16時30分に職場を飛び出して、向かったのは豊橋です。

百年の秘密ナイロン100℃ 45thSESSION
「百年の秘密」穂のくに豊橋芸術劇場PLAT D列
18:00開演、21:30終演
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、峯村リエ、
みのすけ、大倉孝二、松永玲子、村岡希美、長田奈麻、廣川三憲、安澤千草、藤田秀世、猪俣三四郎、菊池明明、小園茉奈、木乃江祐希、伊与勢我無、萩原聖人、泉澤祐希、伊藤梨沙子、山西惇
【あらすじ】
かつてある少年が狼に狙われ、追いつめられた時、大きく張り出した枝が、
少年を救い上げ、気がつくと少年は楡の木のてっぺんに立っていて助かった。
その話を聞いた父親は、その楡の木を取り囲むように、家を建て、ベイカー
一家はその楡の木に見守られ繁栄していった。
銀行家となった、楡の木に救われた少年の息子ウィリアムは、パオラと結婚。
長男エース、そして長女ティルダの二人の子どもに恵まれた。
ティルダが12歳の冬。転校生のコナがやってきた。長い長い物語の始まりだったー。




 これ・・何で初演を観なかったんだろう?と自分でも思い出せない
のですが、今回初見です。

上演時間が長いのを知っていたので、開演時間が早くなるのは
帰りの足を考えるとやむを得ない事だと思いますが(もし19時開演
なんかになると、帰宅するのは日付が変わる頃になってしまう)
フレックスタイムが使える私はまだ本当に恵まれていますが
やはり18時開演となると、豊橋市内の人でも会社勤めの人は厳しいはず。
ましてや名古屋から行くとなると、17時前には名古屋駅を出る電車に
乗っていなければ開演時間に間に合わない。
Twitterで「まだ席がある」と盛んにツイートされていましたし
「あんなに面白い舞台に空席があるなんて信じられない」のような
書き方をするツイートも見かけましたけど、(実際に2階は空席多数)
行きたくても行けない人が多いと思うんですよね。
東京は18時半や19時開演だったし、他の地方公演は土日を含んでいる
ので、豊橋が満席にならないのは仕方ない側面もあると思います。
(ていうか、こんな事は予め想定できる状況だと思いますが)
まあ、主催側には主催側の事情もあるでしょうし、豊橋公演が
あるだけでもありがたいのだから、贅沢言うなって事でしょうけど。
(チケット代が5000円と安いのはありがたかった。)






ケラさんの舞台は、私の好みとは言い難いナンセンスコメディと、
物語性の強いものの2タイプがあると思っていて、後者は殆どが私好み。
なので観る前から「きっと面白いだろうな」と思っていましたが
長い上演時間が全く気にならない、観る者の集中力を途切れさせない
舞台だったな、と思います。

予備知識も全くない状態での観劇でしたが、召使のメアリー(長田奈麻)
がストーリーテラーとして大活躍。
私はナイロンの劇団員をもれなく存じ上げている訳ではないので、この方を
友近さんだと思い込んでおりました。いい声だなぁと呑気に思って
いましたけど。でも・・・似ていませんか(笑)?
このメアリーが背景を説明してくれたり、時の流れを語ってくれたりする
ので、観る側も混乱せずに話に没入できた気がします。

この話は、100年超に渡る(キッチリ100年ではなかったはず)、楡の木
のあるベイカー家を中心とした何世代にもわたるお話ですが、必ずしも
芝居が時系列通りに進んでいる訳ではなくて、時間が前後する事もありますし
同じ役者が別の役を演じる事もあるので、一歩間違えれば「?」にも
なりかねないと思うのですがそうならなかったのは、脚本?いや、
・・・演出によるものでしょうか。

オープニングのプロジェクションマッピングの冴えっぷりは、もう
安定のクオリティですね。KERAさんの舞台のオープニングは、どちらか
というと「線(しかも直線)」を多用した、比較的単色のスタイリッシュで
クールな映像・・という印象が強いんですけど、今回はティルダやコナが
色々な所から出てきたりして、ループしている感の強い映像でした。

