今週土曜日もお仕事でございます。
でもダラダラと残業にならないように仕事を片付けましたよ。
だって、18時から舞台を観に行かなきゃ、でしたから。

Le Pere 父「Le Pere 父」ウインクあいち大ホール A列
18:00開演、19:50終演
脚本:フロリアン・ゼレール 演出:ラディスラス・ショラー
出演:橋爪功、若村麻由美、壮一帆、太田緑ロランス、吉見一豊、今井朋彦
【あらすじ】
若い看護師が泣きながらアンヌに電話をしてきたため、父に何らかの異変を感じ、行くはずだった旅行を急きょ取りやめて父の所にやって来た。父・アンドレは看護師を自分の腕時計を盗んだと悪党呼ばわりし、自分は1人でやっていけるから看護師の助けなど必要ないと言いはる。しかし、アンヌに指摘されると、その腕時計はいつもの秘密の場所に隠してあった。なぜアンドレは誰も知らないはずの自分の隠し場所を知っているのか……。今自分が居るのは、長年住んだ自分のアパルトマンなのか? この女や男は誰なのか? 何が真実で何が幻想なのか? 



でもこれ、「コメディー」と書かれているけど、コメディーじゃない。
一定の年齢以上の人で、親の「老い」を感じている人だったり
介護経験者などにしてみたら「笑えない」作品だと思います。
しかし、橋爪さんは凄いわ・・・。




開演時間になって客席がシーンとなっても、舞台はなかなか始まらない。
トラブルがあったのか、敢えてなのかは分かりませんが。
アンドレ(橋爪功)とアンヌ(若村真由美)の会話で幕が開きます。
一人暮らしの老いた父を心配して、看護師を頼んでいたものの
父が看護師を追い出し、看護師からのクレームでその事を知り
娘は父にその話をしに来たようです。
このアンドレがアルツハイマーだという予備知識があるので、きっと
娘の言う事が事実で、父の言う事は事実ではないんだろう、という事は
何となく想像はつきます。
ただ、その事を知らなかったら、ちゃんと会話が成り立つアンドレが
アルツハイマーを患っているかなんて、分からないだろうな・・。
そう思った時、アンヌが「お風呂場の戸棚にあるんじゃないの?」と言い
盗まれたと思った時計が出てきた時・・・「何で知ってるんだ!」と
疑いの目で娘を見る。
ああ・・・やっぱり、アンドレはアルツハイマーなんだな、と思う。

アンヌは自分が好きな人と一緒に過ごす為に、パリを離れる予定だ
という事と、だからこそ、父親が心配だということ、誰か身の回りの
世話をする人が必要だ、と力説するが、父親は「俺をどうするつもりだ」
と喚き、暗転・・。

その次の場面。
アンドレは弁護士に電話をしようとアドレス帳を繰っているが
電話が出来ない。ああ・・病状が悪化したのかな?と思っていると
見知らぬ男性(吉見一豊)が居るのだけど、この男性(ピエール)は
アンドレを知っている様子・・・どころか、自分は10年前に結婚した
アンヌの夫であり、アンヌはもうすぐ帰ってくる、と言う。
そこにやって来たのは、若村真由美さんとは雰囲気の違う、
どちらかというとハデな女性(壮一帆)。
アンドレは混乱するけど、それは観ている私たちも同じこと。
え・・・っと、さっきの若村さんの話は夢とかだったのか?
イギリスに行くって言うのは、取りやめたのか?同居してるのか?
10年も経って状況が変わったのか?とか頭の中がグルグル〜。
でも、ピエールとアンヌはごく当然のように接してくる。

あ・・・・なるほど。
これ、アンドレ側から描いている話なんだ。

以前、メンタルヘルスについて勉強を始めたときに
「幻覚が見える人に、それは「幻覚で事実じゃない」と言っても無駄。
その人がそう「見えているという事は事実」なんだから否定しない事」
と教わって、「そういうものか!」と目からうろこが落ちる心もちだった
事を思い出しました。
周りの家族からしたらおかしな事も、アンドレにとっては全て「事実」
なんだよね・・・と。
ただ、頭でそれが分かっていてもそれを経験したことがある訳ではなく
今回舞台を通してそれを経験して、「そりゃパニックになるよね」
とも思うし、アンドレ側の発言だけ聞いていたら「何めちゃくちゃな事
言っているんだろう」って思われちゃうよね・・なんて、妙に
腑に落ちたりもしました。

ただアンドレの視点だけで話が進んでいくわけではないんですよね。
本物の娘はやはり若村真由美さんで、一人暮らしの親を支えるという事
自分の恋人との関係の難しさ、については、本当に難しいなと思い
それと同時に、とても他人事とは思えません。
若村真由美さん演じるアンヌの旦那ピエールは今井明彦さん。
同居を認めるなど理解のある男を演じつつ、アンヌの観ていない所で
「どこまでクソ迷惑を掛け続けるつもりですか」と詰め寄ってみたりする。
恐らくこの男は、論理的に話を進めるタイプだろうから、こういう
噛みあわない会話が苦手なんでしょう。
ピエールが特別に悪い男っていう訳ではないんだと思います。
アンドレの娘と、他人という立場の違いもあるし、男女の違いもある。
この部分の溝は埋められないんだろうな・・・というのが切なくて。

「わしはまだ、もうろくしとらん!」と言いながら、「だろ?」と
聞いてきたりして、アンドレ自身にも、自分の衰えが不安なんでしょう。
献身的に介護するアンヌに対して「お前の妹のエリーズは可愛かった」
「あの子はお前と違って優しい」と何度も言われる時のアンヌは
本当に気の毒で、気の毒で。
きっとエリーズには何かあるんでしょう、と思っていましたが
事故で亡くなったようで、アンドレはその事が理解できないんですよね。

一緒に暮らすことに限界を感じたアンヌは心を鬼にしてアンドレを
施設に預け、アンドレの病状はさらに進行していったようです。
老人は歳をとるとどんどん幼児に戻っていくと思うのですが、
アンドレもまさにそんな感じです。
現実的にもこれが取りうる最善の方法だったんじゃないか、と思いますが
でもやはり切なさでいっぱいになってしまいました。

アンドレの話し方、目線等で病状の進み具合だったり、混乱ぶりが
伝わってきて、橋爪さん、本当にアルツハイマーになっちゃったんじゃ
ないのかしら?と思うほどで、怖いぐらいでした。
橋爪さんが素晴らしい俳優さんであることは存じておりましたが、
今回改めて、目の当たりにして「ひえぇ」と思わずにはいられませんでした。