朝からジットリ雨が降っていて、気分がめいるのですが
豊橋まで行ってまいりました。

白蟻の巣「白蟻の巣」穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールB列
13:00開演 15:30 終演
作:三島由紀夫   演出:谷 賢一
出演:安蘭けい、平田満、村川絵梨、石田佳央、熊坂理恵子、半海一晃
【あらすじ】
ブラジル、リンスにある珈琲農園。経営者である刈屋義郎と妙子夫妻、その運転手の百島健次と啓子夫妻。4人は奇妙な三角関係にあった。啓子の結婚以前に、妙子と健次が心中未遂事件を起こしていたからである。それを承知で健次と結婚した啓子ではあったが、徐々に嫉妬にかられるようになり、夫と妙子が決定的に引き離される方法はないかと思案する。一方、心中事件を起こした妻と使用人をそのまま邸に置き続ける義郎の「寛大さ」に縛られ、身動きの取れない妙子。義郎の寛大さがすべての邪魔をしていると思った啓子は、邸から遠く離れた地へ義郎を送り出す。義郎の留守の間に健次と妙子が再び関係を結び、それが露呈することで自分たち夫婦が邸から追い出されることを目論んだのだ。白蟻の巣のように、それぞれの思いが絡み合い、いつしか4人の関係が変化していく......。


 
こちらの作品は新国立の「かさなる視点−日本戯曲の力−」
のうちの一つで、通し券でチケットを取ってはいたのですが
日程が合わなくなってしまい(通し券の販売が早すぎるわっ) 
一旦は諦めていました。
でも新国立のチケットの譲り先が見つかった事と、豊橋公演の
日程が合ったので、チケットを取り直していたのでした。

三島の作品は1本ぐらいしか観たことが無いのですが、きっと
私には難しいんだろうな・・と思って敬遠しがち。
でも、演出が谷賢一さんだったので、観たかったのです。
彼の関わった作品(「マクベス」「PLUTO」「Eternal Chikamatsu」)
自体も良かったのですが、谷さんに興味を持ったのは別の理由。
昨年あったPLATでのシェイクスピア講座で谷さんが講師を
して下さった回が本当に面白かったので、それ以来是非、
谷さんの演出作品が観たいと思っていたんです。

感想は追記にて。


 
 
思っていたほど難解ではない、と思えたのは、そういう作品だったからか
演出によるものなのか、は分かりません。
でも、意外と面白いじゃん・・と感じられたのは収穫かも。
上演前に谷さんは戯曲を読み込み、どうやったら伝わるか・・という事に
とても腐心されていた様子をWEB等で拝見していましたので、
演出や演出家の解釈によるものも、少なくないと勝手に思っています。

作者の三島は1952年代にブラジルを訪問した事があるそうで、その際
リンスで大規模なコーヒー農園を経営していた日系ブラジル人の所に
滞在した経験があるそうです。
当然、その際の経験がこの作品に活かされているのだと思います。

舞台があくと、出てくるのはコーヒー農園で働く使用人夫婦の寝室。
運転手の百島健次(石田佳央)と、その新妻の啓子(村川絵梨)。
軽く私の想像を超えてくる状況です。
ダンナの健次は、その家の主人の妻と心中をしたことがあり、
それなのに、“許されて”同じ家で、同じように働き続け、そして
その事を知りながら、結婚した啓子。
納得していたはずなのに、夫の体に残る傷から、心中相手が透けて見え
嫉妬心からか、夫をなじっている。

そして、その心中相手の妻、妙子(安蘭けい)がまるで夢遊病のように
登場してきますが、これは彼女曰く「私は死んでいる」状況ですね。
アフタートークで谷さんが「“死んでいる”って自分で言う人は、
本当は死んでいないんですよね」とおっしゃっていましたが、
一見、生きる屍のようであっても、心の奥には生命力と言うか
情念のようなものを持ち続けている、常に満たされない女性
なんだと思います。

舞台奥に掛けられた麻の布のせいか、BGMのせいか、とても
暑くて、乾いて、土っぽい雰囲気が伝わってくるのですが、
そこでの朝食の風景は、一言で言えば「倦んでいる」という感じ。

この作品で何度も出てくる言葉は「寛大」「許す」。
主人である刈屋義郎(平田満)は、妻の不倫も、寛大に許してきたし
その相手も、寛大に許して、以前と変わらぬ付き合いを続けている。
・・・怖すぎるでしょ・・・。
こんな風に「寛大」に「許され」たとして、嬉しいだろうか。
まるで、過去にがんじがらめにされるような、息苦しさというか
まるで相手の奴隷になったようにしか感じられないんじゃないか。
きっと、相手にとっては一番ダメージの大きな「復讐」だと思うし
ある意味一番、恐い人なんだとも思う。

ただ、義郎自身も「許す」事で、物事から正面に向き合う事を
避けてきたとしか思えなくて、最後に啓子に迫られた時にも
また「許す」事で逃げそうになっていたし、結局また同じことを
繰り返してしまうのだろうな、と。
元々名家の出身ながら、財産を失い、夫婦で養子になって、
ブラジルにやって来た過去とも関係があるのかもしれない。
ずっと年下の啓子に振り回される様子も含めて、平田満さんは
この義郎という役にピッタリに見えました。

それに対して、啓子が何て生命力に溢れたことか。
まるで若さやエネルギーが沸き立っているようにすら感じるし
健全なエロさみたいなものがあるんですよね。
その熱気にあてられたように、義郎も活き活きした表情を
取戻し、話し方も変わっていく。
それまではゆったりと、尊大とも言えるような話し方だったので。
啓子を演じた村川絵梨さん、本当に良かったです。
ぶっちゃけ、狭い家でのダブル不倫なんですけど、あまり
「恋愛」という言葉とはほぼ遠い、という印象もありましたね。

この家は、アリ塚のような一つのコミュニティなのかもしれません。
何となく、こういった事件も「或る夏の出来事」のように
また同じひびが倦んだように繰り返されるのではないか・・と
思わされる作品でした。

問題・課題がありながらも、解決に乗り出せず倦んだように
同じような事を繰り返す現代と、重なる部分があるのかもしれません。

今回「何故、白蟻?」と思ってちょっとググってみたのですが、
日本で建物に害をなす白蟻と、サバンナ地帯などにいる白蟻とは
種類が違うようなんですね。アリ塚を作るものも多いとか。
そりゃ確かにイメージが違うわ。
でも一番驚愕したのは、白蟻は「蟻」とは違って、ゴキブリの仲間
だった、という事実。ひえぇぇ。