遅めのランチ兼早めの夕食を中目黒で摂った後に向かったのは
三軒茶屋です。最近は東急線を使いこなしてきている気がする(笑)。

エレクトラ「エレクトラ」世田谷パブリックシアター K列 
19:00開演、21:50終演
脚本:笹部博司   演出:鵜山仁
出演:高畑充希、村上虹郎、中嶋朋子、横田栄司、仁村紗和、麿赤兒、白石加代子
【あらすじ】 
 アガメムノン(麿 赤兒)はトロイアとの戦争を自分の長女、イピゲネイア(中嶋朋子)を生贄として差し出すことで終結させる。しかし帰還したアガメムノンは妻のクリュタイメストラ(白石加代子)とその情夫アイギストス(横田栄司)によって暗殺されてしまう。アガメムノンの次女エレクトラ(高畑充希)は、末妹クリュソテミス(仁村紗和)に諭されるも母への憎悪は日々増していき、他国へ亡命させた弟オレステス(村上虹郎)と共に父の復讐を果すことを唯一の希望としていた。ついに再会した姉弟は父の仇、実母と義父を討ち取るべく立ち上がる。


古典は決して嫌いではないのですが、ギリシャ悲劇だけは
あまり得意ではないというか、少し苦手意識があります。
ただ、高畑さんと白石さんの共演と聞いたら、どんな題材でも
観てみたいと思いますよ。 

もう随分前(調べてみたら2006年でした)に「オレステス」
というエウリピデスの作品(蜷川幸雄演出)を観ています。
作者は違えど、同じ題材な訳ですので、どんな感じになるのかなー
というのも楽しみでした。
オレステスは雨の音が大きくて、あまりセリフが聞き取れなかった
っていうのもよく覚えております・・・。





セットは全体に暗くて、足元がデコボコしているような、
荒野のようなもの。下手にはパーカッションの方が。
あー鵜山さんらしいっていう感じですね。

オープニングはアガメムノン(麿赤児)が殺されるシーンから。
トロイア戦争で勝利するために、船を動かすための風を吹かす為に
自分の娘であるイピゲネイアの生贄を求められたアガメムノンは
娘を殺してしまうのだが、母のクリュタイメストラ(白石加代子)は
それが許せず、斧で叩き殺してしまう。
わが子を生贄に求められ、苦悩するアガメムノンも、自分の子を
殺されたクリュタイメストラの怒りも「そりゃ、そうだよね」と
思う部分があって、どちらかに肩入れする事なく観はじめたのが
ちょっと自分でも新鮮でした。

そして、場面は変わって壺を持ったエレクトラ(高畑充希)が
自分がどれだけ母親を憎み、不遇な境遇にあるのかを訴えます。
高畑さんは何度か拝見していますが、これだけセリフの多い役は
初めてかもしれません。(「奇跡のひと」のヘレン役で2度観てる)
何て言うのかな、セリフの発し方、感情表現の仕方がまるで
松たか子さんを観ているような気にさせられます。
感情表現に瞬発力もありますよね、死んだと思った弟が生きていたと
知った時の喜びは、まさに体の内から爆発したような喜びで、
抑えようとしても抑えられない・・という感じが溢れていましたから。
意図したものかどうかは別として、現代的な雰囲気がありました。
「憎む」という事自体が彼女の生きる糧となり、敢えて自分から
不遇な環境を生み出しているのではないか?そしてその不遇さが
彼女の生きる支えになっているという、視野が狭くなった、
生きていく事に対して脆さのある女性だな、という印象ですね。

そこへ妹クリュテミソス(仁村紗和)がやって来ますが、彼女が
とてもノーマルというか、舞台の中に溶け込んでいた感じがまた
印象的ですね、派手さはないんですけど(笑)、彼女の存在によって
周りが際立っているようにも思えます。人としても、とても正直です。
「貴女の言う事は分かるし、もっともだけど、私には無理」
と言える、別の意味で強い女性なんでしょう。

そしてクリュタイメストラ。
なんか・・憎めない(笑)。ダンナを殺したこと自体はどうかと思うけど
子どもを殺されたのが原因であれば、理解できない事もない。
一方的に憎しみをぶつけてくるエレクトラにも、話をしようと
務めてる。まあ、全くかみ合わないのだけど(笑)、あの噛み合わなさ
っぷりが、反抗期の娘にイラっとしながらも、冷静に話そうとしている
母親を観ているようでもありました。
母として嘆いたり、女の顔を覗かせたり・・という演技も絶妙で
さすが白石さん、というところでしょうか。

アポロンの神託を受けたオレステスとエレクトラは母とその情夫
アイギストス(横田栄司)を殺すのですが、母性に訴えかける
クリュタイメストラに対して、躊躇するオレステスを叱咤する様子に
「おまえはマクベス夫人か!」とツッコミそうだったわ(笑)。
そして「横田さん、それだけー」とも(爆)。

結局、オレステスは母殺しの重圧に耐えかねて狂ってしまうのですが
ちょうどこの辺りが「オレステス」の中心になっていたように思います。
ただ、村上虹郎演じるオレステスはあまり“狂気”を感じる程では
無かったというか、酷く苦悩している・・位な印象でした。
演技が原因なのか、そう言う演出なのかは分かりませんが。

1幕は本当に面白くって、あっという間に終了。 
「オレステス」もこんなに面白い話だったっけ?と思うぐらいです 。
オレステスは、ひたすらオレステスとエレクトラが嘆いていた
という印象が強かったのでね。
で、「そう言えば、 中嶋朋子さんってどこで出るの?」と思ったら
2幕でご登場です。前はエレクトラ役だったのですよね。
そして、生贄にされたはずのイピゲネイア役だったと知ってビックリ。
そうなの?殺されてなかったの?
っていう事は、クリュタイメストラの夫殺しは不当だってこと?
だから、アポロンは神託を授けたのかしら?
・・・すごい展開だ。

そもそもエレクトラとオレステスはアポロンの神託を受けて
それを実行したのに、何故死刑を宣告されるんでしょうねー。
アポロンも最後まで責任もってやれよ、と思うし、アテナももっと
早く出てきてやれよ、と思うし、神様たちの自由っぷりに
おいおい、と思うのだけど、それがギリシャ悲劇たる所以でしょう。

麿さんと白石さんが人間と神様の二役を演じているという所や
「不幸の連鎖を止めろ」というセリフは、なかなかに重い。
(だったらお前がやれ!とも思うが)
1幕と2幕ではちょっとバランスの悪さを感じたりもしましたが
「楽しめるだろうか」と思ったのは杞憂に終わりました。
ギリシャ悲劇でもコロスは居らず、またクスっと笑える所も
チョコチョコあって、分かりやすい1本になっていたと思います。

高畑さん、もっと舞台に出てほしいなぁ。