こちらは浦井君が出なくても観たと思います。
「ヘンリー四世」は以前蜷川さんの演出(松坂桃李君と吉田鋼太郎さん出演)
で観て面白かった記憶がありましたので、楽しみにしておりました。

ヘンリー四世「ヘンリー四世 第一部−混沌−」新国立劇場中劇場11列(2列目)
12:00開演、15:00終演
原作:W.シェイクスピア  訳:小田島雄志 演出:鵜山仁
出演:浦井健治、岡本健一、ラサール石井、中嶋しゅう、佐藤B作 他

【あらすじ】 
 舞台はロンドン。王ヘンリー四世は、前王リチャード二世から王位を簒奪した罪悪感に苛まれていた。一方、長男ハル王子は大酒飲みの、無頼の騎士フォールスタッフと放蕩三昧。そのころノーサンバランド伯の息子パーシーが謀反を起こす。シュルーズベリーに出陣したハル王子とパーシーの一騎打ち。勝敗の行方は・・・・・・。





ハル王子から名前をとって、我が家の犬に「ハル」と名付けたのですが
劇中で何度も「ハル」と呼ばれると、微妙な気持ちになりまして(笑)、
ちょっと失敗だったかな、なんて思ったり。

ヘンリー6世の時の玉座
こちらは「ヘンリー6世」の時の玉座と王冠。
一緒に写真撮ってねコーナーですが、なかなか・・ねぇ(笑)。

2009年の「ヘンリー6世」は観に行こうかどうか迷った公演でした。
確か同じ頃に蜷川版の「ヘンリー6世」も上演されるので、そちらを
優先してしまって、行かなかったのですよね。
蜷川版がとても面白かったので、それで満足しちゃっていたんですが、
浦井君の出世作なので、今となっては同じ舞台でも両方とも
観ておけばよかったなぁと思います。

蜷川版は「ヘンリー6世」は3部作を2部構成に、この「ヘンリー4世」は
2部作を1本の舞台にまとめていましたので、新国立のほうが
原作に忠実と言えるのかもしれません。




 
実際に見てみると、蜷川版はどこを削ったのだろう?と思う程でした。
あちらは、休憩抜き4時間半程度、こちらは1部と2部で合計5.5時間程度
という事なので、それ程極端に短縮されている訳ではないのか、と。

まず特筆すべきはその舞台セットですね。
舞台模型_Henry
※SNSアップOKは劇場の係の方に確認済

今回は3列目でしたが、ほぼセンターという事でとても観やすい席でした。
足元にはザラ板(名古屋弁ですね、関東では“すのこ”と言うらしい)状の
形が不ぞろいの板が何枚か置かれていて、壁の所は木切れのような
ものが寄せ集めて作られています。
それは王冠にも、玉座にも言えているのですが、これがヘンリー4世の
出自というか、王座に就いた経緯にも影響しているのかと思わせられます。

蜷川さんの演出で「リチャード2世」は観ていて(感想書かずじまい・・)
その時も、ボリングブルックを「ああ、これがヘンリー4世になるんだ」
と思いながら観ていましたが、リチャード2世を退位に追い込み、
そればかりか暗殺までさせてしまった事、そこまでして王座を手に入れた
(純粋な血縁で即位した訳ではない)自分自身の脆い立場を表して
いるような気がしました。
鵜山さんの舞台セットでは、いろんなメタファーを感じられるのが面白い。

舞台のツラの所に「赤い砂」が入っている部分がありますが、
これは恐らく、2012年に上演された「リチャード3世」に続く部分。
この血に染まったかのような赤い砂がどんどん広がり、リチャード3世
の頃にはそれが舞台全面を覆い尽くす程に広がるんだと言わんばかり。
これからも流血が続く、そういった争いが人の足を引っ張ることが
暗示されているようだな、と思います。

