地元・・というか、刈谷ですが、他県に行くよりは断然ラクチン。
昼間は部屋に籠っておりましたが、これを観にお出かけです。

フェードル「フェードル」刈谷市総合文化センターアイリス1列
18:00開演、20:15終演
脚本:ジャン・ラシーヌ、岩切正一郎  演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ、平岳大、門脇麦、谷田歩、斉藤まりえ、藤井咲有里、キムラ緑子、今井清隆
【あらすじ】 
名声に輝く立派な王テゼ(今井清隆)を夫に持つ、人妻・フェードル(大竹しのぶ)の前に現れた義理の息子。清潔なエネルギーに溢れ、その面差しは夫に酷似しながら夫には失われた若さと高潔さに輝く。フェードルはこの義理の息子イッポリット(平岳大)に恋してしまう。しかも、夫は不在、生死も不明。苦しみの末フェードルは恋を打ち明ける。しかし、結果はイッポリットの手ひどい拒絶であった。苦しみの中、突然、夫が生きており、帰還することに・・・!


まあ、何と豪華な俳優陣でしょう。
東京だとシアターコクーンでの上演ですよね、愛知に来てくれて
ありがとうございます、といったところでしょうか。
恐らく、地方公演が無くても、観に行っていたでしょうから。

この「フェードル」はフランスのラシーヌの作品で、ギリシャ神話から
題材を得ているという事。ギリシャ神話か・・・と思わなくも
ないですが、映画では私の好きなヘレン・ミレンも演じたそうで
それを知って、俄然興味が湧いてまいりました。
が、「古典」という事が分かっているだけで、予備知識ゼロ。
大丈夫かしら、最前列のど真ん中なんですけど・・・。




 
セットはシンプルです。石の門のような、壁のようなものがあり
中央には座面の赤い肘掛け椅子と、その上に無造作に掛けられた
真っ赤な布があり、基本的には場面転換はありません。

そこに登場したのが イポリット(平岳大)と、テラメーヌ(谷田歩)。
その会話から、イポリットは恋愛に興味のない無骨な人らしい事、
なのに、よりによって敵の生き残りの娘であるアリシー(門脇麦)に
恋をしてしまっているらしいことと、イポリットは行方不明の父王を
探しに行くと言うが、恋心を断ち切るためであろうとテラメーヌに
見破られてしまいます。
平さんはリネンぽい上着をお召だったのですが、どうやらイポリットは
強い想いがある時には服をギューッと握る癖があるようで、物語が
進むにつれて、衣装の皺がキツく、沢山残っていくのが印象的です。
イポリットは「傲慢」と表現されてはいましたが、傲慢さを感じる
事は無く、無骨で不器用だけど、誠実で謙虚な人・・といった感じ。

そして次のシーンではフェードル(大竹しのぶ)と、彼女の乳母
エノーヌ(キムラ緑子)さんの登場です。
フェードルはやたら「死ぬ、死ぬ」と言い続け、乳母はとにかく
フェードルに生きる希望を持たせようと必死。
自分の全てを捨てて、フェードルの為に生きてきた・・というのが
納得いく寄り添い方です。ドリさんのほうがしのぶさんより年下なのに、
ずっと年上に見えるし、盲目的な愛をもつ思慮浅い(視野の狭い)
乳母っていう感じがとても良かった。さすがです。

フェードルは「今まで黙って来たけど、実はダンナの連れ子の
イポリットが好き。好きだから辛く当たってきてしまった」と
道ならぬ恋を告白。そこにダンナであるテゼ(今井清隆)が死んだ
との報が入るものだから「もうダンナ様は死んだのだから、そんな
恋心をやましく思う必要はないんですよ、あなたの子どもに王位を
継がせるために、イポリットと組んで、アリシーを追い落とすのです」
とけしかけ、「それもそうね」と急に活き活きするフェードル。

おいおい。
ここで頭の中で人物相関図を描きます・・・。
フェードルはテゼの妻。だけど、テゼの息子のイポリットが好き。
イポリットは。父であるテゼが憎む敵の生き残りのアリシーが好き。
ついでに言うと、アリシーもイポリットが好き。
フェードル、とんだ道化じゃないですか(爆)。

フェードルは勢いでイポリットに恋心を伝えてしまい、イポリットを
のけ反らせます。もともと女嫌いだったイポリットですから、
そりゃたまらんでしょ、父親の後妻から言い寄られたりしたら・・・。
フェードルは何故そこまで自信があったのか分からないけど、拒絶された
事に絶望し、また「死ぬ、死ぬ」と言い出し、イポリットの剣で
自殺未遂。それだけでも赤っ恥なのに、テゼが生きていたとの知らせ。

