久しぶりに、繁忙期で仕事に追われる日々が続いており
さすがの私もお疲れ気味ですが、この遠征を楽しみに平日を何とか
乗り切って、遠征にやって参りました。

アンサンディ「炎 アンサンディ」シアタートラム D列(最前列)
13:00開演、16:20終演
脚本:ワジディ・ムワワド   演出:上村聡史
出演:麻実れい、栗田桃子、小柳友、中村彰男、那須佐代子、中嶋しゅう、岡本健
【あらすじ】
 中東系カナダ人女性ナワルは、ずっと世間に背を向けるようにして生きてきた。その態度は実の子供である双子の姉弟ジャンヌとシモンに対しても同様で、かたくなに心を閉ざしたまま何も語ろうとしなかった。そのナワルがある日突然この世を去った。彼女は公証人に、姉弟宛の二通の謎めいた手紙を遺していた。公証人は「姉にはあなたの父を、弟にはあなたがたが存在すら知らされていなかった兄を探し出して、その手紙を渡して欲しい、それがお母さんの願いだった」と告げる。その言葉に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、封印されていた母の数奇な人生と家族の宿命に対峙することになる。その果てに姉弟が出会った父と兄の姿とは!




初演でも観たかったんですが、その際は遠征スケジュールと合わず
諦めていました。でもとても評判も良くて、観られなかった事を
とても残念に思っていた作品です。
だから再演と聞いて、 とても楽しみにしておりました。
舞台を囲むような形で客席がセットしてあり、センター最前列。
ステージは結構な奥行があります。


 

 
全く予備知識がないまま観られて良かった。
「オイディプス王」に例える方もいらっしゃるようですが、もしも
それを知っていたら、最後の衝撃は無かったでしょうから。

舞台は公証人であり故人のナワル(麻実れい)の友人でもあった
エルミル・ルベル(中嶋しゅう)が 遺児達にナワルの伝言を伝えるシーンから。
ただ、遺言の内容が少し変わっている。
自分の埋葬方法についての希望(土葬でうつ伏せにして、水をかけて、等)
や預貯金などについては、まあ、いいんですけど、双子の娘(栗田桃子)
には「父を見つけて手紙を渡してほしい」と言い72の数字のついた
上着を、双子の息子(小柳友)には「兄をみつけて手紙を渡してほしい」
と言い、赤い表紙のノートが遺された。

母は子どもにも心を開かず、一切口を利かなくなっただけでなく
死んでもなお「双子の息子」「双子の娘」のような表現をする
母親に対して素直になれない。
でも、母親の歴史に興味を持ったのは娘のジャンヌ。ひたすら
さけるのが息子のシモン。なんか分かるわー、こういう時に強かったり
行動力があるのは女性の方なのかも、と思うもの。

母親の歴史をたどりながら旅するジャンヌは次々と生前の母親を
知っていきます、それは観ている私も同じなんですけど、
最初の(子どもたちが語っていた)イメージとは違う女性が目の前に
どんどんと具体的な輪郭を持って浮かび上がってきます。
そして、遺言の内容も少しずつ解き明かされていくんですよね。

何故そのような埋葬を望んだのか。
それは自分の人生に大きな転機を与えた祖母へのリスペクトであり
祖母が自分に対して行ったように、子供たちへ残したいものがあったから。
ただ、この段階では「何を遺そうとしたのか」は分からない。

その後のナワルの人生は激動としか言いようがなくて、
バスが爆破されたシーンでは、灰に模した黒いちぎった和紙が
足元まで飛んできたんだけど、何とも言えない気持ちになって・・。
レバノンで内戦を経験し亡命した作者だからこそ書ける
生々しさ満点で、観ている方も息がつまりそうです。

ジャンヌは歌う女が母ではなくサウダと思いこんでいたし、獄中で
レイプにより生まれた子供が兄だと思いこんでいるんですよね。
年数から逆算したら、その子供は自分だって気づきそうなものじゃない?
と思うんですけど、一緒に観た友人は「そうじゃないと思いたかった
んじゃないの?」 と言っていました。確かにそうかもしれません。

その後の展開はジェットコースターのよう。
そしてジャンヌが説明した数学の定理が凄かったです。
「奇数なら3倍して1を足す、偶数なら2で割る」を実際に証明していき
どんどん「1」に近づいていく時の感覚といったら・・・。
そして「1+1=2」じゃなくて「1+1=1」の意味が分かった時の衝撃。
思わず悲鳴をあげるジャンヌ。その後真実を突きつけられた時の
ニハッドは「兄である」事には不遜な態度を取り、遺言を破くのに
「父である」事には絶句し、椅子から転げ落ち破った手紙を拾い集め
茫然と前を見つめたまま動かなくなる−。
(この視線の先に座っていて、目のやり場に困った)

そりゃ、ナワルが言葉を失っても仕方がないでしょう。
双子に素直に愛情を注げなくなるのも、理解が出来ます。
でも・・・なぜそれを敢えて双子に死んでから伝える?苦しませるだけじゃ?
ナワルの復讐の道具にされたんじゃ?という疑問が残ってしまう。

ナワルが言った「祖母の墓石にナジーラと刻んだ時が、命の始まりだった」
言葉に例えるならば、ナワルの墓石に名を刻み、裁判記録や赤いノートを捨て
る子供たちに、「ああ、色々乗り越えて、これから新しい人生が始まるのね」
と思えたのと、言葉を発しなくなったナワルが生前呟いたという
「こうして一緒になれたから、これからは大丈夫」
の言葉の意味が分かって、やっとみんなが本来居るべき場所にたどりつけた
んじゃないか、と思えたりもしたのでした。

いやー、ガチで重い作品でしたが、観て良かった。
キャストも皆さん良くて(敢えて言えば、小柳君が少し残念かな)見応え
があってねー。出来ればもう一度ゆっくり観返したい作品です。
麻実さん、何度も拝見していますが、少女から60代まで扮装を大きく
変えることなく演じ分けていらっしゃったのも、素晴らしいと思います。

欲を言うなら、私自身に中東の文化と、中東紛争の知識が乏しかったので
それらを知った上で観られたら、また違った印象だったのではないかな、
と思ったりもします。