「ああ、いるいる、こういうおてんば娘」と思う感じ。
下着が(もちろんリアル下着ではない)見えたってお構いなしっていう
感じが、中川アンナを象徴しているかな、と思います。
小動物みたいで可愛らしいアンナでした。

彼らは辛い事実を思い出して、苦しむ事になってしまったけど、
同時に兄弟がお互いをかばいあった事、メリーが心から心配して
助けに戻ってくれた事、つまり、自分たちが愛されていたという事も
思い出せた。ヨナスが再度記憶を消すことを拒否したのは、
そういう、忘れたくない想い出もある、という事に気づいたから・・かも。
彼らはきっと乗り越えていってくれるだろう、そう初演よりも強く思えた
エンディングでございました。

前回息を飲むほど美しいと思ったラストの照明は、最前列だという
事もあって、あまり堪能できなかった・・な。
やはり照明はある程度後ろから観たほうが楽しめる気がする。
でも、途中途中で差し込まれる不協和音のような、気持ちの悪い音と
マリーの影や、ドアに映し出されるプロジェクションマッピングなど
上手く使っているなあ、と思いました。

当日は大千秋楽だという事で、ご挨拶もありました。
大きな劇場なのですが、2階までほぼ埋まり、3階にも4階にもお客が
入っていたので、盛況だったと思います。

一路さんの名古屋弁披露も今や定番ですが(笑)、他のメンバーは
中川さんを褒めるコメントが多かったですね。
「再演チームよりも早く段取りなんかを覚えていた」とか
「彼女を見ていると、自分の初舞台の事を思い出した」とか
「彼女を見ていると、舞台に出る事の喜びや怖さを改めて気付く」とか。
“お父さんのプレゼント”の箱がプラスチック製なんだそうですが、
中川さんがバンバン頭にぶつけるものだから、ヒビが入ったりして
壊れる寸前だったのだとか。「スタッフは箱を心配して僕を心配しない」
って上山君は嘆いていましたけど(笑)。

「じゃ、中川さん締めて」と一路さんに言われても、怯んだり、戸惑ったり
することなく、バチっと締められたり、感極まって泣くかと思いきや、
(本番中は泣きそうだったそうですが)きっちり対応しきる様子をみて
この子は本当に、長い間「プロ」なんだなあ、なんて感心してしまいました。
 
2度観ても面白かった〜♪ 観に行って良かったです。