今年2本目。マチネはシアターウェストで上に上がるだけなんだけど
どうしてもコーヒーが飲みたくなり、池袋を歩く、歩く、歩く・・。
合計10か所ぐらい覗いたけど、どこも満席!何なの〜!!

FORTUNE「FORTUNE」東京芸術劇場プレイハウス I列
18:00開演、21:00終演
作:サイモン・スティーヴンス   演出:ショーン・ホームズ
出演:森田剛、吉岡里帆、田畑智子、市川しんぺー、平田敦子、菅原永二、内田亜希子、皆本麻帆、前原滉、斉藤直樹、津村知与支/根岸季衣、鶴見辰吾、岩崎MARK雄大 遠山悠介 渡邊絵理
【あらすじ】
映画監督として成功をおさめたが、自分を幼い頃に捨てた父親とその自殺という事象から常に喪失感を抱えて生きているフォーチュン。自分に対して素直に意見をぶつけてくる若きプロデューサーのマギーに好意を抱くが、彼女は幸せな結婚生活を送っていた。欲しいものが手に入らない焦燥、そして逃れられない悲しみから、出会った女ルーシーに誘われるまま、半信半疑である[契約]を交わしてしまう。

 

半ばムキになって、地下にある雑貨店の狭〜いイートインコーナーに
何とか空席を見つけてコーヒーを頂きました(笑)。
この作品、最初は行かないつもりだったのですが、何となく
友人に流されてチケットを取っちゃったので、あまりテンションが
高くなかったんですよね。
海外戯曲の初演って、どうなんだろう・・と。

恐らく、本当の面白さは私には理解できなかったのではないか
と思う訳ですよ。何故ならば、私にはキリスト教に関する知識が
全く無いに等しいから。
でも、そんな私でも面白いと思って観た舞台でした。






これは「ファウスト」を現代ロンドンに置き換えた物語なんだそうですが
そう言えば私はそもそも「ファウスト」を知らないんだなぁ・・。
ファウストはラテン語の「幸運」という意味だそうで、だからこの作品の
タイトルも「FORTUNE」なのか・・と、後で知る体たらくですが、
とりあえず、納得。

舞台は本当にガラン・・としていて、背面に高さ高い可動式の壁があるぐらい。
そこにいきなり男性が出てきて歌い始めます。
・・・どうした・・・。「世界は一人」みたいな感じになるのか・・。
と身構えたのですが、舞台そのものは分かりやすかった。
(ちなみにこの男性はフォーチュンの亡き父親でした)

フォーチュンは有名な映画監督であり、そこに若いプロデューサーが
現れます。若いけど頭の回転は速く、映画の知識もある。でも
相手が有名なフォーチュンであっても、身持ちが固い(表現古っ)。
フォーチュンはおそらく「成功者」であり、自分では何でも手に入る
という状況に慣れてきてしまっていて、おそらくマギーが思い通りに
ならない事に我慢がならないんですよね。
そして、成功してきた人だから「手に入らなかったものが手に入る」事に
価値を見出してきた人であり、ルーシーとの契約にも躊躇がない。
デメリットの面が想像できない。
ルーシーとの契約は「何でも思い通りになる」事と、「残りの人生が
12年間」である事の2点。
その時のフォーチュンは「12年間死ねない」という事の意味だったり
「思い通りになってしまう事の虚しさ」には気づけない。
なんか、どこかで観たことがあるよね・・と思ったら、これって
プロットとしては「DEATH NOTE」に似たところがあるんだよな。

1幕はフォーチュンが幸せMAXになるまでの話で、2幕はどん底に
落ちるまでのお話・・っていう感じ。
個人的には、2幕のスピード感が増したお芝居がたまらなく面白かった。

目が見えなくなってきたり、口が臭くなってくるって、「死」が
近づいてくることのメタファーだし、最後の砂も「時間(砂時計)」の
メタファーだよね、と思うし、何度でも観てみたくなる演劇的な
面白さも一杯あるし、どんどん精神的に追い詰められていくフォーチュンの
ボロボロになるさまと、フォーチュンの母親との対比、そして最初は
元気なだけのルーシーが「怖っ」って思うようになる変化とかが絡み合って
本当に見ごたえがあったのよね。

本当に申し訳ないんだけど、私は森田剛君はあまり得意ではないんです。
あの声が苦手なんですよ。
もともと声質が苦手なうえに、役のキャラとも合っていない気がして
1幕は割と俯瞰して観ていたんですが、後半になるほど気にならなくなって
きたんですよね。森田君ってこういう追い詰められる演技が合うのかも。
想定以上に、良かったなと思いました。

ただ森田君以上に素晴らしかったのが、ルーシー訳の田畑智子さん。
もともとお上手な方だと思うし、何作も拝見していていますけど、今回は
「あれ田畑さん?」って思うぐらいビジュアルも似合っていて、また
いつもとは雰囲気が違うし、小悪魔的な可愛らしさもあれば、冷酷な
ガチ悪魔の表情も見せるし・・・で、目が離せない。
何より、キャラ的に魅力があるんですよ。
でもルーシーに魅力がなければフォーチュンは契約をしたりしないだろうから
これまた納得感があるんですね。いやー、田畑智子恐るべし。
商業的な理由もあるかと思いますが、フライヤーは森田君と田畑さんの
二人の写真にしなきゃ、おかしくね?って思いますわ。

あとは吉岡里帆さんね。
ちょっと田畑さんが素晴らしすぎて影が薄くなっちゃったわね、というか
この役のイメージではなかったわねーという感じが否めませんでした。
セリフも聞き取りやすくて良かったのですが、ニンじゃなかったというか
マギーを演じるには、ちょっとピュアな雰囲気が残りすぎていた
っていう感じでしょうか。

正直あまり期待しないで観に行ったのですが、面白かった。
できればもう一度ぐらい観たかったなぁ。
サイモン・スティーヴンスの新作を本国英国に先駆け、日本で初演・・
という事は聞いていたので、楽しめるかしら・・と思っていたのですが
(海外戯曲は私的に当たりハズレがあるので)杞憂に終わりました。
しかしこのコロナ禍でこの作品もツアー公演が一部中止になったはず。
英国での上演はどうなっているんでしょうか。
またいろいろな状況が許せばぜひ再演していただきたい作品の一つです。