あっという間に秋になったなぁ・・・と思いながら10月の遠征。

フリック「フリック」新国立劇場小劇場 B3列(3列目)
13:00開演、16:00終演
作アニー・ベイカー  翻訳:平川大作 演出:マキノノゾミ
出演:木村了、ソニン、村岡哲至、菅原永二
【あらすじ】 
マサチューセッツ州ウースター郡の古びた映画館。いつか映写係になることを夢見て働くサム。映画狂のエイヴリー。まだ35mmフィルムで映画を映写しているこの映画館だからこそ働きたい、とようやく働き口を見つけたにも関わらず、時代の波はデジタル化に向かい、フィルム映写機からデジタル映写機に移行するという話が持ち上がる。どうせ自分は下流階級に属しているからと卑屈になりながらも、与えられた仕事をそれなりに、けれど懸命にこなす従業員たちだったが、デジタル化が意味するものは、従業員の数を減らすという通告でもあった......。



どうしても観たいという訳じゃなかったけど、新国立の演目は
基本的に観たいと思っていますので。


THE FLICK
小劇場の入り口右手側、の壁に出来ていたプチセット。
新国立のベアちゃん達がTHE FLICKで映画を観ている・・らしい(笑)。



 
 

客席に入ると客席がある()

ここは「THE FLICK」という映画館が舞台になっており、ちょうどスクリーン側が

私たちの客席になっているため、映画館の客席が真正面に見える状態です。

 

どうやらエンドロールらしきものが流れ、上映が終わったようで

映画館のスタッフ2名が入ってくるところで開幕。

1名が先輩で、1名が新人らしく、その箒の使い方のぎこちなさと、ちり取りを

座席にバンバンぶつける様子で不慣れさが良く伝わってきます。

何度も暗転になる度に、少しずつエイヴリーと先輩との距離感が詰まって
いる事が会話の内容やエイヴリーの言葉遣いで分かるし、掃除道具の
扱い方が慣れてきていることで、エイヴリーがここの仕事に慣れてきた事が
分かるようになっています。 

 

ここのスタッフはどうやらオーナーを除いて45名居るようだけど、舞台に
登場するのは3名のみ。

この3人の中では一番の先輩で、映写係に憧れる少し頼りないサム(菅原永二)と、
色っぽいのだけどガサツ、一旦は恋愛に燃えるけど直ぐに飽きてしまって
長続きしないという映写係のローズ(ソニン)、黒人で大学教授の息子のエイヴリー。

映画館はデジタル化の波にも乗らない(というか取り残された)、35ミリフィルム

の上映館で、クレジットカードすら使えない。

アメリカにおいてクレジットカードが使えないって、相当遅れているはず。

私がアメリカに行っていた25年前でも、コンサートの物販コーナーですら
カードが使えたのを覚えてますから。

 

ただ、映画マニアのエイヴリーは、フィルムで上映してこそ映画だと言う。

ああ・・いるよね、こういう映画に哲学を感じるタイプの人()

3人の会話の中で、映画に対するスタンスが少しずつ違う事が分かってきます。

「アバター」を推すサムは、大衆的な大作映画も好むのに対して、

逆にハリウッドの大作を小馬鹿にするようなエイブリー、そして

好みはエイヴリーに近そうだけど、「仕事の対象」としての見方しかしなく

なってきているローズ。それぞれの生活環境とも比例しているようでもあります。

 

メンタル面の弱さと、育ちの良さを感じさせるエイブリーを演じたのは木村了君。

何がすごいって、身振り手振りがアメリカ人のそれなんですよね。

細かいなぁと感心してしまいます。ただ・・・これはアメリカ人らしい身振りを
する必要があったのかしら?とも思います。ここは日本で日本語で上演する
し、木村君はどんなにヒサロで肌を焼いても、やはり日本人な訳で、
むしろ距離を感じてしまったりするのが、いいのか悪いのか・・と。

少し要領が悪くて、人の良いサムもいい味出してたなぁ。
トイレを汚物で汚されて、エイヴリーが吐きまくった後、モップを掲げて
「映画館ではこういう事が起こるんだ、俺に任せろ」 って、無駄にカッコいい(笑)。

ソニンも演じる幅の広い役者さんだと思うけど、今回はいわゆるアバズレ系。
倦怠感を隠さず常にアンニュイな雰囲気なんだけど、この人も自分の感情や
自分自身を持て余しているだけ。
金曜日の夜にローズとエイヴリーが本心を少しずつ語るシーンが良かったです。

3人はそれぞれ全く違う。
映画に対する考え方も、映画館の近代化に対する考え方も。
「ディナーマネー」という売り上げをくすねて、従業員で山分けする事に
対する考え方も。
経営者が変わり、ディナーマネーの存在がバレてエイヴリー一人に嫌疑が
かかった時の反応が一番顕著だったかな。一緒に真実(3人とも共犯)を
名乗り出てほしいというエイヴリーに対して
「自分勝手な事言うな。アンタと違って私はこの仕事を失う訳にはいかない」
と逆切れするローズ。
「お前はフィルム上映でなくなったら辞めるって言っていたじゃないか。
(だから解雇されてもいいだろ?)」と言ってくるサム。
恐らく、ここの経営者はエイヴリーの単独犯行じゃないと分かっていて、
リストラの為に彼一人に罪を被せたのかんじゃないかな、もしかしたら
人種差別主義者かもしれないし。エイヴリーの危惧した通りになった訳で。 

この時にエイヴリーが話す映画のフレーズ(詳細は忘れたが)が
このシチュエーションにピッタリで、聴き入っちゃいましたよ。 

ここだけで「社会の縮図」と言うのは少し乱暴な気もするけど、
エイヴリーは解雇され、残り2人はそれなりに楽しそうに新しい制服を着て
変わらずにTHE FLICKで働き続ける・・っていうのが、夢が無くて(笑)、
でも、現実はそんなものだよね、って思わされる。
どうやらサムはローズとよろしくやっているようだし。
その後やって来たエイヴリーは、バツの悪そうに謝るサムに対して
「人を信じた自分がバカだっただけだ」と言い切る。
サムにとっては、罵られるよりも居心地の悪い反応だよね。
以前やっていたゲームを仕掛けても、そのまま帰ってしまうエイヴリー。
その後、長い時間、壁にもたれてひとり立ち尽くすサム。

でもその後フラっと戻ってきて、ゲームの答えをサムに伝え
「楽勝さ」と言って立ち去るエイヴリー。世の中捨てたもんじゃないかも。
そう思えるホッコリシーンでした。
きっとこの後もTHE FLICKでは大きな事件もなく、同じような日々が
繰り返されていくんだろうな、そしてその中に人の人生があるんだよな
そんな事を思ったエンディングでございました。

私は映画に哲学を感じるタイプでは100%ないし、そこそこ本数を
観てはいるけど、決して詳しくは無い。
でも本当の映画好きだったら、多くの作品が出てくるので、そういう面でも
楽しめる1本だったかもしれません。


舞台模型
今回の舞台模型。奥が映写室になっています。

※劇場の方に撮影及びSNSアップの許可もらってます