ヤバい、死んだと思ったから告白したのに、イポリットからチクられ
でもしたら大変なことになる・・・。

そこでエノーヌは「イポリットがフェードルに言い寄った事にしよう」
と提案し、テゼはまんまとその術中にハマってしまい、怒り狂ったテゼは
イポリットの死を神に願うまでに。
ああもう、何でこんなにこんがらがってしまうのかしら。
またイポリットもいい人過ぎて、フェードルとテゼの名誉の為に・・と
父親に全てを打ち明けないものだから、誤解はとけないまま。
結局、神はテゼの願いを聞き入れ、イポリットを殺してしまい、
その後で事の真相を知る父、そして自殺するフェードル・・。

この重厚で救いようがない感じ、大変私好みでございます。
確かに台詞量は膨大ですけど、古典劇なんて、こんなものでしょ。
大竹しのぶさんは、「いつもの大竹さん」ではありますけど、
こういう役は本当にピッタリです。
ああ、大竹さんのお衣裳も素敵でしたね、色といい、形や素材といい。
「みるみる表情が変わる」「一気にまとう雰囲気が変わる」のは
最前列で観ていて、ゾクゾクする程でした。
子どもを案じる母であり、恋や嫉妬に狂う女であり、夫のある妻であり、
プライドのある一人としての人間と、色々な顔を見せてくれました。

でも、フェードルひどくない(笑)?
「こんなことになったのはお前のせいだ」とエノーヌを追い出して
しまうのだけど、結局エノーヌはフェードルの事だけを想っていた
訳だし、彼女の企みに同意したのは(エウリピデスの『ヒッポリュトス』
では、エノーヌが勝手にやっているらしい)フェードルなのに、
あの突き放しようったら・・・。

そして、今回ちょっと驚いたのがアリシーを演じた門脇麦ちゃん。
何作か拝見していますけど、ちょっとスカしたような、小馬鹿にした
ような話し方をする役ばかりを拝見していたのですが、今回は
全くイメージが違っていました。
イポリットの告白を聞きながら、クルクルと表情が変わり、ボロボロ
と涙を流し、恋愛に不慣れな少女、というぎこちない雰囲気もまた
とても似合っていて、こういう作品、演技も出来るんだ!と
見なおしてしまいました。あと、もうちょっと気品があったらな・・。
台詞に関しては、発声に気を遣いすぎて、口がセリフについていって
いない感じがしたのが残念だったかな・・・。
とはいえ、新たな面を見せて頂いたので、これからに期待です。
ラスト、血まみれになってイポリットの服を愛おしそうに持ち
彷徨い歩く様子には、ちょっと泣けてきそうでした。

テゼは今井清隆さん。ストプレも出るんですねーと思いましたが
まあ、とにかく声が素晴らしく通って、威厳もあって良かった。
結局は一番のピエロはこのテゼなんですけどね。
そんな愚かさも、イポリットに怒りながらも、怒りきれない・・
という人間臭さも出ていて、とても良かったです。

斉藤まりえさんと、藤井咲有里さん、どこかで拝見した気が・・と
思ってプロフィールを拝見したら、「マニラ瑞穂記」で拝見していました。
新国立の研究所卒で、大きな役を掴む俳優さんにもっと出てきて
頂きたいですし、お二人ともとても良かったので、今後も期待しています。

フェードルとイポリットにはそれぞれ、エノーヌとアリシーという
彼らの事を想う女性がついていたのだけど、盲目的にフェードルが
望むことを叶えようとしたエノーヌと、あるべき姿を貫こうとした
(また貫く事の大切さを尊重した)アリシーという真逆の存在のため
この二人の運命も、大きく変えられてしまったのだな、とも思います。

最後、テラメーヌが伝令として伝える内容の悲惨さに「うー」と
思いながらも、「でも実は生きていました!」とかなるんじゃないの?
と思ったのですけど、話す内容の具体的なこと、谷田さんの話し方の
痛々しさに、「・・な訳ないよね・・」と、こちらまで意気消沈。

エンディングでのライトの使い方が栗山さんっぽいなあと思いましたが
もともとフェードルの母方の祖父は太陽神。義理の息子を恋しては
太陽の光に「裁かれる」 と避け続けていたのに、死後その死体を明るく
光が照らしているのは、やはりフェードルは裁きを受けたのだろうかと
思わずにはいられませんでした。
 
いやー、これは久しぶりに、自発的にスタンディングして拍手したよね。
とにかくセリフも良く届いたし、圧倒されたし、息がつまるほどの
迫力でしたけど、見応えがあって大満足でございました。