俳優座はねー、劇場には何度か来た事がありますけど、
劇団公演は観たことが無いんですよね。
以前イキウメに居た伊勢佳世ちゃんが俳優座の養成所に
居たんだよね、ぐらいの知識でした。

血のように真っ赤な夕陽俳優座第338回公演「血のように真っ赤な夕陽」
劇団俳優座5F稽古場 6列 14:00開演、16:40終演
脚本:古川健  演出:川口啓史
出演:岩崎加根子、平田朝音、河野正明、矢野和朗、河内浩、瑞木和加子、渡辺聡、安藤みどり、谷部央年、齋藤隆介、小泉将臣、戸塚梨、工藤文香、八頭司悠友
【あらすじ】
1931年満州事変により中国東北地方は大日本帝国の支配地域になり、その翌年満州国が建国。以後、30万人以上の日本人が入植。いわゆる満蒙開拓団である。舞台は満州北部、ソ連との国境もそう遠くないとある開拓村。日本で食うや食わずの生活を送ってきた三家族が、満州の大地を第二の故郷と信じ、新天地での明るい未来を夢見てやって来る。もともとこの地を伐り拓いた中国人たちとの摩擦を乗り越え、暮らしも落ち着いたところに訪れるのは戦争の足音……。旧満州の名もなき開拓人達の経験を通じて描く第二次世界大戦。一体彼らは何を信じ、何に裏切られ、どう過酷な運命に立ち向かったのか? 



俳優座劇場の入り口ではなく、ビル横の入り口からエレベーター
に乗って5階へ。稽古場での公演なんて、ちょっとドキドキ(笑)。
まあ、入っちゃえば普通の小劇場です(笑)。
劇場として作られている訳ではないので、外の騒音が普通に
聞こえてくるっていう・・ね(笑)。
集中して観ている時には気にならないのですが。

昨年初めて文学座の公演に行ったのですが、やはり老舗劇団って
客層が似ていますね。あとは公演時の雰囲気も、似てる気がする。

私の前列の高齢の女性、おひとりで観に来ていた方が、座るなり
(見ず知らずの)隣の人に「お知り合いが出ていらっしゃるの?」
と当然のように聞いていて、ビックリ。
そんなのレアケースじゃないの?と思ったら、声を掛けられた人も
キャストのお知り合いだったようで。ビックリですわ。
ああ、私はもちろん古川さんが書く脚本がお目当てです。






舞台の上にはセットらしいセットもなく、下手の方に朽ちかけた
門のようなものがあるぐらいですね、目立つのは。

夕方と思われる明かりの中、一人の男性がやってきて、
その人に近づくもう一人の男性。
「チャンさんですか?」「はい。あなたは勝さんですよね?」
どうやら二人は数十年ぶりに再会したらしく、周りの様子を懐かしむ。
勝さんという日本人はかつてこの地で開拓に携わっていたらしく
チャンさんというのは、その地を引き続き開拓した現地の方らしい。
そうそう、そうでした。今回は満蒙開拓団のお話でした。

本国では小作として未来を描けなかった人たちが、全てを捨てて
満州での成功を夢見てやって来る。
自分の土地を持ちたい、息子たちに土地を残してやりたい。
そして、「鍬を持った兵士」として、お国に貢献するべし、
という大命題もある。
この場面では未知のものに対する不安、手探り感、でもそれ以上に
新たな世界が広がるのではないか、何とか成功したい・・という
希望や前向きな気持ちでした。観ていても思わず微笑んじゃう。
日本での不遇状態はどこも似たり寄ったりなので、連帯感も
感じますしね。

どうやら新たに入植した開拓団は「南地区」で、世帯数も少なく
学校も医師も居ないまだまだ未開の地の様子。
苦労ばかりなのかしら、と思いきや、南地区の土地は肥沃だそうで
農地としては見込みがあるらしい。
未開で開拓の手間がかかる反面、元々住んでいた人の土地を奪った
訳ではないので、地元の人との関係も悪くないエリアの様子。

でも、徐々に現実が分かってきます。

入植した日本人は現地の人を「南人」と呼び、奴隷のように扱うのが
普通と思われていた。小作料も高く現地の人の不満も高まっている。
銃を使う事もあるかもしれない。
同じ開拓団の世話役の住む北地区でも同様らしいけれど、現地の人を
追い出して得た土地なので、恨まれる要素がある。

そしてさっそく、トラブルが発生。
小作として働いていた「南人」から搾取していた北地区では、
「南人」が日本人に反抗をし、日本人に袋叩きにあったという。
張さんの懇願を受け入れ、袋叩きにあった人たちを南地区で受入れる事に。
この判断がその後の日本人の運命を大きく変える事になります。

戦局は悪化し、入植地の男性たちも戦地に召集。
頼りにしていた関東軍は開拓団を見捨て、退却。そんな事を信じない
開拓団は逃げ遅れ、多くの開拓団が現地の人に襲われて殺されたり、
集団自決を選ぶことになります。

あああ・・・私の嫌いな展開だよ・・・。
「辱めを受けるぐらいなら死を」というマインドが分からない訳じゃない。
でもね、やっぱり自決って、逃げる事にしか思えなくて。
そんな状況で生きよう、生き抜こうとすることの方が大変なはず。
でも結局「生きて日本に帰ろう」となり、張さん達の助けを借りて
帰国を目指すことになるんですね。ああ、良かった。
「大地の子」の世界だなぁ・・・と思わず思い出しました。

戦時教育を受けた子供のマインドの怖さや、立場が変わるとどれだけ
人間は卑しくなるのか、というようなことも見せつけられたけど、
全体にお手本のような脚本だったと思います。
そんな状況の中で全員が帰国の船に乗れたのも上出来過ぎると思うし。
(結局、新生児は手放し、老人二人は帰国の船で亡くなってますが)

それはそれでいいのですけど、桑本家の子供が張さんに引き取られて
生きていた・・というくだりは、あれはちょっとやりすぎでは?
当時子供を日本人から引き取るという事は、「子供として育てる」
ではなく、「労働力を得る」のが目的だから、そう簡単に張さんに
手放したりはしないはずですし、きっとすごく混乱していたであろう
世の中で、そんなに偶然その子供を見つけられるものか・・。
面白い作品だとは思いましたが、桑本家の子供の話は蛇足だった
ように思い、ちょっと醒めちゃったかな。
古川さんの脚本は好きなんですが、最近はちょっと直球ど真ん中の
作品が続いていて、物足りない感じも残る事が多いのが残念。
多くのホンを書かれていますが、少しペースダウンして、じっくり
書かれた作品が観てみたいなぁ・・と思う今日この頃です。

役者の皆さんは役にハマっていて、舞台を観たというよりは
その時代の世界を見せてもらった、という印象を受けました。
岩崎加根子さんはいい味を出したお婆ちゃん役でしたが、
カーテンコールではシャキっとしていらっしゃって、とても素敵でした。