正直言えば、すごく興味があったという程でもなく、地元公演だしなー
ちょっとひねくれたキャスティング(これだけのメンツが集まっているのに
完全なストレートプレイ)にクスっとして、「行こうかな」とチケットを
押さえてた、という感じだったので、危うく忘れてしまうところでした(爆)。

扉の向こう側
「扉の向こう側」アートピアホール 13列
18:30開演、21:15終演 
作:アラン・エイクボーン  演出:板垣恭一
出演: 壮一帆、紺野まひる、岸祐二、泉見洋平、吉原光夫、一路真輝
【あらすじ】 
人生の成功者として日々を送っていた実業家リースはジェシカとルエラ・二人の妻を殺した過去を持つ。と言っても、手を下したのは彼自身ではなく、彼の共同経営者のジュリアンだった。しかし、70歳になり死を意識し始めたリースは、過去の自分に自ら制裁を下すかの様に、自分とジュリアンの悪事を告白する文書を書く。その文書を法的に有効なものとする為には第三者の署名が必要だ。そこでリースは、彼が滞在するホテルのスイートルームに娼婦・フィービーを呼んで署名させようとするが、それに気づいたジュリアンはフィービーの殺害も企てる。身の危険を感じ、コネクティングドアーから隣の部屋に逃げ込むフィービー。ところがその扉の向こうは過去と現在を繋ぐ不思議な空間となっていたのだ。そこでフィービーは、殺害された筈の二人の妻・ジェシカ、そしてルエラと出会う。お互いの立場を何とか理解した3人の女たちは、自分たちの殺人事件を未然に防ごうと奮闘する。果たして・・・。




18時30分開演だと慌ただしいわ・・。 
あまり前方席は取れなかったのだけど、この劇場は
ある程度中盤以降は傾斜がしっかりついていて観やすいんですよね。
通路わきの席だから尚更観やすくて良かったです。





中央の奥には大きなバルコニーがあり、その窓が開いていて
手前にはソファ。上手奥はお手洗いらしい。下手にはバーカウンターも
あるホテルの部屋で、しかもかなりリッチな部屋のよう。
そこにやってくるのが、SMクイーンのフィービーを演じるのは壮一帆さん。
どうやら彼女は友人の代役でやってきたよう。
壮さんは凄い衣装で、べらんべぇ調で話したりするのだけど、どうもよそよそしい
というか、まだ台詞まわしが少し宝塚っぽいなーと言う感じですかね。
でも終盤、白いドレスを着た辺りからは立ち居振る舞いがやはり
華があって素敵だな、と。それまでは恐らく意図的に背中を丸めたりして
姿勢を悪くしていたようなんですが、なんか・・しっくりこなかったもん(笑)。 

そんなフィービーと話すのは冷淡で暴力的なジュリアン(岸祐二)。
こんな男がデリヘルみたいなのを頼むのか?と思ったら、依頼主は
実業家のリース(吉原光夫)。ジュリアンは共同経営者であり、リースの
秘書的な仕事をしているらしい。
リースには恐らく死が迫っており、背中も丸まってしまいとても卑屈な老人。
この老人がフィービーのような職業の女性を呼んだのは、性的な目的
ではなく、書類にサインがさせたかったから。
その書類は「過去に自分の妻を2人、直接手は下していないものの殺した。
一人はコルシカ島で水死、一人はこのホテルのこの部屋からの転落死・・。」
等と書かれており、過去を告白するもの。その書類を法的に有効にしたく
誰でもいいからサインをさせたかったらしい。 
フィービーは「冗談じゃない」と帰ろうとするけど、リースが倒れ、ジュリアンに
脅され帰れなくなってしまう。何故なら、リースの妻に手をかけたのが
誰あろうジュリアンだと、その書面には書いてあったから・・・。 

苦し紛れに飛び込んだコネクティングルームの“扉の向こう側”は
同じ部屋なのに、何かが違う。いるはずの男性が居なくなっていて
と名乗る女性が泊まっている。それ・・・さっき「部屋から転落させられた」
エラ(一路真輝)の名前!予習していない私は、あまりピンとこなかったけど
この舞台はあの扉を通ると、時を超える、タイムスリップものらしい。
「いまどきDVDなんて誰が見るのよ」のセリフでやっと納得。
タイムスリップするにはルールが幾つかあって

