イキウメ好きな私が見逃すはずがないのですが、今回は
アテにしていた大阪公演と他の舞台の調整がつかず、慌てて
東京公演に方向転換。午前はホットヨガに行き、夜公演に
間に合うように東京へ出掛けてきたのでした

語る室「カタルシツ『語る室』」 東京芸術劇場 シアターイースト
D列(2列目)   18:00開演、19:50終演
作・演出:前川知大
出演:浜田信也、安井順平、盛隆二、大窪人衛、木下あかり、板垣雄亮、中嶋朋子
【あらすじ】
口から出まかせ。想像するとは、知らないことを思い出すことだ。
田舎町、ある日の夕方。人気の無い山道で、三歳児と幼稚園送迎バスの運転手が姿を消した。軽のワンボックス車はエンジンがかかったままで、争った後は無かった。手掛かりはほとんどなく、五年経った今も二人の行方は分からないままだ。消えた子どもの母。その弟の警察官。バス運転手の兄。そして、三人が出会った人々…。帰ることのできない未来人。奇跡を信じて嘘をつき続ける霊媒師。父の死を知り実家を目指すヒッチハイカー。父の遺品の中に見つけた免許証を、持ち主に届けようとする娘。彼らを通じて、奇妙な事件の全貌が見えてくる。


これは厳密にはイキウメの劇団公演ではなく別室「カタルシツ」。
劇団ではできないような事をやりましょう、という趣旨のシリーズで
今までは安井順平さんの二人芝居、再演で一人芝居で「地下室の手記」
が上演されてきました。

今回は劇団員の伊勢佳世さんと岩本幸子さんが不参加、中嶋朋子さん
という誰でも知っているような有名な女優さんが客演で出演されていること、
音楽が、かみむら周平さんではない等いつものイキウメ公演からは
最初から少し雰囲気が違っていましたね。

違うと言えばセットの雰囲気もかな。
イキウメ公演はシンプルであまり具象化されていないセットが多いけど
今回はセンターに大きな枝振りの白い大木がドンとそびえています。
枝の一部が欠けていて、時の欠落をイメージしているかのようですが
何となく上手のテーブルと椅子も含めて「星ノ数ホド」を思い出してしまいました。


 
最初はのどかにバーベキューの準備のシーンで始まります。
場所は金輪町。でた!金輪町(笑)!
イキウメを何作か観た方ならお馴染みの町名ですよね。
最近だと「聖地X」の舞台でもありました。椎茸の産地でしたっけ(笑)?
前川さんは、以前使った固有名詞を(繋がりなく)何度も使われる
ので、覚えてしまいました(笑)。

テンポの良い会話と見た目を裏切る板垣さんのおネエ言葉に
クスクス笑っていたのですが、これ・・・普通の舞台じゃん。
何が”語る室”なんだろう・・・?と思った時に気づきました。
もちろん普通の台詞で舞台は進行していくのですが、それぞれの
”語り(モノローグ)”で構成されているんだ、という事を。
これ・・演劇的には”第三の壁”って言うんだっけ、”第四の壁”
だったっけ・・・? 
でも「地下室の手記」で鍛えられたからか、もともとお笑い芸人
だったからか、安井さんのモノローグって上手いわぁ。

そしてもう一つの特徴が、時間が激しく交錯していること。

子供と運転手が失踪したのが「2000年9月22日」。
失踪した関係者たちがバーベキューしている今日が「2005年9月22日」。
そこがリンクしているのですが、それに加えて失踪した子供が
「2005年9月22日」に成長して現れたり(確か20数歳って言っていたと
思うので、逆算すると1980年前後に行ってしまっていたという事ですよね)、
失踪時に生まれたばかりだった運転手の息子が2022年から来て
しまっても居たり(22歳の状態で)・・と、書いている自分も「ん?」となって
こんがらがってくるぐらいです(笑)。
でも、舞台が進むにつれて、別の時間軸での視点や、同じシーンが
繰り返されることによって全体像が浮き上がってきて、謎が
一つ一つ紐解かれていくのは面白いです。

そして目を奪われるのは、子供が失踪し、我を忘れてしまう姉の和子。
思い込みと(半ば)妄想、藁にもすがる思いで子供を探す様子は
本当に痛々しくて。
イキウメに(厳密には劇団公演じゃないけど)中嶋さんが出演される
様子が想像できなかったのですが何の違和感もなかったです。
痛々しいのは和子だけじゃなく、犯人に疑われた幼稚園バスの運転手の
家族が受けた誹謗中傷、そのせいで家族が離散していく様子もだし、
必死に姉の行動を止めようとしても止められない弟の無力感もで、
見ていて辛くなってきました。
ここだけで1本の舞台ができるんじゃないの?ぐらい。

ただ今回は、単純にそういう心理面を描くだけとか、謎解きの
カタルシスを得る舞台ではない気がします。
たぶん・・イキウメの作品ならば、きっと何らかの解決が最後に
提示されたんだという気がします、今まではそういう作品が殆どでした。
でも今回は解決するかもしれないけど、解決しない気がしたんです。
過去に行った子供も、未来から来た子供も、もう戻れないんじゃないかと。
「なぜこうなったか」には答えが出されるんだけど、「ではその状況を
解決する方法はあるのか」には答えないままです。そして物語も
その解決策を探る方向には進まない。
それが今までと違う、という印象になっているんですよね。

ヒッチハイカーを突然のせた姉の和子。
このヒッチハイカーがあのとき失踪した彼女の子供だ、と客席は気づくけど
姉は気づかない。「育ててくれた養父母に感謝しなさい」と言って別れてしまう。
盗んだ財布から、自分の父親の運転免許証を見つける和男。
戸籍がないがゆえに、自分をひきとった養父が保険適用を受けられず
満足な治療を受けないまま死期を早めたと知った大輔。
物理的にはこんなに近くに居るのに、すれ違うばかりの人たち。

ただその状況が悲しく辛いだけではなくて、“現在”を受け入れる事が
「生きる」ということの一つの答えなのかな、という気持ちになりました。
新たに”習字セット”を買ってきて、最初から始めようとする和子や
過去のわだかまりを乗り越えて一緒にバーベキューをする宗雄に
そんな感覚を持ったんです。

「想像するとは、知らないことを思い出す事だ」
凄い発想だな、と思います。前川さんらしいというか。
やっぱりイキウメの劇団公演とは違う。
でもやっぱり前川さんの作品だねーと思います。
安井さん以外の劇団員の皆さん、いい味を出していたのは間違いない
のですが、出番が皆さん少なかったのは残念かな。
あと、どうせなら事件当日の「9月22日」に観たかったな(笑)。

次は来年5月に「太陽」の再演とか。これもまたまた楽しみでございます。
次回公演