今回の遠征をこの時期にしたのは、こちらを何とか観たかったから。
全7本のパラドックス定数オーソドックスのうちの最後の1作です。

Das Orchesterパラドックス定数第45項 「Das Orchester」
 シアター風姿花伝 2列目
18:00開演、20:05終演
脚本・演出:野木萌葱
出演:植村宏司、西原誠吾、井内勇希、生津徹、皆上匠、松本寛子、浅倉洋介、小野ゆたか
【あらすじ】
舞台袖で演奏を見守る女性、そしてその後ろには制服姿の男性が居る。彼女はドイツのある交響楽団の天才的な指揮者の秘書で、演奏が終わったソリストを指揮者に引き合わせようとしていた。そして指揮者は楽団へのオーディションを受けるようにと薦めるが、ソリストは「僕は劣等人種ですよ」と抵抗を示した。時はちょうどナチスドイツの独裁体制が日に日に色濃くなっている頃だった。政府はその指揮者を気に入り、この楽団を国立化し、ユダヤ人奏者を排除しようとしていたのだ。指揮者は「自分の楽団には彼ら(ユダヤ人奏者たち)が必要だ!」と突っぱねるも、抗いがたい力が指揮者を、秘書を、ユダヤ人奏者たちを、事務局長を追い込んでいく・・・。



おまけ
これ、先行予約のオマケ。
今回は楽器とト音記号のブックマークでした。カワイイ♪
毎回、お芝居に関連するちょっとしたオマケが頂けるのですが
個人的にはモノを増やすのがイヤなので、せっかく頂いても
使わずに捨ててしまっては申し訳なく、「使えそう」と思う
モノの時に有難く頂戴いたしております。

この作品はネット上の評判も宜しくて、前売りは完売。
着席後には通路にイスを並べて、席を増設したりしていました。

シアター風姿花伝のプログラミングカンパニーに選定された事が
きっかけで上演された「パラドックス定数オーソドックス」、
過去7作品を1年間で上演するという企画でした。
私は結局、7本中4本しか観られなかったのが残念でなりませんが
予め1年間のスケジュールが出ていたのが、遠征者としては何よりも
ありがたくて、次から次へとパラドックス定数の作品が観られた、
大変幸せな1年でした。
おかげですっかり、パラドックス定数にハマっちゃっいましたよ(笑)。





早くもこれが今年のMyベストになるかも?と思う作品でした。
野木さんはこれを19歳、学生時代に書かれたのだとか。すごい・・。

舞台上にはクラッシック音楽が流れています。
すると、ビシっとスーツを着て髪を束ねた女性が現れ、上手袖の方を
見つめています。あれ、始まった?と思うと、拍手が聞こえ、袖から
人が入ってきました。ああ、なるほど。私が観ているのは「舞台袖」で
「入ってきた」というのは、舞台袖に引っ込んできたところ、
という設定だったのね、なるほど。
そこでは、一旦袖に引っ込んだ指揮者が、その女性(秘書官)に
身だしなみを整えてもらい、カーテンコールに向かう所でした。
そして、背後には制服を着て微動だにしない一人の男性も居ます。
腕には腕章がありますから、ナチスドイツの人間のようです、
何故そこに居るのか、何をしようとしているのか・・は表情からは
全く読み取る事が出来ません。

どうやらこの指揮者はフルトヴェングラーがモデルになっているようですが
明確に固有名詞は出てきません。他の人もそう。
この舞台はヒンデミット事件もベースになっているようではありますが
固有名詞が出てこない事で、その時代には、この人達だけではなく
同じような事が他にもありましたよ、というメッセージのような気がします。

オープニングから、ちょっと今までと雰囲気が違う・・と
思っていたのですが、それは恐らく秘書官という女性が主要キャストで
登場していたからではないか、と思います。
私はパラドックス定数は4本しか観た事がないのですが、思い返すと
キャストは男性ばかりでしたものね。

