同じく上京してきていた友人と合流し、向かったのは芸劇。
こちらの作品がお目当てです。

人間風車「人間風車」東京芸術劇場プレイハウス L列
18:00開演、20:30終演(終演後アフタートークあり)
脚本:後藤ひろひと  演出河原雅彦
出演:成河、ミムラ加藤諒矢崎広松田凌今野浩喜菊池明明川村紗也山本圭祐小松利昌佐藤真弓堀部圭亮良知真次
【あらすじ】
平川は童話作家だが1冊も出版が出来ず、新聞配達で生計を立てている貧乏な男。そんな彼が作品を発表するのは、近所の怪獣公園で子供たちを集めて開く、お話会だ。”想像する顔”を忘れた子供たちがこの時ばかりは目を輝かせて平川のお話に聞き入る。でもその内容は、正直者が損をしたり、半端な学歴は役に立たないということを諭してしまう、妙に現実的なものばかりで親からの評判は散々。ある日その公園に、平川が話したお話の登場人物に扮装して現れる、奇妙な男が現れるようになった。自分の理想を追うばかりで、生活力のない平川を、友達で、現実的な童話作家の国尾は、心配してあれこれ世話を焼くのだが、貧乏でも平川はそれなりに自分の生活に満足をしていた。それを激変させたのは、見学に行ったTV局で番組の司会をしていたアキラとの出会いだった。生まれて初めて恋に落ちた平川。その想いは、彼に今までにない作風の素晴らしい傑作を書かせたのだが、その作品の素晴らしさに国尾は作者の平川よりも先に気づき、自分の知っている編集者に電話を掛けるのだった−。




この作品は、2000年版をネット配信で観て、とにかく衝撃を受け
結局DVDまで買ってしまったんですよね。
阿部サダヲさんが凄い役者さんだ・・と思い知らされたのもこの作品。

DVDであれだけインパクトがあるのだから、いつかは舞台で観たい。
ガマザリやダブリンの鐘つきカビ人間などは再演をしているので、
観るチャンスがあるのではないか、と期待し続けておりました。
ある意味その願いが叶った訳ですが、演出家はオリジナルのG2さん
から河原雅彦さんにバトンタッチ。
その点が楽しみでもあり、心配な所でもありました。




思ったよりも、以前上演された作品を踏襲されていたな、というのが
最初の印象です。
DVDでも十分怖かったんですけど、やっぱり生で観る方が怖かった・・・。
(2000年版とか生で観たら、どんだけ怖かっただろう・・)
話の展開を知っているからこその怖さがあったのかもしれません。
ちなみに友人から「なんで“人間風車”なの?」と聞かれたのですが、
これはプロレスの技の名前を取ったもので、内容とはあまり関係ない
というインタビュー記事を過去に読んだ事があります(笑)。

今回、河原演出版になって大きく変わったところが2か所。
G2版ではこの事件があった後20年後から始まります。
話している一人は、怪獣公園で平川の話を聞いていた子供の一人。
そしてもう一人は、平川が応募した童話賞の選考委員の一人。
当時の子どもが、一連の事件を語り、「黄金戦士オロは間違いなく
国尾ではなく平川の作品です」と告白し、今でも子供相手に
平川は物語を語っている・・という心温まる終わり方をします。
ただ今回は、平川が作り出した魔王がお話の完結を求めて平川の
携帯に電話をしてくる・・という、ホラー感を押し出したエンディング。
これはこれで怖いですし、余白のあるエンディングとしては
アリだな、と思います。

ただ、私は2000年版の方が好きかな。
冷静に考えると荒唐無稽な話な訳ですよ。
いくら「不死身になる」とお話に書かれていたとしても、生身の人間が
拳銃を打ち込まれて死なないとか、理屈がつかないですから。
でも、当時子供だった人間が色々な人から聞いた内容を繋げて語っている・・
という体になっている2000年版は「どこまでが真実かは分かりません。
人から聞いた話を繋ぎあわせている。どこが誇張されていて、どこが
忘れ去られているかは、20年も経っているので分からない」
というエクスキューズもあるので、気にならないのですよね。

あと、サムの姉であるアキラ(ミムラ)が今回は殺されてしまいます。
それも結構アッサリと(笑)。
今までの上演版では、アキラは殺されそうになるけど、その寸前に
背中に翼の生えたダニーの話をする事になり、サムが飛び降りるのを
見守るんですよね。
髪のついた頭皮を持ってきて投げるとか、グロいから・・(驚)。

まあ、そんな違いはありますが、やっぱり引き込まれる作品です。
まずは平川役の成河さんがお上手です。
セリフは聞き取りやすいし、生活力のない夢見がちな童話作家が
憎しみに振り回され自分を見失い、復讐に燃えた童話を語るシーンの
差が凄いんですよね。
ただ、この役の語りが上手いか下手かで、この舞台の説得力が
大きく変わってくると思うので、成河さん凄いな、と。
生瀬さんよりも、成河さんの方が、怒りに我を忘れている・・
という感じを強く感じましたね。
あと、恐らく舞台で拝見するのは初めてのミムラも良かったです。
若干、天然っぽい感じもあるけど、純粋さもあって。

そして、サム役は加藤諒さん。
醸し出す雰囲気が既にサムっぽいですよね(笑)。
思ったよりも良かったです。「ビル」になった時も怖かったし。
恐らく、この作品をまっさらな状態で観たのであれば、何も
思わなかったと思うんです。
ただ、本当に申し訳ないのですが、この役を阿部サダヲさんで
観てしまっているので、どうしても比べてしまって・・・。
無邪気なシーンも、ビルになった時も、阿部さんは凄かったから。

平川の語る残酷な復讐譚にオエっと思いながらも引き込まれていき
息を飲むように観入った2時間半でした。
G2版の方が好みだったし、そちらで観てみたかったな・・という
気持ちは残りましたが、そうは言っても、面白い作品はやはり
面白く、今回舞台が観られて良かったな、と思いました。

しかし今思い返しても、2000年版はキャストが豪華すぎですよね(笑)。