遠征最後はこちらです。
三谷幸喜さんの作品は、私はどうしても観たいと思う方じゃないですが
このキャストなら、やっぱり観てみたい。

エノケソ一代記「エノケソ一代記」世田谷パブリックシアター B列
14:00開演、15:50終演
作・演出:三谷幸喜
出演:市川猿之助、吉田羊、浅野和之、山中崇、水上京香、春海四方、三谷幸喜

【あらすじ】
戦後、喜劇王エノケンこと榎本健一の偽物「エノケソ」が全国各地に出没した。この主人公も、そんな「エノケソ」の一人だ。エノケンが大好きで、エノケンに憧れ、エノケンに限りなく近づこうとした男。演劇史には決して残ることのない、無名の喜劇役者と、彼を支え続けた妻との、哀しくもおかしい二人三脚の物語。




以前は月曜は芝居も美術館もクローズが当たり前だったので
週末から遠征して月曜まで東京に残るという選択肢は無かったのですが、
最近は月曜日にも上演される舞台がチラホラ現れてきています。
これもそんな1本ですね。
お客様は驚くほど年齢層が高く、舞台の内容故なのか、平日の昼間
だからか分かりませんが、少し驚いてしまいました。





舞台のツラの所には白と赤の裸電球が交互に並べられていて
幕には当時の広告らしいデザインが映し出されて昭和感を出しています。
私は「エノケン」という言葉を知ってはいても、どういう人かは知らず
「喜劇王」と呼ばれ、日本のチャップリン的な存在の人だった、
という事を知ったのは、今回の舞台を観たことがきっかけでした。

とはいえ、この舞台はエノケンではなくエノケ
エノケンの偽物が主役です。
実際にエノケンの偽物として、エノケソや土ノケンとかが沢山存在
したそうで、今のような情報社会からはそれが成立するという事に
現実味が感じられないのですが、それがかえって芝居という素材には
良かったのかもしれません。

エノケンに憧れ、エノケンになりたいと心底思ってエノケソと名乗る
男が市川猿之助はエノケソ一座をたてて、全国を回ります。
エノケンだと信じて(騙されて)いる人もいれば、偽物だと分かって
彼らを呼ぶ人もいる。
今ではそんな“まがいもの”でお金を取るなんて・・という事なんでしょうが
社会全体に余裕というか、大らかさがあったという事と、それだけ
世の中が笑いを、娯楽を求めていた時代だったんだろうな・・と
思いを馳せてみたりします。

エノケソ一座は4人。
マネージャー的存在の妻・希代子(吉田羊)
座付き作家は菊田一夫もどきの蟇田和夫(浅野和之)、
運転手兼脇役兼、小道具などの熊吉(春海四方)。
行く先々の興行主とか何役もこなす山中崇。今までなら浅野さんが
こういうポジションだったよなー、という役。

エノケンを観たことが無いので、似ているのかどうかは全く分からない
のですが、確かにチャップリン的なポジションだったんだろうねー
という事は、猿之助さんを観ていればわかります。
そして、エノケソを通して、エノケンの人生を知る事にもなります。
これが意図されたものかどうかは分かりませんが、エノケソ一代記
ではありますが、エノケン一代記でもある感じですね。

何もかもエノケンに捧げてしまったような夫を支える妻 希代子が
とにかく良かった。
吉田羊さんを拝見するのは、生の舞台は「国民の映画」以来なんですが
その時の印象は殆ど残っておりません。あとは東京サンシャインボーイズ
の最後の公演に出演していた映像を観たくらい。
もともと舞台出身の方だと聞いていましたので、期待していたのですが
怖い顔で怒鳴りつけるシーンもいいし、声もいいし間もいい。
また「私と結婚したのも、本物のエノケンの奥さんと同じ名前だからよ」
という寂しげな表情も、ラストの涙も、いちいち素晴らしかった。
ぶっちゃけ、舞台(というか脚本)は薄っぺらい印象がありましたが 
それが舞台として見応えがある作品になっていたのは、羊さんをはじめ
とした俳優さんの演技が素晴らしかったからだ、と私は思っております。

猿之助さんも良かったですよ。
「しょせん偽物」とロッパに言われた時など、眉尻がピクっとなっていて
本当に細かい演技をなさっていました。
もう、誰が何を言っても聞く耳を持たないんだろうな・・という真っ直ぐバカさ
が全開で、だからこそ、ラストも切なさが増します。
ただ、私がこのエノケソという人に共感ができなかったのは、自分の事しか
考えていない人だったから。芸人とはそういうもの・・なんですかね。
最後の最後に希代子に「ありがとう」だったか「すまない」だったか忘れ
ましたが、言い残したのが救いではありますがね。

浅野さん。本当にお元気になってよかった。
前の舞台を降板された時は、このエノケソ一代記に出演が叶うのか
本気で心配しておりました。
飄々として、笑わせるテンポもよく、またなぜそこまでしてエノケソの
足を切断したのか、何故悪びれないのか、本心の読めない人でもありました。

そして今回は三谷さんも俳優としてご登場。
もともと目立ちたがりの人ですから、堂々と出演されていいんじゃないですか?
思っていた以上に、良かったです。
でもちょっと太った?体型は肉襦袢によるものだと思いますが、
お顔の輪郭がちょっと変わったような感じがしますが(爆)。


面白かったです、ケラケラ笑いました。
最近はコメディと銘打たれた作品でも「何が面白い?」と思う事もあり
コメディに苦手感を持っていましたが、これは大丈夫だった(笑)。
今回観て、ああ三谷さんの笑いはこういう感じだったね・・と思い出しました。
ただ、前にも書いたように全体が薄っぺらい。
エノケソがエノケンに憧れた理由、足を落とすに至った理由や心情、
周りの人たち、それぞれに描かれていますし、思い返しても何が原因なのか
は分からないのですが、心に引っかからないっていったらいいのかな。
ロッパが偽物だろうとか、足を切ったせいでこのままエノケソはエノケンと
すれ違ったまま死ぬだろうな、とか、展開が読めちゃうんですよね。
強いて言えば、お行儀のよい舞台だった、って言う感じかもしれません。
まあ、ここまでいったら好みの世界ですからね。

でも、別に不満があったという程ではないし(期待値が高すぎただけ)
吉田羊さんは見応えがあったし、それなりに満足できた1本でした。