本日朝から健康診断。バリウムも飲んで、お腹の調子もイマイチで
これで観劇して大丈夫か? と思いながらも劇場へ。

DISGRACED「DISGRACED−恥辱−」名古屋市民会館 い列(2列目)
19:00開演  20:45終演
脚本:アヤド・アフタル  演出:栗山民也
出演:小日向文世、秋山菜津子、安田顕、小島聖、平埜生成
【あらすじ】
説明 ニューヨークの高級アパートメントに暮らすアミール(小日向文世)はパキスタン系アメリカ人、企業専門の弁護士事務所に所属する優秀な弁護士だ。妻のエミリー(秋山菜津子)は白人の画家。ある日、アミールの甥エイブ(平埜生成)が訪ねてくる。エイブはアミールに、自分たちの指導者が逮捕されたので助けてほしいと訴えに来たのだ。拒否するアミール、だが妻のエミリーは助けるべきだと主張する。結局、審問に立ち合い、人生の歯車が狂いだす。ある夜アミールと同じ事務所で働く黒人弁護士ジョリー(小島聖)と、その夫でホイットニー美術館のキュレーター、ユダヤ人のアイザック(安田顕)が訪ねてくる。画家でもあるエミリーの作品がホイットニー美術館に展示されるお祝いのホームパーティだった。誰もが、成功を掴んだと思っていた、しかし、最後に掴んだものは……



舞台好きの人には堪らないキャスティングです。
平埜さんのみ初見ですが、それ以外の方は大好きな俳優さんばかり。
2013年にピューリツァー賞、2015年にトニー賞を受賞した作品
という事ですから、かなり新しい戯曲ですね。
こういうタイプのストプレが名古屋で公演されるのは、今となっては
珍しいと思いますが、恐らく名古屋公演が無くても遠征していたと思います。





舞台としては面白かったんです。
でも、なかなか感想を書くになれなかったのですよね。
作者のアヤド・アフタルはパキスタン系米国人であり、その彼の
出自がこの作品に大きな影響を与えているであろうことは、容易に
想像ができ、そして、それは私の浅い知識では到底理解には及ばない
であろう、と思うと途方に暮れ、どうしても手が止まってしまいました。

ただ、念のために書いておくと、舞台作品としては難しいテーマを
分かりやすく書かれてるんだと思います。
観ていて分かったような気になれますから(笑)。
でもそれを文章にまとめようと思うと、どうしても難しくて。

登場人物は5名。
パキスタン系アメリカ人の弁護士アミール(小日向文世)と、白人で
イスラム文化に影響を受ける画家の妻であるエミリー(秋山菜津子)
アミールの後輩の黒人弁護士のジョリー(小島聖)と、その夫で
美術館のキュレーターをしているアイザック(安田顕)、そして
イスラム系の政治的なグループに属するアミールの甥である
エイブ(平埜生成)。

日本生まれの日本育ちの私には、これだけではあまりピンと
来ないのですが、同じテーブルに黒人と白人、ユダヤ人と中東人が
席を共にする。9.11があってパキスタン系の人に対する偏見が強い。
そんな事が、ホームパーティーの席での会話で徐々に明らかに
なっていくにつれて、この面子が実はすごい顔合わせで、
平穏で楽しげな会話を繰り広げている様子が、実は欺瞞に満ちて
いたのか・・?と思うに至り、スリルが増し、寒々しい思いになって
いきます。

人種のるつぼでもあるアメリカ、特にNYでのアッパークラスの人ですら
こうなのであれば、他の人は推して知るべしでしょう。

アミールは努力をしてパートナーを狙えるほど成功を収めて
きているのだけど、実は偏見を恐れて出自を偽っている。
白人であるエイミーはイスラム文化に影響を受けているのだけど、
イスラムの人の事を本質的に理解しているようには思えず、どこか
ファッションとして捕らえているようなフシがある。
アミールの甥はナショナリズムに傾倒している。
アミールは黒人であるジョリーを心なしか下に観ているようでもある。
そんな心の内を隠してのディナーの席が、それぞれのちょっとした
言葉がキッカケとなり、エキサイトしていく。
もう、観ている方はオロオロするというか、見守るしかないという
状況になっていきます。
それ程、各人の意見には妥協点が見いだせず、これから妥協が
出来るようにも思えないのです。
この辺りが、表面的には分かった気になれても、どうしても本質的な
部分で理解することが出来ないんだろうな、と思う部分。

結局、パートナーへの道が閉ざされ、良かれと思って取ってきた態度が
裏目に出て、どんなに努力しても自分の出自が障がいとなる絶望感に
妻のエミリーの浮気を知って、アミールはエミリーを殴りつけてしまいます。
その前に、「イスラムの教え」だというセリフがありますが、実際に
2016年にパキスタンで影響力を持つイスラム教組織の指導者が
「妻が夫の指示に従わない場合は、夫が妻をしつけるという意味で
妻への殴打を認める」法案を提出したのだとか。
アミールがその考えについてどう思っていたのかまでは不明ですが
長年アメリカで暮らしていても、きっと何かしらの影響は受けて
いたのだろうな、という根の深さを感じさせます。

ここでエミリーは殺されたかと思ったのですが(笑)、そこまででは
なかったようで、二人は結婚生活を解消。
その後、訪ねてきたエミリーに対して、アミールは
「どうか僕の事を誇りに思ってほしい」とか言うんですが、
私からしたら「どの口が言う!」としか思えなくて、この台詞の真意が
分かりませんでした。

エミリーとアイザックのキスシーンを見咎めたジョリーがいきなり
たどたどしい日本語になった所があって、もしかするとジョリーは
アメリカ生まれではなく、移民なのかしら(興奮すると英語がすんなり
出てこなくなる・・という事か?)なんて思ったのも、印象深かったです。


動詞としてのdisgraceは「恥をかく」「名を汚す」なので、それが
disgracedとなれば「恥をかかされる、名を汚される」となる訳ですが
主語は誰になるんだろう・・という事をずっと考えていました。
単純に考えればアミールなんだろうな、と思うのですが、実はそれぞれ
全員にそう言う部分があるのではないだろうか、とも思うのです。

会話劇としては非常に観応えがあり、面白い作品ではありましたが
簡単に「面白かった」と言ってはいけないような気分にさせる
そんな作品だったとも思います。