今回素晴らしかったのは、ヘンリー4世を演じた、中嶋しゅうさん。
血塗られた手で得た王座と、その経緯について後悔の念というか
肩身の狭さを感じているようで、息子にはそんな思いをさせなくて済む
という親心も感じられる。
理性的で、正しい事を行わんとする、ある意味正統派な「王」でもあり
思う通りに成長していない息子を想う、一人の父親でもあるという
切ない役どころでした。

それに対して、ビジュアルがぶっ飛び気味だったのが浦井君演じた
ハル王子。ジーパン姿で、金髪をガンガン逆立てて(とはいえ、
彼の髪は恐らく癖のないストレートヘアなので、後半になると
ぺしゃん・・・としちゃってるんですが)、ヘッドフォンをかけて、そこで
QUEENを大音量で聴く若者。とはいえ、(人が話す時にはちゃんと
ヘッドフォンを外すので、無礼な感じではない。)
「QUEENかよ」と思ったのですが、これが意外と舞台に合ってまして
驚いたりもしました。(でもそのせいで権利的にテレビ放送が難しくなるのかな・・とか。)

蜷川版でハル王子を演じた松坂桃李君は、もう「若さ爆発」って感じで
裏表もなく、青春を謳歌しているような若者だったのですが、さすがに
比べると浦井君には松坂君のような若さは無い(笑)。
でも、そもそも、ハル王子の造詣がちょっと違うんですよね。
あそこまで無邪気な若者って言う感じじゃないのですよ。
本当にフォルスタッフと楽しそうにつるんでいる松坂ハルと違って
浦井ハルは、フォルスタッフとの間に何か微妙な壁というか距離を
保ち続けている、どこか芯に冷静な所をもっているような感じです。
決定的な悪事には参加しない、盗んだものは何気に持ち主に返すとか
そういう冷静な側面が印象に残りました。

王家に生まれ、自分の将来を自分で選べない事に反発したい気持ちも
あり、でもそれを無意識に受け入れている所もあるというか、自覚を
している所もあるというか。
なんか・・変なたとえ話だけど、歌舞伎の家に生まれた男の子も
こんな感じなのかな?とか思ったりね。
平たく言えば、単なるモラトリアムなんですけど(爆)。

今回フォルスタッフを演じたのは佐藤B作さん。
最初は「へぇ」って思いましたが、でも確かに佐藤B作さんが演じても
違和感がなかったです。でも、蜷川版のフォルスタッフとは全然
イメージが違う。小ずるい、小悪党。根っからの小悪党。
訳が違うとはいえ、セリフの流れは変わらないはず。
「ああ言えばこう言う」というか、「コイツには何を言っても無駄だ」
と思わせるほどの、憎々しい程の言い返しぶりは腹立たしいほど。

恐らく、蜷川版ではハル王子が酒場などでつるむ悪党はフォルスタッフ
ばかりだったように思うのだけど、今回はどちらかというと、ハル王子は
ポインズと一緒になって、フォルスタッフにいたずらをするというか
フォルスタッフを笑いものにする所が多くて、この二人の人間関係が
違ってる、というのも面白かったな。
あと、リアルで息を切らしているような感じがフォルスタッフっぽい。
鋼太郎さんは、何だかんだいっても血色がよくて、若く、健康的に
見えてしまう所があったから(笑)。

暑苦しいほどの熱い男、ホットスパー(岡本健一)。
彼の言い分は、彼の立場なら不自然ではないですし、自分自身の欲
もあるでしょうが、それ以上に正義感の強い人だと思いました。
ただそのホットスパーが敗れるのは、彼自身の力不足というより
色々な条件が彼の意思とは反対に働いたことも大きく、そういう所からも
歴史の流れというものには、何を持っても逆らえないものなのかもね・・
という印象を与えます。

一部と二部では、二部の方が見応えがあるかな?と思っていたのですが
これが、思った以上に一部が面白かったです。
浦井君はカワイイし(笑)、フォルスタッフは笑えるし、また単純に
シューズベリーの戦いを描いた物語としても見応えがある。
こりゃ、二部も楽しみだ・・・と思い、一旦劇場を後にしたのでした。