同級生のリーザロッテ(村岡希美)はコナを毛嫌いするが、12歳の
ティルダ(犬山イヌコ)は転校生のコナ(峯村リエ)と気が合い、
リーザロッテと仲たがいしても、コナと一緒に居る事を選んでいる。
どういう所に惹かれあっているのか・・と言うことについては、特に
言及されていないので、推測するしかないのだけど、恐らくお互いに
居心地がいい、気を遣わなくてもいい相手だったんだろうな、なんて
思ったりもする。
二人が大人になってからもその関係性は続き、コナの夫である
カレル(萩原聖人)から「嫉妬するぐらいだ」と言われるほど近い存在。

ティルダは小説家を諦め、保険の外交員として働きはじめ、
家に出入りしていたお向かいの弁護士のフォンス(山西惇)と結婚している。
ティルダが子どもの頃に2人が他愛もない会話をしているシーンを
見ていたので「えっ、この二人が?」と思う。
コナはティルダの兄のカレルと結婚していた。これもティルダが
憧れていた相手だったはずなので「えっ、この二人が?」と再び思う。
大人になるって、色々あるんだなぁ・・と、既に十分大人な私が
そんな事を想ったりするのですが、この舞台の面白いところは、
いろいろな時のシーンがパッチワーク的に上演されていくので、その
隙間については、観る側が思いを巡らしたり、考えたり、驚いたりする
所なのかもしれないな、なんて思ったりね。

ベイカー家の経済状態だったり、コナやティルダの夫婦仲だったり
時を経て変わっていくもの有り、コナとティルダの友情や、2人が
幼い頃に共有した「秘密」や、カレルの恋心など変わらないものあり
それ故に起きるひずみや事件。

カレルに恋心をもっていたティルダが、アンナ先生宛のラブレターを
手渡すように頼まれてショックを受け、そのショックを察したコナと
「渡さない」と決めて、楡の木に埋めてしまうのですが、その「秘密」
の重大さ(結局コナはカレルと結婚しており、カレルは本心では
アンナ先生を忘れていないと気づいているから)が、この二人の
仲間意識を強くしているようにも思います。
ただ、二人の関係は微妙に変わってきているんじゃないかな・・と。
コナは、寂しさのあまりティルダのダンナさんと関係を持ってしまい
(この流れはねー、ちょっと「どうなの?」とは思う)
ティルダに後ろめたさもあるだろうし、夫とは上手くいっておらず
自分にはもうティルダしかいない・・という気持ちも、少なからず
あったのではないか、と。
ティルダを追って死んでいくコナを見て、そんな事も思ったりしました。

ティルダとコナの事ばかり書いてきましたけど、他の登場人物にも
それぞれのストーリーがあります。

最初の恋を実らせたカレルもですし、最後には自殺をしてしまう
ティルダの兄のエース(大倉孝二)も。
彼は出てくる(時間を経る)たびにグレていくのですが、一度時間が
戻った時はねぇ、切なかったですよ。
ティルダの事など気にしていない父親を諌め、妹を気遣う優しさもあり
でも父親からは自分自身の事を分かってもらえていない、という
寂しさや父親の不貞行為が、彼をこんな風に変えてしまったんだ・・
こんなに幸せそうなのに、この後は不幸が続いて、最後には一人で
命を絶ってしまうんだ・・と言う事が分かって観るシーンですから。

最初に映像が「ループしているみたい」と書きましたが、お話も
またグルンと一周して、振り出しに戻ったような感じでもあり、
長い夢を見ていたような気すらする舞台でした。
同じ場所なのに、家の外と、家の中の区別がキッチリ分かるのも
凄い演出だし、あの木の存在感は、ビジュアルと共にとても
印象に残っています。
他にも細かいエピソードもいっぱいあって、なかなか書ききれないのが
自分でももどかしいのですが。

でも役者さんは皆さんハマリ役でストレスフリー。
大したメイクの違いも無く、年齢を演じ分けていくイヌコさんと
峯村さんはさすが、としか言いようがありません。
重ね重ね、何故前回の上演を見なかったのだろう・・と肩を落とす
思いですが、再演してくれてありがとう、と言わせて頂きます。

それにしても・・・楡という木は“良縁”のシンボルなんだとか。
「良縁」かぁ・・・。何だかどのカップルも(不倫も含めて)とても
良縁とは言い難い(ティルダの両親は良かったかも・・だけど)
カップルばかりがこの木の周りに集った、というが、何とも皮肉。