「二都物語」の後、多くのホタルイカ達と浦井王子の誕生日を
お祝いした後、向かったのは三軒茶屋の世田谷パブリックシアター。

春琴「春琴 shun-kin」
世田谷パブリックシアター1列目
19:00開演、21:00終演
作:谷崎潤一郎「春琴抄」「陰翳礼讃」より
演出:サイモン・マクバーニー
出演:深津絵里、成河、笈田ヨシ、立石涼子、内田淳子、麻生花帆、望月康代、端木健太郎、高田恵篤、本條秀太郎(三味線)
【あらすじ】 
盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。幼い頃から春琴に付添い、彼女にとってなくてはならぬ人間になっていた奉公人の佐助は、後年春琴がその美貌を何者かによって傷つけられるや、彼女の面影を脳裡に永遠に保有するため自ら盲目の世界に入る。


前々から観たくて、でも毎回タイミングが合わなくて見送っていて
やっと観る事ができました。このスタイルの上演はこれが最後とか。

開演近くにトイレに行くと、どこかで聞いたような音が・・・。
“JR渋谷駅の構内放送”のような・・・。でもここは三軒茶屋。
おまけに、この劇場から駅の音なんて聞こえたっけ?
と思い、一瞬気のせい、と思ったのですが、劇場に入ると本当に
渋谷駅の雑踏や校内放送が延々と流されていました。

今回はC列だったので3列目に座ろうとしたらそれはE列。
パッと見は分かりませんでしたが、結構な張り出し舞台になっていて
奥行きのある舞台になっていました。
そのために前方の2列を潰したんですね。
・・・と言う事で、思いがけず最前列からの観劇となりました。





立見もすごくて、カーテンコールも5回だか6回だかで拍手鳴り止まず。
本当にすごい舞台だなあと思いました。とにかく全体が緻密。そして静謐。

「春琴抄」を「陰翳礼讃」の世界で舞台化したって感じなんですよね。
「春琴抄」自体も面白いとは思うのですが、「陰翳礼讃」のエッセンス
のほうが私としては非常にインパクトが強かったです。
たぶん、“私たち日本人が気づかない日本”というか、“外国人から
見た日本”にはこんなイメージがあるんでしょうね。
確かに“わびさび”と言うか、“影”や“闇”を活かしてきたのは
日本文化の特徴かもしれません。

まずは途切れないシームレスな演出がすごい。
具体的なセットが無いのに、棒切れが戸になったり・・という見立てもすごい。
そして何よりあの人形がすごい。
「人の怨念で生きてるんじゃないだろうか」と思うような動き。
表情がないのに、人形の表情が見えたような気になってくる。
そしてそれに合わせる深津さんのセリフが素晴らしいし、
(あの声・セリフがあったからこそ、人形が生きて見えたのかも)
途中から人形と深津さんが重なって見えてくるんですよ。

気位の高い、かんしゃく持ちのお嬢様。
でも「連れてって」と出される(人形の)手には“女の子”らしさが
感じられてて。どうしてそう感じたのかも分からないんだけど・・・。
そして成長すると人形も大きくなるのだけど、これがまた人形のくせに
色気があるというか、エロいというか。
「人形と人間」の演技なのに、ちゃんと“春琴”と“佐助”で成立してる。


「じぇじぇじぇ」なんてセリフもあってクスっとできる所もあるんだけど
春琴抄と現代との重ねあわせ方も上手いなあと思いますね。
それにしても、立石涼子さんの声って、落ち着いていて本当に素敵。
いつまでも聞いていたいと思うような声でした。

そしてラスト。
明るくライトがついた舞台は、目が明けていられないような眩しさで。
「これを普通に見ていたのか」
と自分で驚くぐらい。この舞台が明るすぎて、最初は目を開けて
見られなかったように、明るすぎる現代で逆に見落としてしまっている
ものがあるのかも?と思わせられるシーンでした。

耽美主義の世界はちょっと私には理解しがたい部分もあるのだけど
それでも魅力的に思えたこの舞台は本当にすごいと思います。
この舞台こそ、生で観れて良かった♪