朝からシネコンで映画を観て、その後向かったのは豊橋です。

摂州合邦辻木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」
穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールB列
14:30開演、16:50終演
作:菅専助、若竹笛躬  監修・補綴:木ノ下裕一
上演台本:糸井幸之介、木ノ下裕一
演出・音楽:糸井幸之介
出演:内田慈、田川隼嗣、土居志央梨、大石将弘、金子岳憲、伊東沙保、西田夏奈、子、武谷公雄、石田迪子、飛田大輔、山森大輔
【あらすじ】
大名・高安家の跡取りである俊徳丸は、才能と容姿に恵まれたがゆえに異母兄弟の次郎丸から疎まれ、継母の玉手御前からは許されぬ恋慕の情を寄せられていた。そんな折、彼は業病にかかり、家督相続の権利と愛しい許嫁・浅香姫を捨て、突然失踪してしまう。しばらくして、大坂・四天王寺に、変わり果てた俊徳の姿があった。彼は社会の底辺で生きる人々の助けを得ながら、身分と名を隠して浮浪者同然の暮らしをしていたのだ。そこに現れる、浅香、次郎丸、玉手と深い因縁を持つ合邦道心。さらに、誰にも明かせない秘密を抱えたまま消えた玉手が再び姿を見せた時、物語は予想もしない結末へと突き進む。



この作品は木ノ下さんと糸井さんが脚本の執筆のために、豊橋で
合宿している際に「摂州合邦辻の愉しみ方」講座を開催してくれて
私も参加していました。台風の中苦労して行ったなぁ・・。
でもこの時に木ノ下さんから、幅広くこの演目について解説を
して頂いたので、本当にわかりやすく楽しめました。
その講座の際に「テーマの一つは“親子”になる」とおっしゃっていて
これがどう「親子」の話になるんだろう・・と思っていたのですが
これがまあ、見事に・・・ね。







誰が誰なのかもよく分からないのですが、女性が一人刺されるような
シーンで始まります。ああ、これは「合邦庵室」の場面で玉手が
殺されるシーンから幕開けという演出なんですね。

そして、歌。おおぅ、そう来たか(汗)。
歌の内容は現代の内容ですね。歌の内容が作品とまだリンクして考え
られない事と、この曲が長くて「やばい、どうしよう」と。
そもそも、こういう感じの音楽劇って、私苦手なのですよ。
(歌唱力が不安定な人の歌を聴いているのは苦手です。特に俊徳を
演じた男の子がね、どうも高音で音が上がりきれず・・が気になって。)
ただ、この曲が終わると(時に歌は差し込まれますが)普通のお芝居
と言った感じで、安心致しましたが。

今回は「摂州合邦辻」のストーリーも、人物関係も理解しているので
物語を必死に追わなくてよかったのも助かりました(笑)。

物語上、玉手が「悪女」として描かれているのですが、実はそうじゃない、
という事が分かった上で観ると、玉手を演じた内田慈さんの表情の変化から
目が離せないのですよね。敢えて悪女を演じている時、ふと本音が
表情に出てしまっている時・・・。だから本当に切なくて。
俊徳丸に毒酒を飲ませるときも、ちゃんと注ぎ口を変えていましたし。
奉公先の高安に見初められて後妻になったとか、義理の息子に色目を使うとか
「あり得る」って思えたりもするほど色気たっぷり。
でもその対極で、親に甘える様子や、必死な様子もまた似合っていて
この役に本当に合っていたと思います。
そして、歌が唯一素敵に聞こえたのも、内田さんでしたね。
彼女の声が素敵なんですよ。

玉手が殺されるシーンから始まりましたが、時代は行ったり来たりしながら
また最後に玉手が殺されるシーンに戻ってくる、という演出です。
分かりづらくなりそうなものですが、全然そんな事なかったです。
それは、原作にはなかったシーン(玉手が奉公に入る時や、見初められて
後妻になる報告をしに来た時とか)が追加されていた事も、大きいかな。

舞台のセットは大きな柱が何本かあるだけ、キャストが毎回、その柱を
並べ替えたり倒したり・・で組み替えるだけ、というモノ。
シンプルですが、こういうセットって大好きです。
また舞台に集中するにつれて「こういうの、苦手だわ」と思っていた
音楽劇も、全く気にならなくなっていくのが分かって、最後には
「歌が効果的だなぁ」なんて思ったりして、自分でも「現金だなぁ」と
思ったりもしましたよ(笑)。

今回は(予告通り)「親子」にとてもフォーカスされていたなぁ、と
感じる作品でした。
一番泣かされたのが、玉手とその親子です。
合邦等という仕事をしてでも、家族を養おうとした父親。
それが分かっているから、親の職業を恥ずかしいと思わない娘。
そして、親を助けたいと思い、高安家へ奉公に出る決心をする娘。

そんな「自慢の娘」が義理の息子に色目を使い、嫁ぎ先を
飛び出すなんて・・という親の戸惑い。
親に甘えたいと思いながらも、真実が語れず、それが出来ない玉手。
自分を殺させるために、悪ぶって見せても親は娘を信じようとする。
だから、どんどん過激な事を言わなければいけない切なさ。
娘の事を信じたいと思いながらも、手にかけることを選んだ親。
娘を刺した後に、玉手の本意を知った親の気の毒さ。
そんな運命を選んだ玉手もまた、義理の2人の息子を想っていて・・。
「地味な話」だと以前木ノ下さんがおっしゃっていたと思いますが、
玉手が子供の頃に父親と語った「好きな動物が虎」の話や、
色々なピースがカチリとハマっていき、なかなかドラマチックな展開で、
どんどん引き込まれていきました。

まさか、泣かされるとは思いませんでしたが、今年初泣きでございました。
本当に面白かったです。