このシェイクスピアシリーズが蜷川さんの逝去に伴い、一旦
止まった上演がようやく再開される事になりました。

アテネのタイモン彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾
「アテネのタイモン」彩の国さいたま芸術劇場J列
13:30開演、15:15終演
原作:W. シェイクスピア   演出:吉田鋼太郎
出演:吉田鋼太郎、藤原竜也、柿澤勇人、大石継太、間宮啓行、谷田歩、河内大和 ほか
【あらすじ】
アテネの貴族タイモン(吉田鋼太郎)は執事フレヴィアス(横田栄司)の助言、哲学者アペマンタス(藤原竜也)の皮肉を無視し、誰にも気前よく金品を与え、ついに破産。友人たちが自分の金目当てだったことが分かり、すっかり人間不信に陥る。森に引きこもるタイモンは、復讐のためにアテネを滅ぼそうと蜂起した武将アルシバイアディーズ(柿澤勇人)に掘り当てた金を与えるが……。


このシリーズで蜷川さんの後を継ぐのは吉田鋼太郎さん。
長く蜷川さんの演出補をなさっていた井上さんもいらっしゃる
と思いますし、キャストも蜷川さんの舞台に出演された事の
ある方が中心です。
ですから、演出が鋼太郎さんに替わったと言っても、いきなり
雰囲気がごっそり変わってしまう事はないだろうと思って、
埼玉に向かいました。
「尺には尺を」は梅田で観たので、埼玉に行くのは2015年の
「ヴェローナの二紳士」以来、2年ぶりと言う事になります。
なつかしいなぁ。さい芸までの道を歩いていると、本当に
蜷川さんがお亡くなりになったとは思えなくなってきます。

後で気づいたのですが、衣装のクレジットは小峰リリーさんでした。
いつ手がけられたんだろう・・・!




シェイクスピアの全戯曲を上演する、と言う事でスタートした
企画ではありましたが、後から色々な書籍やインタビューを読むと、
どうやら蜷川さんが「やりたい」と思った作品から手がけていって
「面白くない(蜷川さん曰く)」作品が残ってしまったよう
なのですよね、何だか蜷川さんらしいんですけど(笑)。

「アテネのタイモン」は今回初見ですし、他に上演されているのを
見かけたことは・・私は無いです。
実際に非常に上演機会の少ない作品らしいですし。
上演機会が少ないという事は、よっぽど難しいとか、戯曲に問題
があるとか、何かしら上演やら集客に支障があるのだろう
と推測されますよね。
ただ、同じように上演機会が少ないと言われる「シンベリン」や
「間違いの喜劇」はこのシリーズで観てもとても面白かったので
どんなもんだろう〜♪と思って開演を待ちました。

開演前には役者さん達がブラブラと舞台上に現れて、発声練習を
したり、ストレッチをしたり、衣装を身に着けたり。
ああ、蜷川シェイクスピアでよく見られたオープニングですね。
なつかしいなぁ。
で、随分経ってから吉田鋼太郎さんが舞台上に現れると、客席が
ザワっとし、後ろの席に座っていた男性が「お、吉田鋼太郎だ」
と口にしました。ああ、鋼太郎さんは本当に有名な俳優さんに
なったんだなあ・・と実感します。
当の鋼太郎さんはそんな雰囲気をむしろ楽しんでいるようでもあり
最前列のお客様と雑談をしてみたり、「ありがとうございます」と
お礼を言ったり、「メリークリスマス♪」とご挨拶をしたり。
そして、蜷川さんではなく鋼太郎さんの掛け声で、キャストが
勢揃いして、お辞儀をして開演です。

しかし・・・これは・・・なかなか上演されないのも分かる(爆)

演出の鋼太郎さんが悪い訳ではないんだと思います。
脚本が尻切れトンボな印象が拭えない。
主人公が死んでしまうので「悲劇」カテゴリなんだと思いますが
結局、何が言いたかったんだろう?と言う事がスッキリしない。

世間知らずでお人よしなアテネのタイモン。
その善意にたかって、寄生するだけのアテネの貴族たち。
全てを失い、世の中を呪い、洞窟で暮らしている間に大量の
金貨を得る事になっても、それで立ち直る事も、モンテ・クリスト伯
のように復讐をするでもなく、ただ死んでいく。
アルシバイアディーズ(柿澤勇人)に金を渡す事でアテネへの
復讐をしているとも考えられるけど、結局はアルシバイアディーズ
の事も信じられなくなっているので、ちょっと違うと思うんだな。
哲学者アペマンタス(藤原竜也)のような生き方も出来ないし。

そうそう、鋼太郎さんと竜也君の唾の掛け合いは、「ムサシ」を
初めて観たときをちょっと思い出したりもしました(笑)。

タイモンの人柄に惹かれて誠意を尽くす執事(横田栄司)の想いは
何とか伝わるけど、殻に閉じこもったタイモンの心は開かない。
何だか刹那的な人生だったな、と言う感想しかなくて(笑)。
もっとアルアシバイアディーズとリンクして観られたら、
違った感想を持てたかもしれないんですが、どうも私にはあまり
2人がリンクして観られなかったのですよね・・・。

鋼太郎さんを舞台で拝見するのは久しぶりじゃないでしょうか。
昔はもっと頻繁に拝見出来ていたように思いますが。
やはりこの方は、朗々とした台詞を舞台で吐く姿が似合います。
ただちょっと喉の調子が宜しくなさそうでしたね。
横田さんも藤原竜也さんも大石さんも安定の演技。
全体に出番が少なかったのが少々残念だったかな。
柿澤勇人さんを舞台で拝見するのはミュージカル以外では初めて。
ていうか、ミュージカルでも1作ぐらいしか拝見していませんが(笑)。
なかなか凛々しい役を演じていらっしゃって、違う一面が
見られた気がします。

オープニングは蜷川演出の雰囲気を遺しつつも、やっぱり
違う人の演出だな・・と言う事を感じて、新鮮だったり寂しかったり。
何が違うって、なかなか言語化出来ないんですけど、やっぱり違う。
この演出の方が素直というか、ストレートな感じはしますけどね。
今回はそれほど前方席ではなかったものの、センターブロックの
下手側の通路脇の席だったものですから、俳優さん達が何度も
ビュンビュン横を通り過ぎていかれて、なかなか美味しい席
だったと思います。

また「赤い紙」だと請求書を表すって、何で分かるんでしょうね(笑)。
「赤字」からくるんでしょうか。
だとしたら、日本人独特の演出方法なのかな?なんて思ったり。
赤い紙が降り注ぎ、それが徐々に灰を表す黒い紙に替わっていく
演出は「なるほど」と思いました。

次は「ヘンリー五世」。
先に上演される新国立と同様(何でさい芸と新国立は同じ時期に
同じ演目を上演するんですかね、「ヘンリー六世」もですが)
ハル王子を演じた俳優さん(浦井健治/松坂桃李)がヘンリー
五世を演じるようですね。
「ヘンリー五世」の方がお話がしっかりしているので、また
それはそれで楽しみかな。
シリーズ観る私も再始動。一緒に最後まで完走したいと思います!