朝イチでホットヨガに行った後で向かったのは豊橋です。
東京では劇場が使えなくなるかも?というトラブルがあったようですが。
指定席だと思って、のんびり劇場に行ったら、自由席(整理番号順)で
やっちまった感(笑)。観やすい劇場なので、いいんですけどね。

荒れ野
「荒れ野」穂の国とよはし芸術劇場 アートスペース I列
開演:14:30  終演:16:20
作・演出:桑原裕子
出演:平田満、井上加奈子、増子倭文江、中尾諭介、多田香織、小林勝也
【あらすじ】
古い団地1室で、布団を広げて若い男のケン一と、中年の女性
(加胡路子)、そして老人男性(石川広満)が横になっている。
外からはサイレンが聞こえており、近くで火災が起きているようだ。
すると路子の携帯に電話が掛かってくる。電話の主は窪居藍子。
以前同じ団地に住んでいて、夫の哲央と路子は幼馴染でもある。
火災現場の近くに住む藍子は、家から避難するので、藍子の所へ
身を寄せさせて欲しいと言うのだった。
快く藍子たち一家を迎える路子だが、たまたま同じ部屋で過ごす
事になった6人は、一緒に過ごす中で様々な思いが絡み合い、
それぞれの、思わぬ心の内を知る事になる。



これは豊橋芸術劇場のプロデュース作品でなければ、わざわざ
豊橋までやって来なかったかなぁ。
中部地区で芝居の制作を行う劇場は、東海3県では豊橋と可児ぐらい
ですので、やはり応援しませんとね。
今まで劇場のアドバイザーだった平田さんが、その役職を辞され
後任となるのが、この作品の作・演出をしている桑原裕子さん
なんだそうですね。
桑原さんは以前「往転」という作品を拝見した事がありました。



勝手に、昔の戯曲の再演でかつ、時間設定も昭和初期ぐらいなのかと
思い込んでおりましたが、新作でかつ現代の話なんですね。
何故「昭和初期の設定」だと思ったのは、そのセットから。
まるで昭和の頃の部屋のような家具・調度品ばかりだったから。

その土地は、土壌汚染がされており、住民がどんどん転出し
寂れてしまった土地。家電量販店が潰れて、その跡地に
ショッピングセンターがオープンしたが、店から出火し、まったく
鎮火する様子が無い。隙間風が吹き込むような団地を出て
新興住宅地にマイホームを建てたのに、延焼の可能性が出てきて
その逃げ出した団地にまた舞い戻ってくる一家。

一家が転がり込んできたのは、40代の薬剤師の部屋。
両親が離婚し、父親と同居し、そして看取って今は一人暮らし。
・・・・のはずだったのに、若い男性は勝手に風呂を使うわ
年老いた男性は勝手にお茶を淹れるわで、3人暮らし?状態。
笑いを誘うようなやり取りがあって(小林勝也さんのセリフが絶妙)
全員の背景が分かってくる。
 ・ケン一と石川は元高校教師と生徒の関係だが、恋愛状態で同棲中。
 ・有季は高校時代にケン一と同じバイト先で、肉体関係まであったが
  有季の事を覚えていないどころか、同性愛者だった。
 ・ケン一が油絵をやっていて、石川の部屋が狭いので、路子の部屋に
  転がり込み中。
 ・路子は父を亡くした寂しさもあり、人が居る温かさに飢えていた。
 ・哲央は路子の事が好きだったし、恐らく今も路子が好き。
 ・それに対して路子は哲央と一線を超える気持ちはなさそう。
 ・夫の路子に対する気持ちは妻も気づいている。
まあ、見事にこんがらがった人間関係だこと(笑)。

でも共通しているのが、「自分の費やしてきた時間」に対する想い。
路子は精一杯父親を介護してきたのに、父が求めているのは離婚した
母親だった事に自分の報われなさを感じている。
藍子は、狭心症の夫が手術を受ける決心をしたのが自分の説得
ではなく、路子から貰った1通のメールだった事がやりきれない。
夫の哲央は、やっとの思いで買ったマイホームが焼けてしまう事が
怖くて堪らない。
有季は好きだったケン一から忘れられ、かつ彼が同性愛者だった事
がショックだし、会社を解雇されて今後の不安だらけ。
ケン一は、老人との同性愛と言う関係を断ち切ろうと思ってきたのに
それが無駄な時間だったと実感をしている。

何だか前に進まないんですよね。
同じところをグルグル回り続けているような感覚。

でも、似ていて異なるのは、「愛」と「執着」について語った
路子だよね。でも・・どうなのかな。愛するからこそ執着する
という考え方も成り立つと思うんだけどな。
路子が「死んじゃえばいい」と思ったら死んでしまった父親。
それは「薬が合わなかった」のが原因らしいけど、路子は薬剤師で
勤務先の大学病院から持ち出したと思われる薬が、棚の中には
大量に保管されている。それって・・・。
この会話が、器の中でグルグル廻っていたものが、遠心力で
ポンとその器から飛び出たような感じでした。
少なくとも、藍子と路子の関係においては。

路子とのやり取りを経て、自宅が焼けたか確認に行く藍子。
哲央は新聞を握りしめて、恐くて現実が直視できないでいるのに。
恐らく、またケン一と寝たのであろう有希は前職に謝罪に出かける。
・・・何だか女性は強いよね、いろんな意味で。

藍子みたいな女は、個人的には本当に苦手で、観ていても、もう
イライラしっぱなし。夫の哲央で「お前は何がしたいんだ、
壊したいのか、やり直したいのか!?」というセリフがまさに
私の気持ちを代弁していたよね。それに対する回答が
「・・・分からない」だもん。もう絶対にこんな女、私ムリ(笑)。
でも、路子と比して考えると、藍子のような人の方が健全なの
かもしれないな、なんて思ったりもします。
恐らく父親を殺してしまい、いつまでも次の世界に踏み出せない
路子よりも、ね。

皆さん良かったのですが、特に小林勝也さんが良かったなぁ。
飄々としているわ、笑いもさらうわ、不思議な存在感があって
「さすが」でした。

すごく観たい!と熱望して観に行った・・という作品ではなかった
のですが、思ったよりもずっと楽しめました。
やっぱり、自分で観てみないと分かりませんね。

カーテンコールでの平田さんのご挨拶。
「皆さまも火の元と、夫婦関係にはご注意ください」ですって(笑)。