最近、通勤電車でスマホをいじるのを止めました。
もちろん、必要な情報のチェックをしたりはしますけど、気づいたら
時間をつぶすためだけにスマホをいじっていて、自分の時間を
無駄遣いしているような気になったから。
その代わりに、本を読もう!と思ってさっそくポチったのはこれ。

蜷川幸雄の稽古場から「蜷川幸雄の稽古場から」
出版社: ポプラ社 (2010/10/2)
【あらすじ】
「世界のニナガワ」と呼ばれ、国際的な活躍を続ける一方で、多くの若手を見出し、鍛え、育ててきた蜷川幸雄。その稽古場がどのようなものであったのか、若きスターたちへのインタビューから、日本を代表する演出家の秘密を解き明かす。巻末に蜷川自身へのインタビューも収録。
インタビュー:蒼井優、小栗旬、尾上菊之介、勝地涼、鈴木杏、成宮寛貴、長谷川博己、藤原竜也、松たか子



蜷川さんの著書は以前にも興味深く読んだことがありますが
これは“蜷川さんの舞台に出た俳優が語る蜷川幸雄”集。
読み始めたら面白くて、あっという間に読み終えてしまいました。

蜷川さんの舞台は結構観ているはず・・と思って、ざっと数えたら
だいたい35本弱ぐらい。まだ芝居を観はじめて7〜8年なので
1年に4本以上ぐらいのペースで観ていることになります。
生ではなく、舞台中継で観たものを含めるともっと多くなります。

巻頭にある舞台写真を観ても「ひばり」「カリギュラ」「ムサシ」
「オセロー」「わが魂は輝く水なり」と一目見て分かるものが
多いんです。
このインタビューに応えたいわゆる“若手俳優”達が蜷川さんの
演出で育ってきたのと、同じ時期に芝居を観はじめたのかな。

蜷川演出と言えば「灰皿や椅子、靴が飛んでくる」「罵られる」
なんてのは有名な話ですが、実際は厳しいのはニナガワスタジオ
の役者さんや若手だけで、キャリアのある俳優さんに対して
頭ごなしに怒鳴ったり、プライドを傷つけたりする事は無いとも
聞いていました。

この本を読んでもやはりそうで、「怒って伸びる」タイプなのか
そうでないのか、それだけの信頼関係が出来ているかどうか
ちゃんと判断して怒っているのが分かります。
別のインタビューで井上芳雄クンも「蜷川さんの舞台が
世の中が真っ暗になるという絶望度では確実に一番

と話していましたね。
厳しいしシビアだけど、一緒にリスクを負う覚悟を持っているし
いろんな本や映画を紹介し、本気で育てようとしている。
そして、蜷川さんはいざとなったら自分(俳優)を守ってくれる
と言う事も分かっている。
以前のトークショーでも山本裕典クンが同じような事を話して
いましたね。劇評でヘコんだ時もフォローしてくれたって。
だからこそ、若手が蜷川さんを慕うんだろうな、というのが
とてもよく分かります。
真剣に育てようとしている事が分かるから、ついていこう、
と思うのかもしれませんね。

以前藤原竜也クンが映画の撮影で行き詰まり、ロケ先から
夜中に蜷川さんに電話をして弱音を吐いたと話していました。
ただ単に怖い人なのではなく、そんな時に頼れる相手であり、
絶対的に信頼しているんだな、と思った事を思い出しました。

そして、そんな蜷川さんに食らいついていこうとする俳優が
たくましく、素敵に思えてきます。
また、実際にここに取り上げられた舞台の多くを観ていたから、
なおさら感慨深かったのかもしれない。
「お気に召すまま」の再演を小栗君が断ったら、蜷川さんが
「キサラギ」の撮影場所まで説得に来たって話も興味深くて。

観はじめた頃は「何でこんなアイドルを使うんだろう。話題性?」
なんて思ったりもしましたが、実際に舞台を観ると「へぇぇ」と
思うほど良かったりして、蜷川さんの舞台に出ている役者で
「こりゃゼンゼンだめだ」なんて思う人は殆ど居なかったと思う。
きっと蜷川さんの新人を見つける嗅覚と、預かった以上は
ちゃんと育てるという覚悟の賜物なんだろうな。

今となれば自分でキャスティングまで出来る数少ない演出家。
なのに「俺はフリーの演出家だから」「フリーの仕事は不安定」
なんて感覚を蜷川さんが持っているのは意外でした。

この本を読んだら、過去の舞台をまた観たくなっちゃった。
「カリギュラ」良かったもんなあ。「タイタス・アンドロニカス」や
「わが魂は輝く水なり」も大好き。「NINAGAWA十二夜」や
「オセロー」も良かった。「間違いの喜劇」も面白かったなー。
夏休みには、過去の舞台映像を改めて観なおしてみるかな?
なんて思ったのでした。