今日はこまつ座の2本だて。
どちらかというと、こちらの方が観たかったんですよね。

マンザナわが町「マンザナ、わが町」紀伊國屋ホール6列目
18:30開演、21:40終演
作:井上ひさし   演出:鵜山仁
出演:土居裕子、熊谷真美、伊勢佳世、笹本玲奈、吉沢梨絵

【あらすじ】
1942年3月、カリフォルニア州マンザナ強制収容所。 4か月前の真珠湾攻撃以来、日系アメリカ人に対する「排日」の気運は一気に高まっていた。特に西海岸在住のおよそ十一万人は、奥地に急造された十カ所の収容所に強制収容されることになった。 そのうちの一つ、「リンゴ園」という意味の名の土地につくられた「マンザナ収容所」。砂漠の真ん中のバラックの一室に集められた五人の女性たち。ジャーナリスト、浪曲師、舞台奇術師、歌手、映画女優―。収容所長から彼女らに下された命令は「マンザナは決して強制収容所ではなく、集まった日系人たちの自治によって運営されるひとつの町なのだ」という内容の朗読劇『マンザナ、わが町』の上演。 日系人として受けた差別的な境遇を語り合い、自分の中の日本人らしさとアメリカ人らしさが明らかになるなかで、アメリカ建国の理念とは反している収容所を美化した台本の内容をめぐって激しく対立する五人。 果たして『マンザナ、わが町』は上演されるのか。 


興味のあったのはキャストです。
女性5人だけなんですが、イキウメの伊勢佳世さんが客演と知り
なんだか保護者気分で来たんですが、バラエティ豊かな座組でした。

感想は追記にて



 
戦争中にアメリカで日系人が強制収容所に収容されたり、
財産を失ったり、という話は知っていましたが、この「マンザナ強制収容所」
については、全く知りませんでした。

まずは舞台はオトメ(熊谷真美)とソフィア(土居裕子) の二人のシーン
から始まります。二人の会話から、彼らの置かれている状況が徐々に
分かるのだけど、それ程「緊迫した」と言う感じではなく、何となく
諦めなのか、開き直りなのかもあるような、大らかな印象すらあります。
戦争が激化する前だったからなのかもしれませんが。 

そこに歌手のリリアン(笹本玲奈)、 女優のジョイス(吉沢梨絵)
「ヘルプ」するのが仕事というサチコ(伊勢佳世)がやってきて、
その会話から彼女たtの関係性が分かっていきます。
同じ収容所に入れられていても、オトメは日系1世であり、それ以外の
4名はアメリカ生まれでアメリカの市民権を持つ日系2世。
(厳密にはサチコは別枠と言う事になりますが。)
だからアメリカと言う国や、“祖国”の捉え方が微妙に違っていたりする。
けど、アメリカからは一括りにされて、対等に扱われない
(日系人だからと言う事で不当に扱われている)事に悩むのは
同じだったりもするんですよね。
女性のツルみ方やら喧嘩の仕方は日本ぽいんですけどね。

以前、前川知大さんが伊勢さんに対して「いい役もらったな」と
ツイートしていらっしゃったのを思い出しましたが、このサチコ
という役の破壊力は相当なモンです(笑)。
彼女は演技はお上手だと思っていましたが、こんなにはっちゃけた
演技をする人でしたっけ?と思うぐらい。
次から次へと飄々とメモ帳を出す様子が可笑しくって。
お隣のご夫妻は休憩中パンフレットで伊勢さんを真っ先に
チェックされていました。(「“イキウメ”って何〜(笑)」と言ってましたが)

熊谷さんも凄い存在感。浪曲までできるんですか?!
遠慮が無くてガラッパチ。火事騒動を起こしてまでサチコの正体を
暴くような行動力がある女性は、まさに日系1世として苦労を
しながらも逞しく生きてきた女性なんだろうと思わされます。
土居さんの理性的だけど思いつめると一直線という感じも
とても合っていたと思います。それにしても素敵な声!

今回は伊勢さんが目的で、その他の出演者については殆ど
チェックせずに行ったので、観ていて「なに、この歌の上手い人!」
と思ったら、笹本玲奈さんと土居裕子さんでした(笑)。
だってー、笹本さんはメイクによって雰囲気が全然違うんだもん。
(余談ですが、吉沢さんはアイドルの人かと思っていたんですが
元・劇団四季にいらっしゃった方なんですね、スミマセン・・。)
今思えば、大作のミュージカルでも出来ちゃうぐらい歌ウマさん
揃いのキャストだったのですよね。なんか勿体ない・・・(笑)。

この5人の演劇部が上演しようとしていた「マンザナ」という
政府のプロパガンダを絵に描いたような脚本も、ソフィアの
演出も陳腐すぎて、とてもじゃないけど・・・と思っていましたが
1曲だけ4名が自然発生的にハモった歌がありました。
あれはもう、息を飲むほど素敵で、この歌を替わりに上演したら
すごく人気になるだろうになあ・・と思ったぐらいです。

サチコは実は日系人ではなく中国系アメリカ人の人類学者で、
「マンザナ」の作者でもあり、この作品を通して4人を研究
しようとしていた事が分かり“裏切り”と言い非難されてしまいます。
でも結局4人はサチコを受け入れ、ソフィアが他の収容所へ
送られる事をみんなで協力して阻止することに。
うーん、その程度の事でホワイトハウスからの命令を簡単に
覆す事が出来るのかどうかが分からないし、「演劇」を熱く語るけど
私自身はそこまで「演劇」を崇高なモノとは思っていないし
そこまで演劇に没入しているようにも見えなかったので、
何だか・・ちょっとこそばゆくなってしまったのが正直な感想です。

ただ、日本が古来より世界の様々な文化などを受け入れ、
自国に取り入れ、日本文化として“美味しいおじや”を
作ってきたことは間違いがなく、「マンザナ」を上演することが
その“おじや”だという事は受け入れられるかな。

女性5名の個性がとても活きていて見応えバッチリの舞台。
私にとって、この戯曲は、すごく印象に残る・・というものでは
なかったけど、それでもやはり観て良かったな、と思った1本です。