東京の遠征の時に観たかったのですが、予定に入れきれずに
大阪で観る事にした1本。

天の敵「天の敵」ABCホールA列(2列目)
13:00開演、15:20終演
作・演出:前川知大
出演:浜田信也、安井順平、盛隆二、森下創、大窪人衛、小野ゆり子、太田緑ロランス、松澤傑、有川マコト、村岡希美
【あらすじ】
ライターの寺泊は、食事療法の取材中、戦後まもない1947年に「完全食と不食」について論文を書いた医師、長谷川卯太郎を知る。その卯太郎の写真が料理家の橋本和夫に酷似していたことで、寺泊は二人の血縁を疑い、橋本に取材を申し込む。菜食の料理家として人気を博す橋本のルーツは、食事療法を推進していた医師、卯太郎にあると考えたのだ。「いや …… 長谷川卯太郎は私です。今年で 122 歳になる」完全食を求めて生き延びた男は、食物連鎖から外れ、世界の観察者となっていく_。



「図書館的人生 Vol.3 食べ物連鎖」の中の「人生という、
死に至る病に効果あり」という話を1本に独立させたこの作品。
この短編集の中でも目立って印象に残る1本なので、面白くない
はずがない、と思っていそいそと大阪に向かいました。

今回は劇団員が男性ばかりになって初めての劇団公演です。
「図書館的人生 Vol.3 食べ物連鎖」は2010年の作品かぁ・・・。
割と最近の作品という印象でしたけど、もう7年も前になるんですね。
あの作品に出ていた伊勢佳世さん、岩本幸子さん、加茂京子さん
窪田道聡さん、緒方健児さんが既に劇団に居ないと思うと、
確かにそれ位の年月は経ったのも頷けます。





今回は舞台のど真ん中という特等席で観ることが出来ましたが、
舞台の背景には一面の背の高い戸棚があり、戸棚一杯にガラス製の
保存瓶が並んでいます。ハーブみたいなもの、パスタみたいなもの
空瓶・・と色々です。前川さんが「今回は珍しくモノが多い舞台」
っておっしゃっていたのは、こういう事か・・って感じですね。

まずは料理番組の収録シーンから。
オリジナルでは別の短編に収録されていた部分って事になるのかな。
これ、リアルで調理しているっぽくて、バルサミコを炒めた時の
いい香りが漂ってきます。あまりに美味しそうで自分も作って
みたくなっちゃいました。
東京公演を観た友人(元フレンチのシェフ)は炒り豆腐ご飯を
既に試してみたという事なので(実際に美味しかったそう)、
きんぴらごぼうをオーダーしておきました(笑)。簡単だけど
この為だけにバルサミコは買えないしね。

今回「天の敵」として描かれるにあたって、一番の変更は
寺泊満(安井順平)の設定の違いだと思います。
オリジナルは、「消えた高齢者」の取材をするジャーナリスト
でしかなかったのですが、今回はALSに侵され、健康情報について
取材を続けるジャーナリスト。それ故にサプリや健康食品とかの
ビジネスに対してネガティブな印象を持っている、という設定。

でもこの設定が本当に上手いんですよね。最初の入り方も
最後もとても効いてくるんです。

全体の演出はオリジナルと同じ。
“取材”という体なので、ストロボを焚いたような光と音がして
場面が変わっていきます。基本的には橋本和夫(浜田信也)の
話す内容を追っている、という流れですね。

まず凄いな、と思ったのが寺迫と橋本和夫の距離感の変化と
寺泊が徐々に長谷川の話に引き込まれている様子でしょうか。
寺泊の相槌のうちかたがどんどん変わってくる。
橋本和夫が長谷川卯太郎の事を「自分」と表現するごとに
「ちょ・・ちょっと待って下さい」と止めていた寺泊なのに
止めなくなる、つまり途中から受け入れたって事なんですよね。
疑い深く思っていた取材対象だったのに、引き込まれてくる。
それがとにかく自然で。でもそれって凄い事だと思います。
ま、観ている私たちも同じように引き込まれているんですが。

観ていて若干違和感があったのが「今年122歳になる」という
フレーズ。帰宅してDVDで確認してみたら「今年で115歳」
と言っていて、そうか、7年経ったからだね・・と。

もちろんオリジナルでも描かれていましたが、今回は特に
印象に残ったのが、生き続けなければならない悲しさ、かな。
若く健康で居られる事が嬉しかったはずなのに、妻はその状態に
心を病んで、半ば自殺のように死に、もはや素性も明かせない
状態なので、妻の葬儀にも出られない、真っ当な方法で
仕事をすることも出来ない。
数少ない親しい人は自分の脇をすり抜けるように居なくなっていく。
(ちなみにヤクザと親しくなったり、金田欣司は新設定)
五味沢恵(小野ゆり子)も年なりに老いてきて、自分の世界を
広げたそうにしている様子に、また恵も去っていくのだな・・と
思っただろうし、もうイヤだ、と思ったからこそ、2ショット
写真を撮影して、「終わりにする」事を決意したんだと思う。

卯太郎自身は大きな野望があって飲血を始めた訳ではないけど
「俺は飲血はやらん!」と言いながらガンに侵されて死んだ
糸魚川典昭(有川マコト)に衝撃をうけたはず。
むしろ、その姿に人としてのあるべき姿を見ただろうし
もしかしたら自分を恥じ入ったかもしれない。
なのにその孫の糸魚川弘明(盛隆二)とその妻(村岡希美)
は自ら進んで飲血をしてしまう。
その姿に責任も感じただろうし、卑しく見えたんだろうな。

「今のお前は病的に健康だ」っていう逆説はクスっとするけど
実は結構深いセリフだと思うんですよ。
「健康になりたいという気持ちは感染する」
「許す許さないじゃない、人間にとって魅力的なものはこの
 世の中を席巻していく」
「吸血鬼の牙より思想の方が感染力が高い」
は怖いセリフだったなぁ。「そのうち金持ちが貧乏人の血を飲む」
というのも、そんな事態が起こり得る納得させられてしまうようで。

あと、「天の敵」になる事で印象に残るのがラストシーン。
これは完全にこの作品オリジナル。
冒頭のシーンと対になるようになっているんですよね。
この設定が活きたわーと思う一番の見せ場かな。
オープニングも、「夫がALSだ」と告白するシーンの寺泊優子
(太田緑ロランス)がもう、泣けるんですよ。
大きな目に今にも溢れだしそうに、目に涙を溜めつつも
無理して笑顔を作っている姿にね。「止めなさいよ」って
夫に怒られたりするんだけど、最後には妻が夫を包み込むように
抱きとめてね。

おそらく、寺泊満も「飲血すれば、健康になれる」と思った
だろうし、心も揺れたはず。
でも、飲血する事で失うであろうモノを考えてか冷蔵庫を閉める。
それでいいと思いつつ、肩を落とす寺泊の姿に切なさが溢れて
いました。

「獣の柱」の時もそうですが、元々ある短編を肉厚にし、
方向性をさらにシャープにして1本の骨太の作品に仕上げる
前川さん、凄いと思います。
前からずっとそうですが、あり得ない設定なのに、何故か全く
と言っていいほど奇想天外感がない。
とても普遍的な内容として受け止められるのは、相変わらず凄い。

秋は待ち続けた「散歩する侵略者」。
こちらも楽しみでなりません。
個人的には「見えざるモノの生き残り」も再演して欲しいのだけど。