友達と新宿で落ちあって、向かったのはサンモールスタジオ。
名前は知っていますが、観劇するのは初めての劇場です。

60'Sエレジー
劇団チョコレートケーキ 「60'sエレジー」 サンモールスタジオ4列
脚本:古川健   演出:日澤雄介
出演:浅井伸治、岡本篤、西尾友樹(以上、劇団チョコレートケーキ)、佐藤みゆき、林竜三、日比野線(FunIQ/劇団半開き)、足立英、浦田大地(ナナイロスペース)、栗原孝順、高橋長英※声の出演
【あらすじ】
所得倍増計画、集団就職、新・家電三種の神器、そしてアジア初の五輪『東京オリンピック』。今から半世紀さかのぼる1960年代、高度経済成長期。史上、最も日本人の生活が変わった時代。より豊かに、より便利に、様々な『心』を置き去りにして上昇していった日本社会。あの頃の日本人は何を望み、何を失ったのか?東京下町のある町工場 に集い、寄り添い生きた人々の60's



これはもう、本当に楽しみにしていた1本です。
「ラインの向こう」「治天の君」と私的大ヒットが続いていたので。
今回は整理番号もない自由席。
到着順にならんでお金を払って入場するスタイルです。
当日券もキャンセル待ちしかない状態だと聞いていたので
開演50分ぐらい前に到着(受付は開演40分前から)。
前には既に15人ぐらい並んでいましたが、あっという間に後ろに
長い行列ができていました。

まあ、よくある小劇場ですけど、舞台のセットはとてもリアル。
下手の入り口のガラスには「小林蚊帳」と書かれており、どうやら
下手は工場になっている様子。
土間があって、上手には居間があります。ちゃぶ台があって
神棚があって、奥には小さなデスクがありますが、どれもこれも
すっごくリアルなんですよ。
竹箒やチリトリなんて、気づくと今の生活では目にしませんしね。

この舞台は1960年代、東京オリンピック前の数年前から現代が
舞台になりますが、事前に渡される用語集はすべて分かるもの
ばかりでした。集団就職、金の卵、三種の神器・・・。
それだけ自分が歳を取ったということなんでしょうね。



暗転から舞台に明かりが戻ると舞台上には警官と刑事。
ん?と思いますが、どうやらこれは現代の様子。
取り壊しが決まったアパートで、独居老人が首吊り自殺をしたらしい。
大家がやって来る約束になっていて、その前に自殺をしたことから、
立ち退きに関しての抗議かとも思われたが、大家との関係は良好
だったという。もしや、死後発見されないまま時間がたって
迷惑をかけないように、この時間を選んだのでは?と警官が言い出す。
そこで警官が「遺書らしきものがあった」とノートを差し出すが
遺書にしては内容が膨大だ。動機を知るためにも警官と刑事は 
その内容を読んでみることにするのだった。
それは、老人がまだ少年だった頃、小林蚊帳店に集団就職でやってきた
東京オリンピック開催数年前から書かれていたー。

基本的にはこのノートに書かれていた内容の再現が中心の舞台でした。
ノートの内容を読み上げる警官の声と、老人の声が重なり、舞台は
1960年代に戻っていきます。

福島から集団就職で小林蚊帳に「飯田修三(足立英)」がやって来る日。
緊張する修三少年に対して、不慣れながらも全力で対応しようとする
社長の小林清(西尾友樹)と、足が不自由ながらも、大いなる朗らかさと
大きな温かさで迎えようとする清氏の妻悦子(佐藤みゆき)。
不器用で職人気質の塊で、先代の社長の頃から働いている越智武雄
(林竜三)、いい加減だけど裏表のないきよしの弟小林勉(岡本篤)。

ああ・・すごく懐かしい感じがする。人情なんて言ったら薄っぺらい
感じになってしまうのだけど、良し悪しの判断基準が利害関係ではなく
「どうすべきか」だった頃があったんだなぁ、と思い出させてくれる
感じ、っていうのかな。

