GW唯一のお出かけの予定は、ここでした。
豊橋で公演があるとは知らずにこちらでチケットを取ってしまい
その後豊橋でも一度はチケットを押さえたのですが、平日だったため
(豊橋に18時半開演だと色々厳しい)、やはり西宮で観る事に。

ハムレット「ハムレット」兵庫県立芸術文化センター 中ホールB列
13:00開演 16:15終演
原作:W.シェイクスピア  演出:ジョン・ケアード
出演:内野聖陽、貫地谷しほり、北村有起哉、加藤和樹、山口馬木也、今拓哉、壤晴彦、村井國夫、浅野ゆう子、國村隼
【あらすじ】 
 デンマーク王が急死し、王の弟クローディアスは王妃と結婚し、跡を継いでデンマーク王となる。父王の死と母の早い再婚とで憂いに沈む王子ハムレットは、従臣から父の亡霊が夜な夜な城壁に現れるという話を聞き、自らも確かめに赴き、亡霊に会ったハムレットは、実は父の死はクローディアスによる毒殺だったと告げられる。復讐を誓ったハムレットは狂気を装い、王と王妃はその変貌ぶりに憂慮するが、宰相ポローニアスは、その原因を娘オフィーリアへの実らぬ恋ゆえだと思い込む。やがて、ハムレットは王が父を暗殺したという確かな証拠を掴むが、母である王妃と会話しているところを盗み聞きしていたポローニアスを、王と誤って刺殺してしまう。オフィーリアは度重なる悲しみのあまり狂い、溺死。オフィーリアの兄であり、ポローニアスの息子レアティーズは、父と妹の仇をとろうと怒りを燃やすが、王はレアティーズの怒りを利用し、毒剣と毒入りの酒を用意して、ハムレットを剣術試合に招き、秘かに殺そうとするのだった−。



知っている俳優さんばかりですけど、何だかちょっと組合せが
珍しいというか、目新しい感じがしますね。
ハムレットは昨年、谷賢一さんのシェイクスピア講座を聞いた
ので、早く観てみたいなーと思っていた作品です。

舞台の下手には客席があり、右側に向かって傾斜のついた舞台。
(舞台上の客席から観ると、通常の八百屋舞台になっている)
なんかこういう舞台、見覚えがあるな・・と思ったら、これは
「ジェーン・エア」の時も舞台上に客席がありましたね。
この作品もジョン・ケアードの演出だったなあ・・。




これは英国ロイヤル・ナショナル・シアターで上演された
「ハムレット」の日本公演版というものだそうですが、あの
着物を意識したような衣装や、 藤原道山さんの音楽はやはり
日本公演版オリジナルという事になるのでしょうか。

今回唯一、1役しかないのがホレイショーを演じた北村有起哉さん。
ホレイショーが一人舞台上に出てきて、地面に手を当てると
他のキャスト達も出てきて、みなが同じように地面に手をかざします。
そして、ハムレット役の内野さんがホレイショーの髪を撫でるように
して舞台を去り、他のキャストも舞台を去り、そして物語が
スタートしていきます。

今回の一つの特色は、キャスティングが目新しい印象なこと。
良くも悪くも、シェイクスピアと言えば蜷川さんのイメージが強く、
蜷川さんによくキャスティングされる顔ぶれで、シェイクスピア
作品を観る事が多かったので、とても新鮮です。

まずはクローディアスと亡霊の二役を演じたのが國村隼人さん。
え?二役?と思いましたが、元々兄弟な訳ですし、顔を合わせる
シーンもないので、確かに「アリ」ですよね。
“よみがえる死と生の関係”がテーマという事ですので、なるほど
その点でも合致します。
それにしても、なぜ今まで國村さんはシェイクスピアを演じて
こなかったのか?と膝をうちたくなるほど、イメージピッタリです。
亡霊の際の足音を意識させないような身のこなし、あの表情。
クローディアスの際の、胆力があり、表に見せないようにしている
(けど、漏れ出してくるような)狡猾さ・・・。

