このキャストですから観たいと思いつつ、平日夜に会社帰りに稲沢かよ・・。
と気持ちが萎えたのですが、土曜日は既に遠征の予定が入っており
金曜日しか選択肢が無い。・・・行きますか。遠征する程でも無いし。

ロスト・イン・ヨンカーズ「ロスト・イン・ヨンカーズ」稲沢市民会館1列目
19:00開演、22:15終演
作:ニール・サイモン  上演台本・演出:三谷幸喜
出演:中谷美紀、松岡昌宏、小林隆、浅利陽介、入江甚儀、長野里美、草笛光子

【あらすじ】
1942年、第二次世界大戦中のニューヨーク州ヨンカーズに住む厳格で人を寄せ付けず、決して笑わない母ミセス・カーニッツ。少しおつむが足りないながらも、女性として幸せを得たいと願うベラ。妻に先立たれ借金返済のため、息子二人を母に預け出稼ぎ中の長男エディ、地元のギャングから身を隠すために家に舞い戻ったベラの兄弟ルイ。「結婚」によって母の呪縛から解き放たれたが、幼少時代に母に植えつけられたトラウマのせいで、喋っているうちに過呼吸になってしまうガート。4人の兄弟たちが不器用なりに一生懸命生きる姿を、祖母ミセス・カーニッツの家で父エディの帰りを待ち続ける二人の少年(ジェイとアーティ)の目を通して描く「家族の物語」。


18時過ぎ、名鉄名古屋駅では、名鉄電車に乗り慣れない人がいっぱい。
(ホームが一つだけで、その前後で各線を乗り分けるという独特な
乗り方をするんですよね、名鉄は。だから分からない人が居るんだなあ。)
最寄駅の国府宮を降りると一斉に皆さんタクシー乗り場へ。
けど、時間もあまりないし、タクシーの数にも限りがあるので私は
不確かなタクシーを待つのではなく、反対の出口を出て、歩いて劇場へ。

駅から会館までは2キロ弱。街灯も殆どない真っ暗闇。
元々住宅街だし、車で移動する事を前提としたエリアだから仕方ないけど。
途中に「ロスト・イン・ヨンカーズ→」と書いた交通整理のスタッフ多数。
運営にお金がかかりますねぇ・・。
ここでやらなければかからない費用でしょうに(爆)。

等と、心の中でブツクサ文句を言いながら開演7分前ぐらいに着席。
観客は全体の8割ぐらいの入りでしょうか。
平日での稲沢公演、1300席超の会館なので、上出来かもしれません。



三谷さんがニール・サイモンを敬愛している事は聞いた事があります。
そういう意味では、三谷さんにとって特別な思いがある公演かもしれませんね。

まず何と言っても祖母のミセス・カーニッツを演じた草笛光子さんが
素晴らしかったです。
この人を見ていると、亡くなった祖母を思い出します。
共働きで平日の昼間は家に居なかった母の代わりに子どもの頃
私の面倒をみてくれていたのは、同居していた祖母でした。
ミセス・カーニッツ程ではないけれど、戦時中に女手一人で父と叔母を
育てた人でしたから、それはそれは厳しくて、何度もひっぱたかれたし
お菓子やお小遣いをくれたりなんかは絶対になかったし、
家事の手伝いもさせられた。行儀にしてもとにかく厳しい人でした。
そんな人だから本当に祖母が怖かったし、いかに祖母を怒らせないか・・を
考えてばかりでした。(ちょっとした家出未遂もどきをした事もあったな(笑))

だからね、ジェイとアーティの気持ちも分かるんですよね(笑)。
ただそれと同時に自分自身も歳をとり、当時の祖母の気持ちも
理解できる部分もあったりする。
そういった気持ちの変化を3時間の舞台の中で改めて感じたというか。

母はベラおばさんの事をちゃんと考えて心配していた。
エディの事も、その妻の病気や治療費のことだって心配していながら、
自力で乗り越える事を期待していた。
親として子供たちの事を心配していたのだけど、その気持ちが
ちゃんと相手に伝わっていなかっただけなのよね。
というか、ちゃんとお互いに気持ちを伝えてこなかったために起こる
様々な掛け違い。子供を少し見くびっていたのかもしれない。
子どもは親が思うよりも成長していた。
その事実を知った時の、草笛さんの表情がたまりませんでした。
そして彼女の泣く姿は、ある意味舞台の中で初めて怒り以外の
“感情”を露わにした瞬間。
この涙の中に彼女自身の「子供に対して心を閉ざしてきた事に対する後悔」
を見た気がします。

ベラを演じた中谷美紀さんもビックリでした。
元々舞台は“猟銃”でしか拝見した事がありませんが
(そもそも舞台は今回が2度目でしたね)ここまではっちゃけた役を
演じるとは思ってなくて。
最初観た時は「これ・・・本当に中谷美紀ですか?」と思ったぐらい。
いつもスカートをつまんでヒラヒラさせていて、あまりに気前よく
ヒラヒラさせているので、中のショートパンツペチコートが見えて
しまっていました(爆)。“見せていい下着”っぽかったですけどね。
でも、自分の中にある矛盾や、自分では処理したり理解しきれない
感情を涙ながらに母親にぶつけるシーンはもう「さすがですね」
としか言いようがなく、映像だけでなく舞台でも素敵な女優さんなんだな
と思わずにはられませんでした。

汗だくの小林さんも魅力が活きてましたねー。
「このお父さん、出稼ぎ中に死んじゃうんじゃないか?」と心配しましたが
無事に帰って来たし、自分が出稼ぎをやり遂げた事で母親に対して
自信を持って接する事が出来るようになったのも、分かり易かった。
長野里美さんはお久しぶりに拝見しますが、ちょっと出番が少なくて
残念だったかなー。
松岡君は思ったよりも出番が少なかったけど、いい意味でイメージ
通りの役で生き生きしていらっしゃいました。
途中で袖のボタンをソファーカバーのレースに引っかけてしまったようで
「取れなくなっちゃった。取って、取って。」と言って、浅利君と入江君に
外してもらっていたのが微笑ましかったです。

間違いなくちょっと変わった家族だと思うのだけど、観ていると
普遍的な家族の話に思えて来ます。それがこの舞台の魅力なのかも。
観ている人が私のように自分の家族と、どこかしら照らし合わせて
共通点を探してしまう舞台かもしれないなーなんて思いました。
派手さは無いし、演出に三谷さんらしさを感じる点もあまりなかった
のですが、逆に言えば三谷さんが丁寧に、奇をてらわずに演出を
なさったからなのかもしれないな、とも思います。

でも・・・やっぱりもうこの場所は勘弁して欲しいです・・・・。