今週末は地元で観劇。
何故か刈谷での観劇だと思い込んで、刈谷に向かっていた途中で
自分のミスが発覚。慌てて共和から引き返しましたよ。
金山での全力ダッシュが功を奏して、開演10分前に到着です。

熱帯樹_0001「熱帯樹」東海市芸術劇場 大ホール 2階1列
12:30 開演 15:20終演
脚本:三島由紀夫  演出:小川絵梨子
出演:林遣都、岡本玲、栗田桃子、鶴見辰吾、中嶋朋子
【あらすじ】
1959年秋の日の午後から深夜にかけて。資産家の恵三郎は、己の財産を守ることにしか関心がなく、妻・律子を自分の人形のように支配している。律子は夫の前では従順だが、実は莫大な財産を狙い、息子の勇に夫を殺させることを企んでいた。その計画を知った娘の郁子は、愛する兄に母を殺させようとするが……。いびつな愛に執着する律子と郁子、権力者の父を憎みながら母と妹に翻弄される勇、地位や名誉を手に入れはしたが息子と対立し妻の不貞を疑わぬ恵三郎、そしてそこに同居する恵三郎の従妹で風変わりな信子、それぞれの思いが交錯し……。



いつもと同じようにチケ取りをしたのに、なぜか2階席。
多少手こずったとはいえ、3分ぐらいで予約は完了しており、
まさかそんな席とは想像だにしておりませんでした。
東京ではとても人気の公演だという事で、遠方から遠征で
いらっしゃっている方も多かった様子です。
(やたらキャスターを引いている方が多かった)

まあ、2階席なのは仕方がないとして、目の前にあるのが
手すり。それも仕方ないんですが、太いケーブルがその
手すりに結わえてあって、下に垂らしてあるんですけど
それもちょうど私の視界を遮る位置にある訳ですね。
横には手すり、縦にはケーブルでT字状に見えない所があって、
その段階でも何だか「あー終わった」って感じです(涙)。





舞台はとてもシンプルです。
1台のベッドとサイドテーブル、鳥籠があるぐらい。
セットは大きな折り畳み式の屏風のようなものだけ。それを動かし
壁になったり、ドアになったり。色々な形になるんですね。
丸くすると何だか、噴火口のようにも見えてきます。
BGMもなく、わずかな効果音だけの会話だけの、たった1日の話。

病気で寝込んでいる(結核でしょうね)この家の娘である郁子の元に
ニートの兄の勇(林遣都)が帰宅します。

どうやら妹は兄の事をとても慕っている。
兄も妹の事を何よりも大切に思っている様子。
妹は母親は父親の遺産を狙っているだろう、と嫌悪している。
兄も母親は自分を使って父親を殺させようとした、と避けている。
母は夫の言う事を盲目的に従い、子供に手をこまねいている。
父は母親を美しく着飾らせることしか興味が無く、子供が自分の
財産を狙っていると思っている。

いったい、どういう関係なんだ・・?兄妹以外はお互いを思いやる
というものが欠落しているけど、血が繋がっている親子らしい。
本当に母はそんな事をさせようとしたのか?と思うんだけど
派手好きで「綺麗な派手な着物が好き」「蝶々のように生きたい」
「楽しいことだけをして生きていたい、それが悪いこと?」という
この母親だったらやりかねない・・と思うようになってきます。

女の子の方が(死が迫っている事もあるでしょうが)想いが強く
一度「嫌い」と思ってしまった時の頑固さは、男の子のそれとは
比べ物にならないものです。郁子の想いもそう。
母親の本心を聞いてしまった勇はいざとなると腰がひけてしまう。
若者らしい想いの強さや一途さ、潔癖さのようなものと現実との
衝突が葛藤として共通にありながら、男女の違い、父母との関係の
違いなどもよく出ていたと思います。
自分たちで自分たちの世界を生きづらくしているような感じですね。
それにしても、妹が兄を使って母を殺させようとし、母は息子を使って
夫を殺させようとしていて、もういったいどんな家族なんだか。
全体的には全く理解不能。
ただ、一人一人にフォーカスしてみると、ちょっとずつ何だか
分かる所もあったりするのが不思議。

純粋な少年をそのまま体現したような林遣都君。
妹への愛情と、母親への嫌悪感と共に思慕の想いをよく表して
いて、とてもこの役に合っていたと思います。
同じ女性として母親に嫌悪感を示す娘を演じた岡本玲さんも
ああ、若い子ってこういう所あるわ・・と思いもしました。
若いころの小島聖さんをイメージする女の子ですね。
母親でありつつ、女として娘に嫉妬したりする律子はとても
難しい役どころだと思いますが、中嶋さんが演じるとあまり
違和感を感じないのも凄いです。
傲慢な女でありながら、とても哀しさを感じました。

おかしな家族達の中で、唯一、一般常識に近い感覚を持ち
誰に対しても淡々と辛辣な事を言う信子(栗田桃子)。
でもこの人も「終わりを見届ける」のが生きがいだと、生き生きとした
顔で言う様子は、やはりどこかちょっと感覚がずれていて、
最後の最後まで、それぞれのベクトルが違う方向を向いたまま
終わっていった・・という印象です。

けっこう面白い作品だな、と思うのですが、こういう動きの
少ない作品は役者さんの表情や小さな動きも堪能したいのですよね。
それには、今回は劇場が大きく(東京だったらシアタートラムです)
今回の席はあまりにも見づらくて、それが残念でした。
できるなら、前方席でもう一度観たいなぁ・・・。