得意先の寝具店の営業である松尾和夫(浅井伸治)との会話を
聞いていると、羨ましくなってしまうのですよね。
工場はいい製品を、クライアントの求めに何とかして応えて作ろう
とする。クライアントも工場を信頼して単独発注する。
一緒に仕事をしているっていう感覚。
合い見積もりを取って値段勝負、が普通の現代からすると、
お客様とこういう繋がりが持てるって、素晴らしいと思うもの。

社長の清が、何とかして修三を高校に進学させてやりたい・・と
妻に話すシーン、利害関係のない相手を想う気持ちが、眩しくて。
「申し訳ない」という修三を叱り飛ばし、「行きたいなら遠慮するな」
と言うシーンで、既に泣かされてしまいました・・。

世の中は好景気に沸くのだけど、網戸が普及するにつれて
浮かれている世の中に反比例して徐々に追い詰められていく小林夫妻。
修三を大学まで進学させてやりたいと、弟をリストラし、古株の
職人をリストラして何とか事業を続けたが、とうとう小林蚊帳店は廃業。
社長の清は妻の宇都宮にある実家の牛乳屋に勤める事になりますが
学生運動に夢中になっている修三は、宇都宮にはついて行かない。
そして、それ以来、修三と清夫妻が顔を合わせなかったという−。

何が凄いって、小林清を演じた西尾友樹さん。
全力で修三を土間に突き飛ばすわ、思いっきり茶碗のお茶を
取引先の営業にぶっかけるわ、むき出しの感情で演じていて、
とにかくすごい迫力でした。「治天ノ君」で大正天皇を演じた人とは
思えませんね(笑)。友人は「凄い声が大きくて怖かった」って
言ってましたけど、声の大きさも含めて、小林清って言う人そのもの。

一通りノートを読み終わって、最後にまた回想シーン。
修三の高校受験の合格発表があった日に戻ります。
今はもう取り戻せない日々。
人と人の繋がりがあって、本気で喜んでくれる人たちに囲まれた
幸せな日々が再現されるともう、また泣けてきてしまって−。

全体に「ALWAYS 3丁目の夕日」のような作品ではあるのですが
あちらは自動車工場で、これから伸びる産業。
こちらは蚊帳工場で、網戸の普及に伴い尻すぼみになる産業。
世の中がオリンピックだ、高度経済成長だと浮かれていても、
その恩恵を享受できない人もいた、そういう人たちにスポットが
当てられている所が大きな違いです。

効率化って?便利になるって?という事を考えずにはいられない。
もし、この舞台のような生活に戻ったら、そりゃ不便だと思う。
でも・・・何か違う幸せを今の生活の代償として、私たちは
手放してきてしまったのではないか。
今、もう少し考え直してもいい時期なのかもしれない気がする。
それは、私が年齢を重ねてきているからこそ感じるのかも
しれないことだとは思いますが。

得意先の担当者である松尾は、それまでは商談に来ては一緒に
将棋を差したりしていたけど、年を経るにつれて笑顔が無くなり
仕事以外の話もしなくなり、小林蚊帳での滞在時間も短くなる。
仕事の仕方を通して、世の中が変わっていったことが、
この人の態度の変化が物差しになってよく分かります。

この劇団は、もっと重い社会問題をテーマを題材にする事が多い
と思っていたのですが、(これも社会問題を扱ってはいますが)
こういう作品もあるんだなぁ、と思いました。ヤバい。
ガッツリ私のツボにはまった気がする(笑)。

大好きな作品ではありますが、完全無欠の舞台って言う訳ではなく、
ちょっと疑問に思う事もあります。
修三が自殺した理由が、今一つピンと来ない。
2020年の東京オリンピックが決まり、昔の東京オリンピックの頃を
思い出して、後悔の気持ちが強くなった・・んでしょうが、
それだけで自殺するものだろうか。
でも、そんな疑問を補って余りある温かい気持ちが詰まった
1本だったと思います。

あー、これからもう劇チョコの作品は必ず観るんだから!