この秘書官を演じたのは松本寛子さん。初見の方ですが、素晴らしかった。
秘書官とマエストロの空気感が素晴らしいんですよ。
秘書官はマエストロを絶対的に尊敬していて、マエストロは秘書官を
絶対的に信頼している。それは人間的にも、音楽のセンスも。
二人のやり取りを観ていて、泣けてきそうになる事が何度もありました。
大臣から「笑え」と言われて、引きつりそうになりながらも
笑顔で「おもてなし」の言葉を言ったシーンはもう、息がつまりそうで
退室した後「うわぁぁあ!」と叫ぶ彼女を観て、私まで悔しさで
ギュっと手を握り締めてしまいました。

音楽の事、芸術の事しか興味がない・・というマエストロなのに、
彼女に対しては、人として接しているという語り口も良かったなぁ。
秘書官に舞台上で指揮を教えるシーンも良かったです。

政府からの圧力に負けてしまう(とはいえ、それはもう「仕方ない」
としか言いようがないレベルだけど)事務局長。
優柔不断というか、頼りにならないなぁ・・といった体だったけど
その陰で必死でユダヤ人奏者たちの海外楽団での受け入れ先を探し、
国外に逃がそうとする。「演奏家は舞台の上で弾かなければ」と。
政府はユダヤ人を解雇しろと言っていて、いずれそうなるのなら
国外の楽団に受け入れてもらって、演奏家として活動させてやりたい。
普段はマエストロの顔色ばかり窺っていた事務局長だったのに、
この件に関しては、マエストロに相談もせずに進めていたらしい。
(結局マエストロも事務局長の判断を責めることはなかった)
ああ、いいやつじゃないか、事務局長・・ホロリ。

私はこの後の歴史を知っているので、「早く国外に逃げて」と思うし
「そんなに突っ張っても、結局は政府の思い通りになっちゃうよ」
と切なくて、切なくて。
芸術を愛し、道理を通そうとしているのに、すべて打ち砕かれていく
そんな未来だから。

そして、不気味な無表情で楽団に付きまとっていた将校の秘密が
最後に明かされます。
時々見せるマエストロを救おうとしているかのような言動の理由。
ある意味、強制する側と反発する側・・と真逆の立場にありながら
音楽・芸術というモノで繋がれる所もある、という、絶望の中の
微かな細い、細い光の線が差したようでもありました。

これからやって来るであろう暗い世の中。
政治的には非力な人たちが、音楽で反旗を翻そうとするなか
出番前にやむなく国有化にサインをするマエストロ。ああ・・切ない。

役者さんもみなさんお上手だわ、ストーリーも面白いわ、
それぞれのキャラクターも際立っているし、演出もシームレス。
本当に面白い1本でした。パラドックス定数オーソドックスの
最終章にふさわしい1本だったと思います。

パラドックス定数オーソドックスは終わってしまいましたが、
これからも観つづけて行きたいと思います、パラドックス定数も
野木さんの舞台も。まずは「骨と十字架」ですね。


フルトヴェングラーと言えば「Taking Side」という舞台がありました。
平さんがフルトヴェングラーを演じていたんですよね。
ある意味あの作品は、この舞台の後の時代の設定なので、今観たら
また違う印象を受けるんだろうな・・なんて、平さんを懐かしんで
みたりもしたのでした。

これ、シアター風姿花伝で出店しているコーヒースタンド。
いつも「美味しそうだなあ」と思いつつ、手が出せていませんでしたが
せっかく最後なので、開演前にお買い上げ。(劇場内に持ち込み可です)
売り子は野木さん
写真左端、ガラスの奥にいらっしゃるのが野木さん。
「売り子は野木」、って張り紙が右側に出ていました(笑)。

ラテは500円
ラテ、頂きました。
お昼ごはん食べそびれていたので、少しでもお腹にたまりそうな
ものを・・と思って(笑)。
500円なので安くはありませんが、コーヒーそのものがおいしいので
ラテもとても美味しかったです♪