今月は観劇予定が多いのですが、特筆すべきは平日の観劇数の多さ。
今日も仕事をちょっとだけフレックスで早上がりして、そそくさと
豊橋へ向かいました。

消えていくなら朝「消えていくなら朝」穂の国とよはし芸術劇場PLAT B列
19:00開演、20:55終演(終演後アフタートーク有)
作:蓬莱竜太  演出:宮田慶子
出演:鈴木浩介、山中崇、高野志穂、実紗、梅沢昌代、高橋長英

【あらすじ】
家族と疎遠の作家である定男は、久しぶりに帰省する。家族全員で集まるのは18年ぶりだ。作家として成功をおさめている定男であったが、誰もその話に触れようとしない。家族は定男の仕事に良い印象を持っていないのだ。定男は切り出す。「......今度の新作は、この家族をありのままに描いてみようと思うんだ」。家族とは、仕事とは、表現とは、人生とは、愛とは、幸福とは、親とは、子とは、様々な議論の火ぶたが切って落とされた。 本音をぶつけあった先、その家族に何が起こるのか。何が残るのか。



モダンスイマーズの舞台はまだ観たことが無いのですが、蓬莱さんの
作品はざっと数えたところ10本以上観ていました。
決して嫌いではないのですが、すごく心に残るっていう感じでも
ないので、今回も観るか、観まいか悩んだんでした。
平日と言う事もあってか、主ホールはちょっと後方には空席も
目立っちゃってましたね。




ダイニングルームと思しきところに居る父親(高橋長英)。
そこへ帰ってきた息子の定男(鈴木浩介)。どうやらとても久しぶり
らしいのですが(背景に文字が映し出されていましたが、セットの梁が
丸被りになってしまって見えませんでした)不思議に思う程、ギクシャク
した感じで会話をする中で、父親は母親と離婚を考えているらしい
と言う事までが最初の場面で分かります。

そこで場面が変わって、定男とその兄、妹、父、母。そして
定夫が連れてきた恋人が先ほどのダイニングに集まっています。
幕開きの時よりはマシですが、どうも距離感がある定男。
どうやら帰ってきたのは18年ぶりらしいですから、仕方ないのかも。

他愛もない会話をしているはずだったのに、定男が次の脚本で
この家族の事を書きたい、と言い出したところから、それぞれの背景が
次々に剥き出しにされていきます。
劇作家をしていて、そこそこ成功している定男に対して、「そんなの
仕事じゃない。好きな事をやってるだけなんだ」「そんなの苦労じゃない」
と弟の仕事に理解を示さない兄。

新興宗教にハマった母が子どもを集会に連れまわし、そのまま入信。
信者同志で結婚をしたが、浮気により破門されて離婚された兄に
「おだてられていい気になって、自分で考えて行動しなかったからだ」
となじる定男。

母親が長男を入信させ、次男はそれを嫌がってすぐに家を出てしまった。
寂しく思っている父親を案じて、男兄弟の代わりを演じてきたのは自分だ。
男の子以上に男らしく、息子であろうとしてこの歳になって、今さら
女性としての幸せを求める事なんて出来なくなってしまった
と両親を責め、悲嘆する妹。

新興宗教にハマり、家庭がバラバラになっただけでなく、自分の後輩と
不倫をしている妻が許せない。宗教上では離婚を認めていないとしても
何としても離婚をしたいと主張する父親。

自分を誰も必要としてこなかった。愛して欲しかっただけ。
夫は仕事ばかりで家族の事など一度も顧みなかったじゃないか。
宗教で自分は自分の居所を見つけたんだ、と言い返す母親。

それぞれに言いたい事は分かるし、それぞれに意見がある事も分かる。
でもねぇ、むき出しの刃のような言葉の応酬で、眠くはならないけど
眉間に皺が寄ってしまいそうな気がしました。

何かと言うと最後に「はははっ」と乾いた、ちょっとバカにしたような
笑いをするんですよね、定男って。(アフタートークによれば、この笑いは
脚本にも書かれているのだそうです)
(つい先日「密やかな結晶」で誠実な役を演じる鈴木浩介さんを拝見
したばかりだったので、結構ギャップがあったんですけど。)
正論を言っているようにみえて、この定男も家族と向き合ってくるのを
避けてきているんですよね。それはつまり、自分が傷つきたくない
という思いの裏返しなんだと思いますが。
その反動なのか、かなりキツい、身も蓋もないセリフを吐き続ける定男。
何だか「いつか言ってやる」と思っていたかのような言葉たち。
想いっきり感情をぶつけて、長年自分のわだかまりになっている事を
吐きだしてみれば、今となっては当事者たちはそんな事を覚えてもいない。

もう、この家族のこんがらがり具合の見事な事(笑)!

ここまで来たらどう収めるんだろう・・と思ったところで、
今まであまり出番のなかった、定男の彼女が「みんな普通なの!」と
割って入ります。自分の家こそ「特殊」で「気の毒」な家庭だと
思っていた定男に対して、自分自身がフィリピン人とのハーフで
幼少のころから今まで苦労してきたことを告白し、「普通」にも
色々あるんだ、と訴えます。


普通こんな大げんかをしたら、二度とまともに話もできないんじゃないか?
と思えるけど、兄は「明日はおやじに謝れよ」と言って自分の部屋に
戻っていきます。ああ、家族って、こういう感じだな・・と。
キツイ事を言っちゃったり、けんかをしても、気づいたら何もない
ように会話をしちゃっていて、けんかも何だかうやむやで終わってる。
それに対して、恋人は「朝いちばんに帰ります」と、別れの予感。

何かが解決した訳じゃない。
でもこの両親は離婚をしないのではないか。
母も新興宗教から足を洗う事もないんだろうな。
そして、定男はもう少しだけマメに実家に戻って来るのではないか。
何となく、そんな予感がするエンディングでした。

でもこの定男というキャラクターの職業が劇作家と言う事なので
作者の蓬莱竜太さん自身とダブる部分もあるんじゃないかな、等と
勝手に思って観てました。
蓬莱さんも明るい作風じゃないし、まあまあ「斜め」と思うし。
アフタートークでも、実生活が反映されてしまう事はあり得る、
というお話もありましたし、演劇に対しては似たような会話は
実際にあったんでしょうね。

この作品、蓬莱さんの脚本の中では、かなり好きな方に入ります。
もともと、こじらせ系の登場人物が出てくるのが蓬莱さんの作品の
特徴だと思いますが、今回は納得感が高かったな、という印象でした。
今回観て「イマイチ」と思ったら、暫く距離を置こうかな・・と
思っていたのですが、まだしばらくは蓬莱さんの作品、何なら
モダンスイマーズの作品も観たいな、と思いました。

アフタートークは新国立の芸術監督をお辞めになる宮田慶子さんと
豊橋芸術劇場のアドバイザーに就任した桑原裕子さんのお二人でした。
短い時間ではありましたが、新国立で上演する演目の選定方法のお話
なども伺えて、面白かったです。
まあ、帰りがね、23時30分過ぎになっちゃいましたので、なかなか
平日の豊橋観劇は辛いものがあるんですけど(笑)。