・殺されそうになった人、殺そうとした人しかタイムトリップできないらしい
・過去に行く事はできるが、未来に行くことは出来ないらしい
・行けるのはピッタリ20年前で日付は自由には選べないらしい

ドタバタがあって、フィービーとエラがこの法則性を見つけて、二人が
出した(といってもエラが殆どリードしていた)結論が、フィービーは
もう一度戻って、証拠の書類を取ってくる、エラは最初の妻のジェシカ
の所に行き、身の危険を伝えて未来を変える、ということ。
海外戯曲って小難しいものも多いけど、例えばロベール・トマのように
ストーリー性が強いので分かりやすいし、ハラハラするし、普通に
前のめりになって観ている自分がいました。
日本で言ったらラノベに近い感覚かもね。 

ミュージカル俳優さんって何度か拝見しているはずなのに、席が
いまいち遠いという事もあってか、ストプレで拝見すると誰が誰だか
全然分からなくて、愕然としました(笑)。
カーテンコールであのスカしたおバカベルボーイが泉洋平君で
ジュリアンが岸さんだとやっと認識したという体たらく。
ガタイの大きさから吉原さんだけは分かっていましたけど。
みなさん揃って声が大きくて、いい声だし(笑)。
岸さん、怖かったなー、吉原さんが怖いのは「グランドホテル」で
経験済だけど(笑)。そして、紺野さんのバカ女ぶりも素敵でした(笑)。
この方も宝塚ご出身なんですよね、あまりそう言った印象が無い方だな。
泉さんがああいう弾けた役をなさるのは、想定外でした。
でも、ミュージカル中心の俳優さんでも、全くそのことを意識しないで
観られたと思います。最近は本当にストプレとミュージカルの垣根が
低くなってきたのかなーという事を実感しますね。

すれっからしで、困難な事からは逃げたがるフィービーなんだけど
実は負けず嫌いで正義感の強いところがあり、元々正義感の塊の
ようなエラと妙な連帯感が生まれていくんですよね。
「わーこんな服着てみたかった」とホテルの忘れ物のドレスを着た
という流れで衣裳チェンジをし、それがラストのシーンに上手く
繋がっていて、上手いなーと思いますが、それらが全てラストシーンに
集約されていきます。

フィービーが未来に戻って変わっていたのは、自分がキレイな言葉遣いが
自然に出来るようになっていること、 リースが健康で素敵なナイスミドル
であること。「きっとエラが過去で何かしたんだ」 と思うけど、分からない。
私を含めて観客が、「何があったの?」を知りたくて、めっちゃセリフに
集中している感じがあります(笑)が、徐々に2人の会話で過去が
明らかになります。観客はフィービーと同じ感覚を味わっていたって感じ。

エラは幼いフィービーを引き取って養子にしていたこと。
フィービーとエラはまるで姉妹のように仲良く暮らしていたこと。
エラとリースは離婚することなく、いい夫婦であり続けたこと。
フィービーにも今は幸せな家庭があること。
そして先日、エラはフィービーとの再会を待たずに亡くなっていたこと。

本当にガチのストレートプレイだったのですが、最後に全員で
1曲テーマ曲のようなものを歌ってくれました。まあなんて贅沢な1曲(笑)。
とても切ないけど、心が満たされるような気持ちになれる1本でした。
まあ、もう一度あのコネクティングルームに行ったら、過去に行って
いつでもエラと会えるんじゃないの?と思ったけど、まあそれは良し(笑)。
最後のピアノのBGMの感じが、「今度は愛妻家」のエンディングと
雰囲気が似ていましたが(同じ演出家ですからね)またそれも良かったです。

カーテンコールでは皆さんからのご挨拶もありました。
一路さんが端っこに立っていて、壮さんを立てていらっしゃった様子が
何だかとても印象的でした。
ぶっちゃけ、そこまで期待していなかったので、なんだかとっても
得しちゃったような気持ちになりました。
舞台を観慣れない人でも、広く色々な方が楽しめそうな作品でしたね。