遠征2本目はこちら。この作品が観たいため、この日程で
遠征を組んでいたのでした。通し券もこれでコンプリート。

さなぎの教室「さなぎの教室」駅前劇場 F列(2列目)
脚本・演出:松本哲也
出演:佐藤みゆき、吉本菜穂子、今藤洋子、松本哲也、朝倉伸二、古屋隆太)、小野健太郎、新納敏正
【あらすじ】
彼女たちは自分の夫を殺害し、保険金を受け取った―。
2002年に福岡県久留米市で実際に起こった看護師4人による保険金連続殺人事件をモチーフに描く。2002年に実際に起きた4人の女性看護師による保険金連続殺人事件をモチーフに、九州・宮崎を舞台に、より閉鎖的な人間関係から彼女たちが犯行に至るまで、またその後をが描かれる。
 


センター舞台になっていました。駅前劇場でもこんな設定に
する事が出来るんですね。おかげで、空間が広く感じました。
これは、以前上演された大竹野さんの「夜、ナク、鳥」の
オマージュ作品という事で、松本哲也さんが書かれた「新作」です。
「夜、ナク、鳥」は昨年の読売演劇大賞の作品賞と演出家賞を
取られていますし、面白い作品でしたので、この作品も
とても楽しみにしていました。








舞台の開始前に、作者でもあり、出演もする松本哲也さんからの
ご挨拶がありました。
「お願いがあります。早くこの格好に慣れてください」と(笑)。
今回は、元々出演を予定していた森谷ふみさんが降板され、その代り
松本さんが女装して、出演される事になったんですね。
降板の「諸般の事情」は分かりませんが。

これは実際に九州で起こった、4人の看護師による保険金殺害事件が
モチーフになっています。厳密に言うと、その保険金殺人事件を
モチーフにした「夜、ナク、鳥」のオマージュという感じかな。
「夜、ナク、鳥」では3名の看護師と、1名の治験コーディネーター
だったので、今回は実際の事件と同じ「4人の看護師」になっています。

その4人のうちの1名、主犯格でもある「ヨシダ」が松本さん。
結果的に男性である松本さんが演じる「ヨシダ」は、ある意味普通に
女性が演じるよりも、効果的だったのではないか、と思います。
何ていうんだろう、本心が掴めないというか、正体が見えない感じ
有無を言わせない押しの強さ。

舞台は、イシイが夫を殺害しようとするシーンで始まり、色々と
回想シーンを挟んで、実際に殺害するシーンで終わります。
舞台にはいわゆる大道具はなく、照明も暗い・・。
(オフィスコットーネの舞台って、こういうのが多いな(笑)。)
既に、イケガミの旦那さん殺しの後からのスタートという事ですね。
つまり、ヨシダのツツミやイケガミの精神的支配が始まっている状態。

ツツミはヨシダの言う事には口ごたえしないけど、表情が無くて
まるでロボットのよう。後の裁判のシーンで「何も考えられなかった」
って言ってましたね。
イケガミは小心者で、自分では物事を決めきれなくて、誰かに
頼りたい・・という性格らしい。自分の取った選択(旦那殺し)が
間違っていなかった、と信じたい気持ちがよりヨシダに従属する
という方向に向かった感じがする。

この作品の特徴は、この4人の学生時代が描かれている事。
学生時代からヨシダは要領がよく、ツツミは注射などの実技も上手い。
それに対してイケガミは要領が悪くて、イシイも死に直面する
仕事に就くには優しすぎる所がある。
この頃のツツミには表情があって、人間らしいんだよなぁ。
イケガミも活き活きしてるなあ・・。そういう比較って面白い。
ヨシダの「死」に対する考え方がドライなところはこの頃からで
その考えに反論をした喫茶店のマスターにキレるあたり、自分の
我を通すのは看護師になる前から、という事も分かります。
そしてこの頃から既に、話の中心に居ようとしたのはヨシダ。

舞台を通して、他の3名を支配していくヨシダの怖いことといったら・・。
アフタートークでも少し話がありましたが、このヨシダについては
脚本家でもあり演じてもいる松本さんが男性だという事もあって
実際のヨシダとはちょっと違うんじゃない?と思う所もあります。
このヨシダはどちらかと言うとパワハラ系で分かりやすく怖い。
実際の女の場合は声を荒らげたりせずもっと陰湿。「夜、ナク、鳥」の
松永さんが演じたヨシダの方が、リアルに近いよねーとは思いますが
これはこれでアリかな、とは思います。

印象的だったのは、裁判のシーンかな。
イシイ、ツツミ、イケガミが横に並び、反対側には一人ヨシダの旦那。
それぞれが事件に対しての話をしますが、ヨシダの旦那だけは
ヨシダを擁護するんですよね。「自分が不甲斐なかったから」
「俺を選んでくれた女なんだから」「皆が何もかもアイツ(ヨシダ)
のせいにして、卑怯だ。本当はアイツが一番弱いのに」って。
分かってないよなぁ、と思うけど、その分旦那さんが気の毒で・・。

あと、何でも言うなりで感情のかけらも見えないツツミだけど
母親殺害だけは反論し、意見をするのを見て、ああ、こういう状態の
ツツミでも大事にしているものはあったんだな・・というのが
新鮮というか、印象的だったし、それを「つまらん」と言い放つ
ヨシダの不気味さったら・・。
でも結局(実際の事件でも)ヨシダは自分の身内には一切
危害を加えていないので、「身内の命」と「それ以外の命」は
明確に切り分けて考えていたんでしょうね。

イシイの旦那殺害シーンは、医療行為をしているかのような手際の良さ。
それが逆に怖かったりするんだけど、実際にお医者様の指導を受けて
シーンを作ったそうなので、リアリティがありました。

最後のシーンは回想シーン。病院実習の最後に心を開いてくれなかった
担当の患者さんから「ありがとう、アンタはいい看護婦さんになる」って
言われた・・と喜ぶイシイ。それを「良かったね」と言うツツミと
イケガミを尻目に、ヨシダが「そんなの私も言われたわ」と対抗し
他のメンバーが戸惑っている所で、舞台は幕−。
ああ・・・ヨシダのパーソナリティの原点はここなのね・・・と
何となく、モヤモヤしていたものの答え合わせをしたような気持ちに
なったのでした。



  
そういえば、「夜、ナク、鳥」を観ていない人には「先生」の存在は
あの表現で分かったのかなーなんて、少し思いました。