赤坂見附から移動してきた私はPARCO劇場へ。
これが今回の遠征最後の1本です。

非常の人何ぞ非常に「非常の人 何ぞ非常に 
  〜奇譚 平賀源内と杉田玄白〜」
PARCO劇場1列目 19:00開演、21:50終演
作・演出マキノノゾミ
出演:佐々木蔵之介、岡本健一、小柳友、奥田達士、篠井英介
【あらすじ】
宝暦六年(1756年)、江戸に出てきたばかりの讃岐浪人・平賀源内は小浜藩士・杉田玄白と知り合い、2人は蘭学を志す同志としてその仲を深めていく。数年後、源内のすすめにより玄白は蘭書「ターヘル・アナトミア」の翻訳作業を始め、安永三年(1774年)に「解体新書」として出版。玄白は当世随一の蘭学者として一躍有名となる。一方の源内はエレキテルを完成させるも世間から評価されず、源内と玄白の間には次第に溝ができてゆく。源内は唯一の理解者と信じていた玄白さえもエレキテルを単なる見世物と思っていたことに絶望し・・・。



私の苦手な日本の歴史モノかあ・・と思ったのですが、主演が
佐々木蔵之介さんで、演出がマキノノゾミさん。なんか意外な
組み合わせ・・・♪
篠井さんまでご出演とは、ますます想像がつかない。
・・・・ならば、やはり観に行くってもんでしょ(笑)。



真っ暗な中での独白。
平賀源内が人を殺めた咎で捕らえられた為遺体が戻ってこない。
遺品だけで葬儀を行わなければならない・・。
源内が人を殺すなんて・・そんな会話の中での開幕−。
本編はいわば長い回想シーンです。

平賀源内と言う人は本当に“桁外れの天才”だったんでしょうね。
だって、あの時代に“電気”の大切さや貴重さに気がつくなんて
本当にすごいことだと思うもの。
ただこの人の悲劇は、天才だっただけでなく、多才すぎた事と
彼の本当の偉大さが分かる天才が近くに居なかったこと。
そして、その事を源内自身も分かってしまっていた事。
菊千代にも「玄白を下に見ている」と言われているし、私自身も
源内が玄白を“友だち”と表現した時は違和感を感じたし。
玄白だって“友だち”というより“先輩”って感じの付き合い方だし。
源内の豪快な性格と、玄白の素直な性格のおかげで二人は
上手くいっているのだけど、これが別の人なら疎まれるかも。
でも源内にとっては「心地よい相手」=「友だち」だったのかな。

そんな源内を演じたのは佐々木蔵之介さん。
豪快で楽しい演技も、自分の能力が認められない腹立たしさも
緩急ついた演技がさすがです。
特に最後の独白は、俳優・佐々木蔵之介の真骨頂。
「狭き門より入れ」のラストを思い出すような、哀しいけど力強く
温かい表情が素敵でした。
緞帳の下りてくる位置と、座り込む位置、完璧ですね(笑)。

それに対して杉田玄白は“秀才”で、努力家でまっすぐ。
とても正直な人です。
だからこそ、他の人が敢えて言わなかった「エレキテルの凄さが
私には分かりません」という事を言ってしまうのですよね。
それが玄白の誠実さの表れなんだと思うけど、源内にとっては
「こいつなら自分の偉大さを理解できるだろう」と思っていた
相手だったので、一人ぼっちになったような絶望感が源内を
襲ったんでしょうね。

ときにコミカルに、そして真摯に、源内と対照的になるように
演じていた岡本健一さん。
今まではどこかニヒルな役で拝見する事が多かったけど、
こういう役も似合うのは、年齢を重ねてきたからこそ、
なのかもしれませんね。


俳優は5名しか居ないのに、登場人物は13名!
源内・玄白・佐吉以外を、篠井さんと奥田さんが全て演じる(笑)。
でも篠井さんが男女を演じ分けられる事もあって、これが
ちっともおかしくなかったのですよね。1人で13役を演じた方も
いらっしゃいましたが(笑)、あれはもう「演じ分ける」というよりも
「どこまで演じるか」で笑いを取るというニュアンスだったけど、
今回はそういう“ウケ”とは別に、純粋に見ることができました。


そして、驚いたのが佐吉を演じた小柳友さん。
どこかで観た気がするけど、ドラマを観ない私は多分初見。
1幕で気になって気になって、休憩時間に確認してしまいました。
アンニュイな雰囲気も色っぽいんだけど、いざとなるとキリっとして
(助けてもらった源内にお礼を言うシーンは凛々しかった♪)
目が離せませんでした。「客が放っておかない」というのが
良く分かるそんな若者。スカしている時は大人びているのに、
ダメダメになった佐吉はまさに子供。そんな対比も良かったです。
調べたらブラザートムさんのご子息とか。
これは今後気になる俳優さんが1人増えてしまいました!



1幕最後で何となくケチがつき始めた源内の人生とそれを
何となく暗示させる暗転。そして1幕の勢いがすっかり衰えてしまい
それとは反対に、周りに賞賛されるようになる玄白。
現代の私には源内の凄さが分かるから、やるせないんですよね。

思わず佐吉の身代わりとなったのは、“計算”とは違う“感情”から。
今までは自己愛だけだった源内。
「人間って温かいんだ」と言いながら涙を流す様子を見ていると
なんか「よかったね・・」と思わず言ってしまいそうな、
そんな気持ちになってきます。
そして「死んだと聞いても、涙も出ない」という玄白が、源内への
思いを語った後、背を向けて号泣するのも、悲しいけれど、
とても温かくもあるシーンでした。


「嗟非常人、好非常事、行是非常、何死非常」

ああ非常の人、非常のことを好み、行いこれ非常、
何ぞ非常に死するや
(ああ、変わり者の源内よ、好みも行いも常識を超えていた。
それでも、死ぬ時くらいは、普通に畳の上で死んで欲しかった‥。)


これは杉田玄白が私財を投じて作った平賀源内の墓碑に
書かれた言葉で、これがこの舞台のタイトルの由来ですね。
いずれにしても、平賀源内は時代を先取りしすぎた事は
間違いないでしょう。



平賀源内の話と聞いて思い出したのは「表裏源内蛙合戦」。
この時はあまり興味を持てなくて見送った作品ですが、
今となっては源内がどう描かれているのか観てみたい!
テレビ放送、録画してあったっけ?とDVDを漁ってみたら、
これも出てきた(笑)。録画だけして、観ないで放置していたんだな。
よし、これも観るぞ!