18:15開演なんて、どういう中途半端な・・・。
上演時間が長いのか?と思ったのですが、そういう訳でもない。

ブラッケン・ムーア「ブラッケン・ムーア 〜荒地の亡霊〜」名古屋市民会館 あ列
18:15開演、20:55終演
脚本 アレクシ・ケイ・キャンベル  演出:上村聡史
出演:岡田将生、木村多江、峯村リエ、相島一之、立川三貴、前田亜季、益岡徹、大西統眞、宏田力
【あらすじ】
裕福な炭鉱主のハロルド・プリチャード(益岡 徹)の元に、ある日エイブリー一家が訪ねてくる。10年前にハロルドの一人息子・エドガー(当時12才)が、ブラッケン・ムーアという荒野の廃抗に落ちて亡くなった事故をきっかけに疎遠になっていたのだ。事件以来、ふさぎ込んでいたエドガーの母親・エリザベス(木村多江)を励ますために一家はやって来たのだった。しかしその日から毎晩、うなされたテレンス(岡田将生)の恐ろしい叫び声が、屋敷中にこだまするようになる。親友だったエドガーの霊に憑りつかれたテレンスは、事故現場であるブラッケン・ムーアに向かう。そして事故当時の知られざる真実が、少しずつ明らかになっていく―。
 


この作品、何より木村多江さんが出演されているのが魅力で。
一度舞台で拝見したいと思っていた方なんですよね。
元々ミュージカルを学んでいた方で、若い頃には舞台にも
立っていた方だと聞いておりましたので。
劇団☆新感線のアンケートで「出演して欲しい俳優」の欄にも
ずーっと木村多江さんの名前を書いていたぐらいです(笑)。






なんか、こういう感じの舞台って観たなぁ・・と思ったんですが
「ウーマン・イン・ブラック」と似ていると思ったんでしょうね。
いずれも海外戯曲、ホラーで、直近では「ウーマン・イン・ブラック」も
岡田将生さんが出演されていましたから。

ストーリーも人物相関図も全く分からないまま観に行っていましたが
序盤で大よそつかめてきます。
ハロルドは現実的・合理主義な経営者であり、モラハラ要素あり。
ハロルドの妻エリザベスは息子エドガーを失い、メンタルヘルス不調。
そのエリザベスの強い希望で、亡くなったエドガーの親友だったテレンスと
その両親がこの屋敷にやって来た・・と。

窓が閉まっているのに揺れるカーテン、黙ってハロルドを物影から
見つめるテレンス・・と、最初からホラーモードが入っております(笑)。

会話の中で登場人物のキャラクターや背景が徐々に分かる・・という
舞台は、個人的には好ましいと思っておりますので、まずこの段階で
好印象。ただ、もう「きっとテレンスがエドガーに憑依されるんだよね」
というのは、ここまでの流れで分かりきっていて、意外性が無いなぁ・・
という感想を持ったのも、また事実です。
なので、夜中にテレンスが叫び声をあげる所も、エリザベスしか
知り得なかった、母子の間だけで交わしていた「ベッツィー」という
呼び名や、「卵を焼く」というフレーズについても、「ふむふむ」と
淡々と観ていた、と言う感じかな。
まあ、ぶっちゃけホラーとしては、それ程凝ったものではないというか。

でも、そんな簡単なお話では無かったのね(笑)。

エドガーに憑依されたテレンスが「お母さん、(自分を責めるのは)もう止めて」。
「ボクは『命』だ。ボクを大切にして」と語りかけ、その事件をきっかけに
喪服を想起させるような全身真っ黒のドレスから淡い色のスーツに着替え、
モラハラ夫の元を離れ、夫の所有物ではなくロンドンに旅立とうとするエリザベス。
「ああ、そうか、この作品はホラーなのではなくて、人としての自立
という事を描きたい作品だったのか」
と合点がいきます。後からフライヤーを見ると、この作者の方は
『自分らしく生きることをテーマにしている劇作家』と書かれていますしね。
結構早い段階で憑依されたエドガーの語りのシーンがあったので、
残りの時間はどうするんだろう、と思っていたんですよ。

これ以前と、このシーンの木村多江さんの違いが素敵でした!
それまでは本当に弱々しくて、生気が感じられない、亡き子供に対する
執着だけで生きていて、死ぬ時だけを待っている・・と言った感じ
だったのに、凛とした雰囲気を纏って、夫にどんなに強く言われても
穏やかに撥ね付ける強さまで感じて。

それに反比例していたのが、益岡さんの演じるハロルド。
強いことを言っていても、結局は過去を踏襲していたり、過去のものを
守るという事しかできないボンボン野郎で、地位も財産もある自分を
周りがチヤホヤして当たり前と思っている。
だからこそ、ここまで言えば妻は思いとどまるだろう、と思っていたのに
去られてしまった哀れさったら・・。
この二人の対比がとても明確になっていました。

ああ、これでこの舞台も終わるのね、と思っていた所で登場した
エイブリー。ここでビックリの告白です。
エドガーに憑依されていた訳ではなく、あれは「誠心誠意演じた」結果
だったのだ、と。
あああ・・確かに何故「炭鉱夫」なんて言い出すんだろう?という
ちょっとした違和感は感じていたんですよね。

そして、エイブリー一家が去った後・・。
この一件で考えでも自分を変えられなかったハロルドは一人残され
風の入らないはずの窓にかけられたカーテンが揺れ、階段からは・・・


うっそ〜ん、やっぱりホラーだったんだ(笑)。


確かにテレンスはエドガーを演じていたのかもしれない。
でも、そうするに至るよう、エドガーの日記を見つけられるように
コインを誘導したのは、やはりエドガーだったのかもしれない。
こういう結末は、やはりエドガーが望んでいた事だったのかもしれない。

気持ちよく振り回された、そんな舞台でした。
こういうエンタメ感のある舞台の演出が上村さんっていうのは
私としては意外でしたけど。

木村多江さんだけでなく、他のキャストの方も良かったですね。
相島さんの演じたテレンスの父も峯村さんの演じたテレンスの母も、
エリザベス&ハロルドとの対比、というポジションとも言える役で
だからこそ、あまり目立った感じではないんですが、ホッとできる
存在だった、と言う感じかな。

岡田君は相変わらずおキレイで(笑)。
「あんなに(ハロルドと)取っ組み合って、ネクタイもぐちゃぐちゃに
なっていたら、後から来た皆に「何かあったの」ってバレるのが
普通じゃん!」と突っ込みたかったですが、まあこれは岡田君が
悪い訳ではないと思いますので(笑)。
でも、面白い作品でしたね。観に行って良かったです!

ちなみに、開演時間が中途半端だったのは、最後の最後に子役ちゃんが
出演されるから(労働基準法の「年少者」の扱いにより)と思われます。
アイドルは労働者として扱われないケースが多いらしく、その結果
労基法が適用されないので、21時過ぎでも出演出来る事もあるようですが
舞台俳優については「労働者」とされる事が殆どだそうで、その結果
21時以降は出演出来ない、という事ですね。