朝から映画を観て、急いで向かったのが下北沢です。
シアター711って初めてだなぁ、と思ったらスズナリの下なんだ。

夜が掴む「夜が掴む」シアター711 3列目
14:00開演、15:40終演
脚本:大竹野正典   演出:詩森ろば
出演:山田百次(劇団野の上/ホエイ)、有薗芳記、町田マリー、柿丸美智恵、杉木隆幸、異儀田夏葉(KAKUTA)、西澤香夏、塩野谷正幸(流山児★事務所)
【あらすじ】
コスギは極度に音に対して神経質になっていた。そのせいで今は失職し、この団地でひっそりと暮らしている。そんな折、階下のヤマモトが娘にピアノを買い与え、そのピアノの音がコスギを昼夜苦しめる。床をドンと叩いて講義するコスギ。ヤマモトは娘に更にピアノを弾くように命じる。やがて団地の住人とコスギは対立するようになり、コスギのピアノへの執着もエスカレートしていくのだった・・。



大竹野正典さんの作品に興味もありましたし、オフィスコットーネは
今興味を持っている所なので。
あと、詩森ろばさんの演出にも興味があったのですよね。

これは実際にあったピアノ騒音が原因の殺人事件がモチーフに
なっているんだそうです。
そういえば年明けから「スリル・ミー」「拝啓、衆議院議長様」と
ともに立て続けに実際に起きた殺人事件の作品を観てるなー・・。




 
実際に起きたピアノ騒音殺人事件についてはwikiで確認をしましたが
大枠の部分で舞台の内容も事実に沿っていたようです。
でも「夜、ナク、鳥」のようなストーリー性の高いものではなく
どちらかというと、不条理劇っぽい内容なのかな、と思います。
今回はシアター711と言う小劇場ですから、舞台も小さくて、
その中でどう、団地というものを表現するんだろうか・・と思ったら
セットは何ともキッチュというか、カラフルというか。
(舞台の写真はこちらから)
壁にはいろいろな方向に傾いた団地のドアが4つ、ついていて
(実際に人が出入りできる)、真ん中にはテーブルとピアノ。
そして手前には、ちょっとした踏み台ぐらいの大きさの箱がありますが
よく観るとこれは「団地」の形をしています。まるで夢の中のような
そんな印象を与えるセット。


「ごめんください」
(「は〜い」(4つの扉から住人が顔を出す))
「もしかしたら、ここは私の家ではないでしょうか」
と気弱なサラリーマン風の男、コスギ(山田百次)が聞いて回る。
後から思い出すと、とても象徴的なオープニングだったように思います。

団地に住むコスギは不眠に悩まされています。
それは団地の近隣住民の騒音に苦しめられているから。特に腹立たしいのは
階下のヤマモトがピアノを購入し、娘が習い始めたらしくピアノを
弾くその音が苦になって仕方がない。
ピアノを弾きだすと床をバンバン叩いて抗議するので、ヤマモト家の娘は
ピアノを弾くことを躊躇するのだけど、母は「もっと弾きなさい!」と
更に激しく弾くことをを要求−。

これだけ観ると、階下のヤマモト家が常識はずれなのでは?と
思うのですが、ピアノの音に怒るコスギは「夜中の一時」だと言って
いたけど、ヤマモトの家では近隣の人達が集まって井戸端会議をして
いるので、「ん?」となる。
どうやらヤマモト家はそれ以外の隣人とはうまくやっている様子。

お茶菓子の柿の種に入っているピーナツで争ったり
ゴミ出しは全力だったり(笑)、笑える要素も結構あったりします。
「不条理劇かぁ、苦手だなぁ」と思っていたのですが、観ているうちに
苦手感も払拭されていったような気もしますね。
そして同時に、ヤマモトは異常に神経質なのでは?と思わせる
エピソードも出てくる。他の家にテレビの音が伝わる事を心配し
イヤホンを使っていたりするあたり、やっぱり神経質。

細かいことと言うのは、気にし始めると、とことん気になる。
妻と子供と一緒に住んでいる・・と思われたけれども、実際は
単身で住んでおり、周りの家族の幸せな様子にますます孤立を
深めていってしまう。仕事もしていないみたいだから、逃げ場が
無いですものね。

コスギが自分の子供(恐らく想像の)と話す時は普通の様子なんだけど、
だからこそ不気味でもあるんだよね。
子供が繁殖させたクラゲは、まさにコスギの不安と同じで
どんどん増殖。とうとうヤマモトの妻が朝、ゴミを捨てに出た
隙にヤマモト家に侵入、そして・・・。
ヤマモトの妻が締め出され、「はーい、誰ですか」
「ご用件はなんですか」という感情の無い声が話す内容は
オープニングとも被り、いたたまれなくなってしまいます。

不条理劇なので「ん?」と思うものもありはしますが、でも
全体に受け入れやすかった1本です。