シェイクスピアを観て「面白いなぁ」と思うのは、演出によって
その作品の印象が大きく変わる事ですが、今回は「二役が多い」事と
ガートルードがその大きな要因になっているように思いました。
描き方によっては、ハムレットのマザコンぶり(母親に対する
思春期特有の潔癖さ)にスポットが当たる事もあると思いますし
そうなると必然的に、ガードルードの個性が際立つことになります。
少し前に藤原竜也君が演じたハムレットも、そんな感じでしたし
鳳蘭さんのガートルードが印象的でした。

それに対して、今回はハムレットは「母の再婚」というよりは
「偉大な父を殺した」事に対してより心を痛めているように思われ
(まあ、内野さんの年齢でマザコンっぽいのは引くけどね)
ガートルードは控えめで、か弱い女性で、とてもたおやかな
母性を感じる。つまり、女性から観ても、あまり嫌悪感を
感じない女性になっていましたね。
クローディアスの先王殺しも、もしかしたら知らなかった?とも
思えるような反応をみせていましたし。
それにしても、ガードルードを演じた浅野ゆう子さんは美しかった!
私はW浅野がドラマで活躍した頃を、リアルタイムで知っているので
あまり舞台で拝見する・・という印象が無かったのですけど、
とても良くて、また舞台で是非拝見したいと思いました。

そして、ハムレットとフォーティンブラスの二役を演じたのが
内野聖陽さん。フォーティンブラスまで内野さんがやるのか!
と驚きましたけど、この二人で受け継いでいくものがある・・
という意味でも、この二役はアリでしたね。
セリフに関しても、演技に関しても内野さんであればもう
文句はないのですけど、やはりハムレットに関してはもっと
若い俳優さんで観たかったなぁ・・というのが正直なところ。
若いからこそ、自分のもつ「正義」を突きつけてしまうという
衝動のような所がハムレットにはあると思うのですよね。
どうしても内野さんが演じると、若さ故・・というよりも
計算した上での行動、という風に勘ぐってしまうので(笑)。

今回オーディションで役を勝ち取ったというのが、レアティーズ
を演じた加藤和樹さん。
レアティーズは井上芳雄くんが演じた時の印象が強くて
品の良い優等生のイメージが強いのですよね。野性味のある
加藤君では、観る前はどうしてもレアティーズっていう感じが
しなかったのですけど、これまた良くて。
特に、オフィーリアの埋葬の際にハムレットと対峙する時には
ガチで周りに止められていませんか?と思う程の衝動で
ハムレットに食ってかかっていっていて、妹を想う気持ちに
心打たれてしまいました。先入観はいけませんな(笑)。

オフィーリア役は貫地谷しほりさん。
舞台では初見かしら?と思ったら「労働者M」にご出演だったようで。
ていうか、2006年の作品なんで、そこまで覚えてないです・・(笑)。
なかなか良かったですよ、特に正気を完全に失ってしまった後。
でも、壊れてしまう過程がちょっと分かりづらかったかな。

ラスト、クローディアスもガートルードも、レアティーズも
ハムレットも、みんな死んでしまった後・・。
生き残ったホレイショーをその死者たちが円になって、囲みます、
顔を手で覆う事で死者であることを表しているのかな。
そして地面に手をついて、亡骸を表す各人の上着を舞台上に残し
舞台奥の光の中へ亡者たちが消えていきます。
その際に、ハムレットはホレイショーの髪を撫でながら・・。
ああ、このシーン、オープニングにリンクしているのね。

そして、生きている間には憎みあっていたハムレットとクローディアス
母娘になれなかったオフィーリアとガートルードが並んで
光の奥に消えていく様子は、感慨深く、またこのラストは、
悲劇の中にある“希望の光”の役割としてのホレイショーとしても
印象深いシーンでもありました。


以前参加したシェイクスピア講座で、亡霊がハムレットに復讐を
命じるシーンで「その心を汚さぬように」というセリフがあり
そこが大きな意味を持つ、という話を聞きましたので、
今回はそこを注意して観ておりました。
確かにその台詞はあったのですけど、「母には危害を与えるな」
という続きの台詞の方がインパクトがあるんですよね。
だから、このセリフに注目をし、そしてその台詞をキーとして
全体を読み解くって、すごいと凡人の私は思ってしまいました(爆)。

観れば観るほど面白くなるシェイクスピア。
もう蜷川さんの演出が観られないのは残念ですが、今回のように
全く違うキャスティングで、視点の違う演出が観られたりするな、
そう思わせてくれた1本でした。