二兎社は本当にご縁がなくて、「歌わせたい男たち」以来。
しかし田中哲司さんを豊橋で拝見する機会のなんと多い事か(笑)。

ザ・空気二兎社公演41
「ザ・空気」穂の国とよはし芸術劇場PLAT C列 
13:00開演、14:45終演
作・演出:永井愛
出演:田中哲司、若村麻由美、江口のりこ、大窪人衛、木場勝己
【あらすじ】
人気報道番組の放送開始まであと数時間。試写も終わったのに、ある”懸念”をきっかけに放送内容を変更するかどうか、対応に追われ始める。決定権を握るのは・・・・・・空気?




朝から歯医者に行き、大急ぎでホットヨガのレッスンに行き
また大急ぎで豊橋へ。
大窪人衛くんも「プランクトンの踊り場」でイキウメにデビュー
してからずっと観ていますが、頑張ってるなぁと親心(笑)。



 
 
ライトグレーの無機質なセットで、扉が5つほど並んでいます。
エレベーターのドアだったり、部屋のドアだったり、編集室の
入口だったり。

番組編集長の今森(田中哲司)が最初にやってくる「9階の部屋」が
この作品の多くのシーンが展開される場所となります。
今森と衝突する事の多かった、熱血報道マンであり、今森が
担当する報道番組のアンカーでもあり、今森が好きだった女性で
キャスターの来宮(若村麻由美)と不倫関係にあった同僚が
自ら命を絶った部屋−。

そんな同僚が生前考えていた企画で(もっともライバルの今森に
反対される事を恐れて来宮の企画として持ち込まれたのだけど)
日本の報道の有様について問題提起をする特集番組の放送直前が
舞台になっています。

報道の独立性を重視したシステムのあるドイツと、放送許可は
総務省が行い、放送内容如何によっては許可の取り消しが起こり得る
日本の現状についての比較をしたのが特番の内容。
今森も来宮も新人ディレクターの丹下(江口のりこ)も放送内容に
自信を持っていたし、放送を楽しみにしていたのに、新任の
アンカーマンである大雪(木場勝巳)が「公平性に欠ける」と
意見し、内容の訂正を求め始めた所から混乱が始まります。

明確に政権側から止められたと言う訳ではないものの、政府の意向を
汲み取ろうとする(空気を読もうとする)会社の上層部、右翼というか
政権寄りの団体などからの圧力や脅迫が続き、スタッフたちは
どんどん追い込まれ、最初は3か所の表現修正だったものが、
インタビューシーンのカット、日本での実情説明のシーンカット
放送枠のカット、と全く別の内容とも言える放送内容に変わって
いってしまうのを、なす術なく見守るような感じ。

必死に阻止しようとする今森や来宮だけど、まるで蟻地獄に
ハマったように、行動すればするほど、求める方向とは逆の結果を生み
最初はアンカーマンの要求だったものが、会社の会長命令までになる。
それも「偶然」ではなく「必然」を感じさせるような周到さで。
この過程が観ているこちらに、ぞんぶんに無力感を味わわせ、
息苦しさを強いていくことになります。観ていて、力が入るったら。

こんな思いまでして報道に拘るこの人達のモチベーションって
何なんだろう、と思わずにいられない。
そう思っていた時に、今森は9階から身を投げてしまう。
世を儚んだ訳でも、脅迫に耐えられなくなった訳でもない。
自分がどうすべきか分からなくなり、その答えが聞こえた気がして
表に出て、そのまま落下した。
ああ、自殺した今森の同僚自殺の原因は分からないままになっていたけど
彼もこんな感じだったのかもしれない−。

それから2年後、憲法も改正され、政治が公然と報道を操作
できる世の中になっている。熱心な報道マンだった丹下は現場の
“変わってしまった空気”に耐え兼ね報道の場を去っていた。
それ程ポリシーがある訳でなかった編集マンの花田(大窪人衛)は
抗議をしてきた「国民の会」 に入会し、報道の世界に残っていた。
「政治的中立」が口癖だったアンカーマン の大雪はまだ
アンカーマンを続けていた、今は中立というより政権寄りだ。
またあの特番に情熱を傾けていた来宮は、そんな放送局の
取締役に収まっている−。
そんな中、今森は怪我も癒え、自主規制という″空気”に左右されない
フリーで報道の世界に残る決心をしていた。それが今森の″答え”。

信念もあるけど、様々な要因に振り回され混乱していく今森を
田中哲司さんが好演していらっしゃいました。
女性らしい思い入れで突き進む来宮を演じた若村さんも
良かったなぁ、まだまだ悲しみが癒えていなくて、ちょっとした
キッカケで涙が溢れてしまう・・という感じが切なかったです。
味方なのか敵なのか、掴みどころのない木場さんもさすが。
お調子者なんだけど、最後の冷たい表情が冴えていた大窪君も
ハマっていたと思います。

とにかく考えさせられ、息苦しい2時間でした。そして常に
腹立たしい気持ちと疑問が湧いていたんですよね。
作品自体に腹を立てているのではなく、そういう感情にさせ
られる力のある作品だったという事ですが。
また「空気を読む」って、本当に言い得て妙な表現だなと
再認識させられもしました。

人が作る以上、どんな報道にも完全な中立なんてあり得ない。
絶対に作り手のバイアスがかかるものだと思っています。
今森や来宮が行っている事は正しいし、理想も高いでしょうけど
そういう意味で、報道マンの欺瞞も感じるわけです。
だから、一方的に会社上層部だけに腹が立っていたというより
両方に対して、言いようのない怒りを感じていた・・と言った方が
正しいかもしれないです。
仕事で新聞記者などの報道に関わる方と接する事もありましたが
自分が書こうと思っているストーリー(仮説とも言える)
があるんですよ。だから、どんなにファクトを元に説明しても
完成した新聞紙面を見て「何聞いてたんだよ」と思ったことも
何度もあります。もちろん、全員が全員ではないのですけど。
会社側の圧力に対して腹立たしく思いながらも、そんな事も
思い出しておりました。 

恐らく、昨今の諸々の法整備で表現者や演劇界にも危機感が
あるはずで、永井さん自身の強い怒りや意志、決意を感じる
作品だったな、と思います。