これが今年の観劇はじめ。1か月ぐらいぶりの観劇です。
こんだけ間が空くのは、何年ぶりでしょうね?ぐらいです。

スリル・ミー「スリル・ミー」芸術創造センター 1列
19:05開演、20:55頃終演

脚本・音楽・歌詞:STEPHEN DOLGINOFF
翻訳・訳詞:松田直行  演出:栗山民也
私役: 成河  ×  彼役: 福士誠治
【あらすじ】
監獄の仮釈放審議委員会。収監者“私”の五回目の仮釈審議が進行中である。34年前、“私”と“彼”が犯した犯罪。物語は、34年前に静かに遡っていく―。19歳の“私”と“彼”。ある契約書を交わした2人。彼らに一体何が起きたのか。“私”と“彼”衝撃の真実が明かされていくー。



初演の頃も「へぇえ」とは思いましたが、名古屋公演もないので
結局はそのままスルー。
今回も正直見送ろうかと思ったのですが、友人が「観たい」と言うので
「ならば」とチケットを取っていたのでした。
何度も再演を繰り返している舞台ですから、一度観ておいてもいいかな
とも思いましたし。この舞台は大千秋楽だったようですね。

仕事が落ち着いた時期なので、仕事を終えて、のんびりと
芸創センターに向かいました。
開演時間になってもなかなか始まらず、客席は咳をするのも憚られるほど
シーンと静まり返っています。すると下手袖の中の方からワーというかキャー
というか歓声のようなものが聞こえてきましたね。
気合入れか何かですかねぇ・・・。小さな劇場なので聞こえちゃってますよ。
 




今回は最前列の下手側、通路の所だったのですが開演予定時間を
5分以上過ぎた頃、静か〜に歩いてくる男性が目の前を通り過ぎ
舞台に上がっていきました。あ、成河さんだ。始まった(笑)!
実際の事件(レオポルドとローブ事件)がモチーフになっている事
二人芝居で、二人が同性愛者である事、という事だけは知っていましたが、
レオポルドとローブ事件がどういうものなのか、までは全く
知らない状態での観劇でございました。

スポットライトが当たった「私」(成河)にスポットが当たり
質問に対してポツポツと答えていきます。これは仮釈放の審議委員会で
尋問をされている所らしい。この人は未成年の頃に「犯罪史上稀にみる
犯罪」を犯して30年以上服役し、5度目の仮釈放の審議中。
この審議では「本当の動機」を明らかにしようとしているところ。

・・・で突然、成河さんが歌いだして少しビックリした(笑)。
そうだ、これは音楽劇だった。「語り」と地続きになっている感じ
というか、「語り」の部分との違和感を極力排除しようとしていると
思われる歌い方です。やっぱ歌が上手いですね、成河さん。

この語りの部分と、当時の回想シーンが交錯した舞台構成なのですが
瞬時に声の出し方だけでなく、表情が変わる所もすごいです。
仮釈放中の「私」は感情がない・・って言う感じなんですよね
表情にも声にも。そしてその場面の切り替わりを観客に理解させる
助けになっているのが、照明だったと思います。

この「私」が犯罪に手を染めた動機は「彼」だった事が分かってきます。
「私」は「彼」が大好きで、「彼」に嫌われたくない、振り向いてほしい
一心で一緒になって倉庫を燃やしたり、ものを盗んだり。
「彼」はそんな「私」を知り尽くした上で、自分の言う事には従う
だろう、という確信をもって巻き込んでいくんですよね。
「彼」は「私」に全てをさらけ出せる存在ではあったのだけど、それは
自分が絶対的優位に立てる安心感だからであって、果たしてそれが
恋愛感情だったのか?とは思いますけどねぇ。
それまで突き放していた「私」が司法取引に応じると知って、
言い寄ってくる姿を見ると、そこに恋愛感情があるとは思えなくて。

「彼」は彼で、親からの愛情が感じられないとか、弟に対する嫉妬とか
あって、鬱屈していて、それがスリルを求めて、そのスリルで嫌な事を
思い出さないように、自分自身の「万能感」に浸っていられるように・・
という事しか考えていない感じ。
「お前がいなきゃダメなんだ」なんて言ってるけど、全て計算ずく
という印象しか受けないもんな。
福士誠治さんは、本当に観る舞台、観る舞台で受けるの印象が全く違う。
福士さん自身のキャラがよく分からないという、役者としては本当に
凄いな、と思う方ですね。無垢なな役も、暴力的な役も、面白いというか
お調子者の役も、皆できちゃうから。
今回も、めっちゃドSで(根拠のない)自信満々なんだけど、愚かで小心者・・
という役もハマってたんですよねぇ。

まあ、あの殺人計画は私から見ても穴だらけだから、そりゃすぐに
捕まるわな。それを「絶対に捕まらない」と言い切る「彼」の浅はかさ。
・・・と思っていた時の「私」のトラップ。
ほほう・・・。
逮捕された後、司法取引を思いとどまらせようと「彼」が「私」に
キスをした時、板を掴んでいた「私」の手に力がグッっと入ったのが
とても印象的で。ここに「彼」への恋愛感情を見た思いがしたのだけど
あの時に手に力が入ったのは、また全く違う感情もあったのか・・・
というのが面白かったなぁ。

「私」は一方的に捕食されていた、っていう訳じゃないんだね。
一定の犠牲を払ってでも、自分の好きなものを自分の手元に置いておく・・
という目的を達成した分「私」の逆転勝利なのかもしれない。
と思ったら、「彼」は獄中で殺され、「私」は残されてしまったという・・。
この人は仮釈放になったら、自殺してしまうのではないか。
そう思ったラストでした。
(実際のモデルとなった事件では、海外に渡り結婚したらしいが)

再演を繰り返すだけあって、かなりスリリング。
何よりも役者のお二人の熱演に引き込まれました。そりゃ人気公演に
なりますよね・・とは思うものの、この人気ぶりはちょっと私には
意外な気もします。
時間が行ったり来たりするとか、セットや衣装を変えずに演じ分けるとか、
そもそも、この内容自体とか、それ程衝撃的ではないけどなー、
というのが正直な感想です。(いや、衝撃的ではあるけども。)
ストプレではこういうの、珍しくないというか、もっとエグい内容の
作品とか、ゴロゴロしてるし、こういう演出も珍しくないし。
(演出の栗山さんのストプレの舞台も良く拝見していますしね)

でも、思い返すとミュージカル(含・音楽劇)では、こういう作品って、
あまり無いかもしれないので、音楽劇としては確かに新鮮かも。
というか、音楽劇でやったので、ここまで人気公演になったのかも
しれないな、等と思ったりもしたのでした。
なかなか良き観劇初めだったと思います。

名古屋で公演してくれてありがとう♪