歌舞伎座での公演を全部観ずに池袋に向かったのはこちらが目的。
というか今回の遠征の目的でもあった公演です。

その頬、熱線に焼かれOn7リバイバル公演「その頬、熱線に焼かれ」
東京芸術劇場シアターウェスト C列
14:00開演、15:55終演
脚本:古川健   演出:日澤雄介
出演:小暮智美・尾身美詞・安藤瞳(青年座)、渋谷はるか(文学座)、保亜美(俳優座)、吉田久美(演劇集団円)以上、On7、ゲスト出演 下池沙知(文学座)

【あらすじ】
1945年8月6日広島、9日長崎。米軍により投下された原子爆弾は一瞬にして街を廃墟に変え、数十万人の非戦闘員である市民の命を奪い去った。かろうじて死を免れた人々も「被爆者」としての過酷な人生を送ることを運命づけられた。灼熱の熱線は分け隔てなく人々の皮膚を焼いた。この熱線で柔肌を焼かれ、消すことのできないケロイドをその顔や体に負ったのが「原爆乙女」と呼ばれる女性達だ。ケロイドは彼女たちから女性としてのアイデンティティを奪い、微笑みを奪い、当たり前の人との触れ合いを奪った。1955年5月、25人の原爆乙女がケロイド治療の為に渡米する。彼女たちは勇気を振り絞って原爆を投下したアメリカの地に立つ。原爆に奪われた自分の人生を取り戻すために。



劇チョコの古川・日澤コンビの作品ですもん、楽しみで。
On7というユニットも存じませんでしたが、「斜光」やら
「その記憶の記録」「マニラ瑞穂記」などで拝見している
女優さんも含まれていますし、全くそこには不安は無く・・。
舞台上にはテーブルと椅子があり、手前の部分には瓦礫のような
ものが置かれた状態になっています。

感想、つらつらと書いていたら、めっちゃ長くなりました(笑)。



フラッシュが焚かれる中に立つ、まるで貞子のようにロングヘアを
前にダランと垂らして、顔を隠したまま話す女性。
これからアメリカ本土へ治療渡米をする前の記者会見のようです。
どうやら記者に要求されたようで、少し逡巡した結果、顔をあげて髪を
あげて、首筋のケロイドを見せるところで場面が変わります。

そこに出てくるのは、すらっとした浴衣姿の女性です。
この人自分の身の上を語り始めるのですが、顔や首にはケロイドは無く、
一体どういう人だろう?と思っていたのですが、そんな時に気づきます
彼女の両腕には酷いケロイドが有るので、患者の一人なのか、と。
そんな時に他の女性達も集まってきます。その日手術をした人が
全身麻酔から醒める事なく、亡くなったーと。
でもこの女性だけは、悲しむ風でもなく、笑みをたたえていて軽やかで
すぐに袖にハケてしまうし、ますます「?」と思っていたのですが、
この女性・智子(安藤瞳)こそが、その麻酔事故で亡くなった女性
そのものだ、と言う事に気づきます。
思い返せば、誰もこの女性と会話していません。

この舞台は、治療渡米した25名のうち、麻酔事故で亡くなった智子と
あと6名の患者たちの、病院での会話劇だったんです。
彼女達は、亡くなった智子の事を語りながら、自分自身の想いを
次々と吐露したり、ぶつけあったりしていきます。

「簡単な手術だから」と言っていた仲間が突然帰らぬ人となった事で
自分も手術を受けるのが怖くなる人。
原爆症の恐れもあるけど、日本で待つ婚約者と結婚、出産を願う人、
献身的に看病してくれた親に恩返しをしたいと思う人、
日本ではケロイド姿を奇異の目で見られ続けるであろう、と悲嘆する人
もし原爆が落ちなければ、自分たちにはどんな未来があったんだろう
と思いを馳せる人。
亡くなった智子も回想シーンを中心に所々でストーリーに参加しますが
他のメンバーが生前の思い出を語る中から、智子の人となりや、
葛藤なども浮き彫りになっていきます。

