今回の遠征は計4本の予定。まず1本目は初台にてこちら。

プライムたちの夜「プライムたちの夜」新国立劇場小劇場 2列目
13:00開演、15:05終演
脚本:ジョーダン・ハリソン  演出:宮田慶子
出演:浅丘ルリ子、香寿たつき、佐川和正、相島一之
【あらすじ】
とある家の居間、85歳のマージョリーが30代のハンサムな男性と会話している。だが、昔の二人の思い出に話が及ぶと、その内容に少しずつ齟齬が生まれる。戸惑うマージョリー。実はその話し相手は、亡き夫の若き日の姿に似せたアンドロイドだった。薄れゆくマージョリーの記憶を何とかとどめようとする娘夫婦。愛する人を失いたくない家族の愛をテクノロジーはどこまで補えるのだろうか......。


特にこの舞台を観たいと思った特別の理由は無くて、
新国立主催公演は一通り観ましょう、と思って、
通し券を買っていた作品です。
なので、内容とか全く知らないままの観劇でした。
新国立の演目って、戦争や民族紛争などの硬質なテーマが多い
という印象ですが、今回は「未来」の話というのが、ちょっと意外。
主人公マージョリーは1977年生まれの85歳という設定らしいので
舞台は2062年という事になるのかな。





舞台はリビングルームと思われる部屋。
上手にリクライニングチェアがあり、そこにマジョリー(浅丘ルリ子)が
入ってきて腰かけます。
どうやら歩くのも辛そうで、具合が悪そうです。
そこに若いキリっとした男性ウォルター(佐川和正)がやってきます。
ウォルターはマジョリーに対して献身的ですが、どうも関係性が
見えづらい会話をしています。
マジョリーはウォルターの教師のように諭す時があるかと思えば
昔話をしたり、甘えてみせたり。
そのうちに、何となく感じていた違和感が明確になってきます。
「その情報は持っていない」なんてセリフから、このウォルターって
”人間”じゃないんだ!

このウォルターは「プライム」と呼ばれるアンドロイド。
恐らくビジュアルはクライアントのオーダー通りに作られるようで
ウォルターはマジョリーの夫の若いころの姿。
ただ納品された段階ではウォルターとしての記憶も知識も無いので
オーナーが教えていかなければならないのだけど、人間だと思って
会話をしていくと、「教えて」いない内容に触れたりして、
そんな時に「その情報は持っていない」「覚えておくよ」といった
会話になるようです。

マジョリーはいわゆる「まだら呆け」状態。
そんな母であるマジョリーの記憶が崩壊するのを防ぐためにも
娘・テス(香寿たつき)夫婦が購入したらしい。
なのに・・テスは母がプライムと仲良くしているのが面白くない。
自分も母親の為に介護しているのに自分の言う事は聞かず、
プライムの言う事は素直に聞いたりするから、益々面白くない。
母が若いころの父親のプライムを選んだことも面白くない。
もし自分だったらどうだろう。
自分にも生活があるけど、そんな状態の母親を一人暮らしさせておく
のはやはり心配。アンドロイドとはいえ、側に居てくれるのならば
「気持ち悪い」とかって毛嫌いしないんじゃないかなぁ・・。

場面が転換すると、ウォルターのプライムは居なくなり、なにやら
若返ったマジョリーが座っている。
もしや・・・?と思うと、「私は貴方のお母さんなのよね?」
みたいな会話が進行している。そうか、やっぱり・・・
母親は亡くなって、プライムを入手したのね。
でもあれほど嫌っていたプライムを手元に置く事にしたのは何故?
という疑問が拭えないのだけど、どうやらテスが母親に対して抱く
気持ちはかなり複雑だったことが分かってきます。
テスには兄が居た。でも子供の頃にその兄を亡くしてしまい
母親は悲しみに沈み、自分の事を振り返ってくれなくなった。
強がってはいたけど、子供として母親の愛情に飢えていたようだし
甘え下手だった(マジョリーも甘やかし下手)本音をプライムに
ぶちまけたりしていくのですが、徐々に壊れていくテス。

もう、この頃のテスなんて痛々しいとしか言いようがない。
何とか手を差し延べようと温かく接する夫のジョン(相島一之)の
思いも素直に受け入れられず、そんな自分が嫌で、でも助けて欲しくて。
なす術もなく茫然とするジョンも気の毒で。

そして暗転。
ライトがつくと、先ほどまで髪を振り乱していたテスが
髪をきちんと揃え、姿勢よく座って微笑んでいる。
ーまさかー。
感情が全く感じられないようなテスの話し方、話す内容に
直ぐに気づきました。これは「テスのプライムだ」と。
つまり、テスは亡くなったんだ・・・。

そこにやって来るジョン。
どうやらやって来たばかりと思われるプライムに、テスがどういう
人だったのかを、語る姿が切なくて、切なくて。
その語る内容は極めて主観的なんだけど、それこそジョンが思う
「テスの姿」なんだよね。その言葉全てに愛情が感じられて
思わずこちらまでもらい泣きをしてしまいました。
そしてジョンが言います。
「君(テス)は正しかった。僕は自分と会話をしていただけなんだ」と。
ジョンはどちらかというとプライム肯定派。
でも改めて自分の大切な人を亡くし(しかも旅先で自殺という
ショッキングな方法で)見た目は全く同じなのに、何も知らない
プライムに情報をインプットする−。
結局はプライムはジョンが持つ情報しかない。
そういう意味で「自分と会話しているだけ」。

その後はプライムの「母」と「父」と「娘」が3人で会話をする
何だか寒々しい様子で幕を閉じるのですが、こうやってプライムは
自分たちだけで経験や知識を増やし、独自の成長を遂げていくのかも。
「自分が教えたこと」だけならまだマシで、勝手に人格を形成
していくとしたら、それはそれで怖いことだな・・なんて思います。
自分も独り身なので、プライムが居てくれたら寂しくないかなーなんて
軽く考えたけど、そういうものではないのかもしれない。
老後、痴呆、AIのようなIT化など、色々な事を考えさせられました。

香寿たつきさんは、ミュージカルでしか拝見した事が無いので
今回初めてストプレで拝見し「ああ、こういう顔の方なんだ」と(笑)。
ミュージカルではバッチリメイクだったり、ドレス姿だったり
する事が多いですから(笑)。
でも、ストプレで拝見する香寿さんも素敵でした。テスとしての
心に傷を抱えた様子も、プライムとしての無感情な話し方や表情の
使い分けがされていて。なんて言っても声が素敵ですね、やっぱり。

浅丘ルリ子さんは、「面倒くさいけど、愛すべき母親」って感じで
キュートでした。リアルあとプライムの時の差は一番少なかったかな。
相島さんも、暖かい人柄が満面に出ているような演技で、とても
素敵でしたよ。
思いがけず泣かされたりしましたが、観に行ってよかった1本です。