もともと教会に通っていた人たちが多かったという事や、治療の為
とはいえ原爆を投下国であるアメリカに渡る事を選んだ人達ですので、
原爆投下に対する怒り、というものはあまり表現されていません。
むしろ「自分たちは(渡米チームに選ばれて)恵まれている」
「選ばれなかった人に申し訳ない」「私の方が(ケロイドが)軽くて
申し訳ない」、「尽力してくれる人達に迷惑はかけられない」と、
謙虚というか、健気な“いい子”達ばかり。
政治的なメッセージではなく、どこにでもいるであろう女の子たちの
想いが詰まっているセリフがいっぱいです。
「こんな顔では結婚もできないのでは」「子供なんか生めない」
「こんな顔が死に顔になるのは嫌」「夜にしか散歩に外に出られない」。
そんなありふれた想いだからこそ、親近感を感じるし、同じ境遇で
あっても、7人居れば7通りの苦しみも、考え方もあるんだな、という
当たり前のことに気づかされた気がします。

どのエピソードも気を許せば泣けてきてしまいそうになりますが
特にグサっと来たのが、ケロイドの為に瞬きもできなくなっていた
弘子の話。ツンケンしていて、誰とも親しくなろうとしない。
でも、そんな態度にも悲しい理由があったんですよね。
同じくケロイドで苦しんでいた親友が居て、彼女と一緒に渡米に
応募すると思っていたのに、親友は応募せず・・。
裏切られたと思って疎遠になってしまっていたのに、応募しなかった
のは原爆症を発症していたからで、そんな事も知らずに自分の事ばかり
考えていたら、親友は渡米中に亡くなってしまっていた−。
そんな彼女の為にも、自分は何が何でもケロイドを治して帰国したい。

亡くなった智子が客席に向かって語ります。
(これがすごくいいセリフで、ここで涙腺崩壊状態)
非核とかはよく分からない。自分が分かるのは原子爆弾の威力だけ。
私たちは家族、健康な体・・・多くのものを失った。
世界は美しいと思う。でも、私は人間だけは美しいとは思えない。
失ったものの分だけ、明日の人間がかしこくなる事を願います。
広島の悲しみが、明日の人間の歩みを照らす事を願います。
そうすれば人間だって美しくなれる、と思う−。
全部を正確には思い出せませんが、恐らく、この芝居の中で
一番メッセージ性が高いけど、素敵なセリフだったんです。

一旦帰国してもアメリカに戻って看護婦になりたいという昭代。
生きている間に出来る事は何でもやりたいという美代子。
手術を迷っていた敏子は出来る限りの治療を受けて帰国すると決心。
多くのものを失いながらも「原爆乙女」ではなく「一人の人」としての
人生を送ろうとし、「それでも生きていたい」と再確認する6人。
そして、最後にして初めて声をあげて泣き崩れる、亡き智子ー。
智子も今までは冷静だったけど、自分だって生きたかったでしょう。
最後は帰国会見で、髪をキッチリ束ねて、笑顔で答える節子の
表情から、希望が見いだせるエンディングでした。


社会的なメッセージ性の高いテーマですが、それを声高に訴える
のではなく、個人に特化したお話から、浮き彫りになる大きなテーマ。
ああ、古川さんの脚本、いいなぁ・・本当に。
「フィクションです」と劇場で渡されたパンフには書かれていましたが
実際に治療渡米では25名の女性(回復が見込める程度の人が
選抜された)が渡米し、中林智子さんと言う方が治療中に死亡。
1名がアメリカに残り23名が帰国、1名は再度渡米しているんだそうです。
パンフにはその広島ガールズの1名だった方のインタビューも
載っていました。

役者さんも皆さん良かったですが、安藤瞳さんが松本紀保さんと
小雪さんを足して二で割ったような美人さんだなぁ・・というのが
とても印象に残っております(笑)。声もとてもステキ。

私はもともと涙腺が丈夫らしく(笑)、舞台を観て泣く事の方が稀です。
「泣きそうになる」事はあっても、ボロボロ泣くなんてことは、
2年に1度あるかないか・・ですね。
けど今回は、もう途中からボロボロ泣けて仕方ありませんでした。
「バカじゃないの?」と思いながら、無理やり遠征を追加してでも
観て本当に良かった、と思った1本です。
こういう出会いがあるからねぇ、「観たい」と言う衝動には抗えない
んですよね(←ただの言い訳ですけど)。
この作品は、多くの人に観てもらいたいな、と思える1本でした。